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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第十章 問題解決に向けて突っ走ります
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13 そしてまたもや大合唱です

 そこから現れた光景は、この前の何倍も印象的だった。


「ホンギャアアア──!!」

「ウアアアア──ン!」

「ビエェ、ビエエエエ──ン!!」


 見渡す限りの焼け野原に、転々と大小の影が転がっている。そのうちの多くが手足をバタつかせ、ギャン泣きしている赤ん坊だった。

 大きな種族もいれば、小さな種族もいる。

 大人だったらあんなに凶暴で、震えあがるぐらいの恐ろしさだった牛頭の巨人でさえ、可愛い子牛の頭をした赤ちゃんになっていた。指をくわえて、鼻をぴすぴす言わせながらべそをかいてる。

 かっわいい! もうなんていうか、「カワイイ」しか出てこないわ俺の貧弱な語彙力じゃ。


 魔王はなんとなくあきれたような半笑いの顔だ。一応厳しい表情を作ろうとしてるんだけど、時々マントで口もとをちょっと隠し、横むいて「プフッ」とか言ってる。

 笑ってやがるな、こんちくしょー。

 俺は半分むくれつつ、みんなに向かって大声をあげた。


「みんな、急いで! 手分けして、とりあえず赤ちゃんたちを保護してくださーい!」

「あ、ああ……」

「そうだなっ!」

「よし、みんな急げ! 散開して手分けし、ことに当たるぞっ」

「了解です!」


 そこではじめて、呆然としてたドラゴン隊のみんなが動き始めた。

 実は今回は、赤ん坊にするだけじゃなくてみんなの怪我も治癒できる、より強力な魔力球を使った。だからもう怪我人はいないはずだ。

 あの時点までに死んでしまってた人たちまでは救えなかったのが心残りだけど……とにかく、それでも今できることはやった。あれ以上、ムダに誰かが死ぬのは見たくなかったし。


 あ、そうそう。本当ならここで、焼き払われた植物や小さな虫たちなんかも再生してあげるのが本当だとは思うんだけど、さすがに今はそこまで一気にマナは使えなかったんだよな。ごめんね……!

 今度、また戻ってきて再生のお手伝いもさせてもらうからっ!


「ご苦労だったな、ケント」

「はあ……って、え!?」


(こいつ──)


 俺の耳がおかしいんじゃなかったら、いまこの魔王、「ケント」っつったよな?

 なんであんたがその名前を。

 疑惑満載で見返した俺を、少年魔王は薄笑いを浮かべて見下ろした。


「だから。そなたとあちらの皇子の恋の鞘当てまでも、すべて聞いておると申しておろうが」

「…………は?」


 一瞬、真っ白になる。


「って、いやいやいや! なに言ってんスかあんたー!」


 もうどこからつっこんでいいのかわかんねえ。趣味わるっっ!

 大体なんだよ「恋のサヤアテ」ってよ。見た目だけとはいえ、ガキのツラしてこっ()ずかしいこと言うんじゃねーわ。


「当然、そなたの真の名前も、またその理由もな。『なんでも知っている』と申すのはそういうことだ」

「え、えええ~!?」


 ってことは、俺が異世界から来てシルヴェーヌちゃんの体に入ってて、本当は男だってことも知ってるってこと? マジ? 知ってて今まで知らん顔して、あまつさえ「姫」呼びしてたってか?

 うわー。性格わるー。


(あれ……?)


 そこで俺はやっと、不思議な違和感に気づいた。

 魔王の背が、なんとなくいつもよりも高い気がするんだ。さっきまでは小学生ぐらいだったのが、なんとなく今は中学生ぐらいな感じ。

 このまま育ったら間違いなく「長髪イケメン」になる感じのアレだ。

 うわあ、なんかさらに感じわるーっ。

 あんまり変な顔をして半眼で見つめすぎたせいか、魔王は目を細めて軽く俺を睨んだ。


「ふん。あの程度の魔力放出では、なかなか元には戻らんか──」


 言いながら、自分の手を見つめて握ったり開いたりしている。

 ふーん。つまり、普段から膨大な魔力を抑え込んでることで、体が若返っちゃうわけね。なるほどー。


「というか、貴様。手伝いに行かなくていいのか? 赤子を一匹でも見落とすことになれば、寝覚めが悪いのはだれよりお前自身だと思うのだが」

「ハッ。そ、そーだった」


 それで慌てて、俺は「魔獣討伐作戦」から急遽「赤子救出作戦」に変わったこのミッションに合流した。

 ドラゴン隊だけじゃとても手が回らないんで、魔王は空中に《空間転移》のゲートを開き、魔都やその他の地域にいる魔導士や兵士たちもたくさん呼び寄せて、赤ん坊たちを運ぶ作業に集中した。

 結果、その場から救出されたのは何十人かの魔族と、何千という魔獣の赤ん坊たちだった。

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