夜の守り手
ナルドの街への襲撃は、それから何度も繰り返された。
一周目では魔族に占拠された後に一度奪還するだけで済んだし、これ以上被害は増えようがないから気楽だったけど、今回は街の中に普通に人が暮らしているからそうはいかない。
今夜も外壁の外で人知れず街を守り抜き、
「あー疲れたっ!!」
私はぺたんと地面に座り込んだ。
操者を失った魔族の骸たちが崩れ落ち、辺りの平野は死屍累々の静寂に満たされる。ナルドの街もぐーすか眠りこけていて、みんな全然なんにも気付いてないんだろーなー、呑気だよなーとか思ってしまう。
「お疲れ様です、ネネ様!」
フランが魔族の返り血で血まみれになった笑顔で駆け寄ってきた。
「なんかこれ……キリなくない? しかもクエスト発生してないから私が無駄に頑張ってるだけで、ただ働きじゃない?」
「陰ながら街の人たちを守るネネ様、とても格好いいです! 憧れます!」
無邪気な視線を向けられると居心地が悪い。私はほっぺたが熱くなるのを感じながら靴を踏みならす。
「か、格好良さなんてどうでもいいんだよ! 私が欲しいのは報酬と名声、そして勇者たちへの復讐! こんなことに時間かけてる暇はないの!」
「申し訳ございません……私が馬鹿なせいでネネ様に不愉快な思いを……」
私より背は低いのに縮こまるフラン。なんだかいじめてるみたいだからやめてほしい。
「……謝らなくてもいいんだけど。ていうか、あんまり長居してると勇者たちに追いつかれそうなのも怖いんだよね」
「……ネネ様の宿敵たる勇者たちですね。この世に存在していてはならぬ鬼畜外道、ネネ様に牙を剥く無知蒙昧にして傲岸不遜な塵芥たち……」
「う、うん。そんな感じ」
この子、難しい言葉知ってるなぁ。
「ご命令あらば私が始末しますが、いかがいたしましょう」
「そこまでしなくていいよ! 死んじゃったら復讐もそこで終わりだし!」
「ですが、世界にとっての害悪は早めに駆逐しないといけないのでは」
「あいつらには一応、天空神の加護もついてるの! 天空神から選ばれた勇者たちだし! ヘタに手を出したら断罪のワルキューレたちが襲ってくるんだから!」
だいたい、そんなやり方じゃあの外道たちと同じだ。あいつらにはもっと徹底的に、ねっちりと、地獄というものを味わってもらわなきゃいけない。
……それはそれとして。
「このままじゃ、私の体力が保たないんだよね。魔族の群れがやって来る大元を潰しちゃわないと」
「根城をご存じなのですか?」
「もっちろん! 私はなんでも知ってるからねっ!」
ででんと胸を張る。ぺたんこだけど。
「さすがネネ様です! ネネ様の素晴らしい叡智には、叡智の神のソフィアも勝てません!」
「だからそういうのやめなさいってば。神々ってすごく嫉妬深いし容赦ないから、怒らせたらめんどくさいんだよー!」
とはいえ、フランに褒められるのは嫌いじゃない。ちょっと嬉しい。
「この街の近くに、ヴァンパイアの館があるの。そこに忍び込んで、指揮官をさくっとやっちゃおー!」
「はいっ! どこまでもお伴します!」
私はフランを連れて出発する。
一周目で表も裏も知り尽くした、吸血貴族の秘密の館へ。




