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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第十二章 もとの世界へぶっとびます
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5 瞬間転移させられます


 止まってた心臓が動きだし、バクンとさらに一段加速した。


 どくどく、どくどく。

 ああもう、俺の心臓うっせえわ!


(それにしても……)


 なんか違和感があるんだよな、こいつ。そもそも、こんなに小さかったっけ。前は俺からちょっと見上げるぐらいだったはず──


(あ。そっか)


 そうじゃねえな。俺の身長が違うんだ。

 シルヴェーヌちゃんは今の俺より十センチぐらいは背が低かった。今の俺は、クリスとほとんど身長差がなくなってる。だからこうなるわけだな。なるほど。

 いや、今はそんなことはいい。


「って、何やってんスか! あんたは帝国を継ぐ身でしょうがッ!」


 俺がどんな思いであんたをあっちに残してきたと思ってんだ、ふざけんな。


「そんなことより」

「そんなことって……あんたなあ!」

「褒めてはくれないのか? そなたをひと目で見分けた私を」

「はああ? って。あ、そっか」


 その事実にやっと気づいて、また心音がギアを上げた。

 そうだよ。俺はもう「美少女」シルヴェーヌちゃんの顔はしてねえんだ。

 今の俺は、ただの田舎のイモくせえ野球部員の高校生。それ以上でも以下でもねえ。どこをとっても派手さの「は」の字もねえ、ただの「フツメン」。なんならニキビがちょっとしたおまけでついてくるぐらいなもんだ。

 それをまあ、よくぞこの人、ひと目で見分けられたもんだよ。

 すげえわ、マジすげえわ、尊敬するわ。てかエスパーか?


「どうなのだ? ケント」


 皇子は俺の手をしっかりと握ったまま、じっと俺の目を見つめてくる。


「いや……あのそのどのその──」

「これぞ、私のまことの愛の証左だとは思わないか?」

「いやいやいや、やめろやあ! そんなこっ恥ずかしーこと言いながら至近距離でグイグイ来るんじゃねえわもう~!」


 しかもそんなイケメン顔で!

 こんな田舎に来るんなら、若くするだけじゃなくってもうちょっと地味にしてくりゃいいもんをよー。俺の心臓がもたねえーっっ!

 でも、皇子は一ミリも譲歩する気はなさそうだった。むしろ握った俺の手を引き上げて、その甲に軽くちゅっと口づける。


「ひょえおわあああ!! なにすんだああ!」

「だから。大きな声を出すなと言うのに」

 半眼でにらまれた。

「むっ……ムチャ言うなあああ!」


 だったら手にチュッとかやめろ、ぜひやめろ!

 俺は皇子の手から自分の手をとりもどし、控えめに皇子の体を押しやった。


「いいからさ。ちょっと落ち着いて説明しろよ」

「説明?」

「だーから! どうやってこっちに来たのよ。あっちは今、どーなってんの。コレとかアレとかソレとかもろもろ、説明する責任があんでしょーが、あんたにはっ」


 言いながら軽く睨んだけど、皇子はカエルが水をかけられたほどの顔もしないでにこにこしていた。


「もちろん説明するとも。だが、今はあまり時間がない。昼食どきなのだろう? そなたは食事はどうするんだ」

「あっ。しまった」


 購買でパンを買うつもりだったのに!

 最初の出足で遅れると、あっというまに商品が無くなっちまうのにい!

 でも、俺にはこいつをつれて学食で食う勇気はちょっとねえ。あんまり金もねえし、目立ちまくりに決まってるしよ。

 皇子はなぜか機嫌のいい顔で笑って「だったらこれを一緒に食べないか」と、コンビニのマークが入ったビニール袋を差し出してきた。いや、庶民的な? 大体、今の今までそんなのどこに持ってたのよ。魔法使い? 魔法使いなの??

 大混戦を引き起こしてる俺の脳内をすっかり見通したような顔で、皇子がひとつ頷いた。


「こちら世界に来るに際して、色々と変化したことがあってな」

「ほへ?」

「そなただって、あちらに行ったことで大きな魔力を手に入れただろう?」

「……え。ま、まさか」

「その通り」


 皇子がそう言った時だった。

 いきなり視界がぐるんと(ゆが)んだ。

 それと同時に、遠くで「ちょっと場所を変えようか」という皇子の声がした。





 気がつくと、人気(ひとけ)のない河原に立っていた。

 さっきとまったく同じように、皇子と向かい合っている。周囲は森や林に囲まれていて、民家なんかは近くに見えない。

 川のせせらぎが耳に心地いい。空気がきれいだ。

 でも、俺はひとりでビビッていた。


「どっ、どど、どこよここっ!」

「心配しなくていい。学校からはさほど離れていないし、授業には間に合うように戻る」

「たりめーだろっ!」


 まったく、しれっとした顔してんなよ。

 皇子はまたどこから出してきたのか、さっさと可愛いチェック柄のレジャーシートを河原の木陰のところに敷いて、ちょいちょいと手招きをした。


「さあ、食事にしよう。話は食べながらでいいだろう」

「いや、あのさあ」

「腹が減っているんだろう?」


 と言われた瞬間、俺の腹がタイミングよく盛大な音を立てた。

 うぬう。なんか、なにもかもこいつの都合のいいように進んでないか?

 これも魔法か? 魔法なのかっ?


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