円卓の騎士
侍女に通された部屋の扉を開けると、中には大きな円卓があった。
その円卓
二つの席を除いた他の席には、先程の騎士達が着席していた。
マーリンは葵と蘭に目をやると、席に着くよう促した。
「さて。まずは、円卓の騎士について説明せねばならんな」
「円卓の……騎士?」
マーリンは葵と蘭に説明を始めた。
「まず、この円卓では上下関係はない。円には始まりも終わりもないだろう? すなわち……この円卓においては、王も騎士も関係なく各々が自由に意見を述べられるのだ」
葵も蘭も、頷きながらマーリンの言葉に耳を傾ける。
「さて、この円卓の騎士だが……この者達は王に永遠なる忠誠を誓っている。この者達は王を、自分の命に変えても守り抜く義務があるのだ」
「命……?」
その物騒な言葉に、葵が反応する。
「そうだ。逆に、王はこの国の繁栄と富を民に与え続けなければならない。それが王の義務だ!」
マーリンの説明は、単純で分かりやすかった。
「でも……俺は、この国を知らない! そんな俺に王としての責務が果たせるのか……正直分からない」
葵は、そう言うと俯いた。
「そんな事ない! 何も知らない私達が王に選ばれた……きっと、それには何か理由があるはずだよね!? 私は……王として、何処まで出来るか自分を試してみたい!」
葵とは対称的に、蘭は目を輝かせながら言った。
「そうだ。聖剣が間違うはずがない! 先代も、それ以前の王も……皆、この国を繁栄させてきたのだ。今はその意義が見出だせずとも、いつか分かる時が来よう」
マーリンの言葉に、円卓の騎士達も頷いた。
「さて、騎士の紹介をしよう。現在、騎士たちは男女6名ずつ……計12名居る。彼等は王の護衛だけでなく、一隊の長としての役割も果たしているのだ。……ランスロットとマーガレットに関しては、もう紹介はいらないな?」
二人はコクりと頷く。
「ランスロットの隣から、ガウェインだ」
「おう!よろしくなっ!!」
ガウェインは赤い髪と赤い鎧が印象的で、騎士内一かと思える程の筋肉質だった。
「ガウェインの隣が、パーシヴァル」
「新王様……お困りの事が御座いましたら、何なりとお申し付け下さいませね?」
物腰の柔らかいパーシヴァルは、茶色い長い髪を上で束ね上げ、緑色の鎧と同じ色のその瞳は、まるで宝石のようだ。
「パーシヴァルの隣が、ガラハットだ」
「よろしく……」
紫色の髪と瞳をもつガラハットは、まだ幼さの残る顔立ちに、他より少し小さな黄色の鎧を纏っていた。
「ガラハットの隣が、ボールス」
「こんなに可愛らしい姫君が新王様だなんて……騎士冥利に尽きるねぇ!!」
長い金髪に金色の瞳をもつボールスは、純白の鎧を身に纏い、さながらお伽噺に出てくる王子様の様だ。
ただ……軽そうな人格を除いては。
「ボールスの隣が、ガレスだ。男はこれで最後だ」
「ガレスと申します。新王様の御心のままに……」
先程のボールスとは対照的な印象のガレスは、長い黒髪に漆黒の鎧を身に纏っていた。
蘭は、美形な騎士たちに大興奮な様子だった。
「蘭……興奮しすぎだ。とりあえず、座れ!」
「だってー。みんな王子様みたいなんだもんっ。見た事も無いような美形揃いだよ? 私……誰を選べば良いか分かんないよ」
「……誰も選ばなくて良いから!!」
葵は深い溜め息をついた。
「さて。マーガレットの隣から紹介しよう。まずは、ケイだな」
「ケイ……と申します。以後、お見知り置きを……」
ケイは腰まで伸びた長い黒髪をかき上げる。髪とは対照的な白い鎧や紫の瞳が高貴な印象を持たせる。
「ケイの隣が、ベディヴァだ」
「新王様!私の事は気軽に、ベティとでも呼んでくれ!」
女版ガウェインと言うべきか、ガウェインと同じ赤くて短い髪に赤い鎧……姉御肌気質な性格に、好感を持つ。
「ベディヴァの隣が、ユーウェイン」
「ユ……ユーウェインです」
消え入りそうな小さな声で俯きながら話すユーウェインは、唯一の眼鏡姿で、フワフワの長い若草色の髪と鎧が良く似合う。
「ユーウェインの隣が、ディナダン」
「私はディナ。新王様に神のご加護を……」
ディナは、金髪に長いストレートのツインテールを揺らしながら頭を下げた。
漆黒の鎧は、ディナの雰囲気に良く合っていた。
「最後に、フローレンス」
「んふ……フローレンスと申しますわ」
桃色の長い髪を上で束ね、淡雪の様な白い肌には髪と同じ色の鎧を身に纏っている。
豊満な肉体と露出度の高い鎧、そして色気のある雰囲気は、騎士と呼ぶには些か異質に感じた。
「さて……これで紹介は終わりだが、まぁすぐに全員を覚えるのは不可能だろう。この1週間は、まずは城内や騎士に慣れてくれれば良い。1週間後より、王としての仕事や鍛練を始めよう。それでは……解散!!」
マーリンは一方的にそれだけ告げると、足早に去って行ってしまった。
取り残された葵と蘭はお互いに顔を見合わせる。
「ラン~!!」
蘭に声を掛けてきたのはボールスだった。
「城内を案内するから付いておいで? 蘭に見せたい、お勧めの場所もあるんだ!!」
「えっと……」
蘭は葵の様子を伺う。
「行ってこいよ」
葵の一言に、蘭は一瞬にして笑顔になる。
「姫王……お手をどうぞ」
「……はい」
ボールスと蘭は手を取り合うと、部屋を後にした。
「さてと……」
葵は立ち上がる。
「葵? 何処に行くの?」
「俺は……少し休むよ。少し、疲れたから……」
そう言うと、葵は部屋へと戻った。
活発で好奇心旺盛な「蘭」
消極的で慎重派な「葵」
対照的な二人が造る一つの国
それが、どんな世の中になるのか、は
まだ誰も知らない……




