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高校球児、公爵令嬢になる。  作者: つづれ しういち
第十章 問題解決に向けて突っ走ります
119/143

11 凄まじい魔撃の結果です ※

※残酷描写ありです。


 奴らが奪い合い、追いかけまわし、捕まえては食いちぎっているモノ。


 ……それは、やせ細った貧しい身なりの魔族の人々だった。

 もちろん牛や馬や羊によく似た生き物も、容赦なく食われている。


「蹴散らせ! 一人でも多くの民を救うぞッ!」


 鋭い少年の声が鼓膜を貫いて、やっと我にかえった。

 そうだ。

 俺たちはこれを救いに来たんだ。ここでショックを受けて呆然としてる場合じゃねえ。しっかりしろ、俺!


「ここで必ず食い止める! 魔撃隊、放てッ!」


 次の瞬間、ドラゴンやその他の翼のある生き物に乗った魔導士たちが、一斉に魔撃を撃ちはじめた。

 炎、電撃、氷の刃。さまざまな属性の攻撃魔法がつぎつぎに魔獣の群れを襲う。

 ──でも。


「ま、待って! 魔王さま!」


 魔獣どもの足もとでは、まだ逃げまどっている人たちの姿がチラチラ見え隠れしている。この状態で攻撃して、あの人たちが無事ですむはずがない。

 でも、俺の声はみんなの攻撃音にかき消された。


(うわ……!)


 魔王が高々とあげた片手に、魔力の塊が出現している。信じられないほどの大きさだ。

 あれはきっと、炎、雷、氷などいろんな要素が含まれた魔撃。きっと魔法攻撃としての最終兵器みたいなもんだ。


(だめだ。そんなのを撃ったら──)


 魔獣どもの足もとにいる、生き残りの人たちまで全部巻きぞえになるじゃないか!

 でも、俺の叫びはやっぱり届かなかった。

 魔王の手の上の魔撃は恐ろしいほどの大きさの球体になり、バチバチと紫のプラズマをまき散らした。周囲の空気が焦がされて、キナ臭いにおいがツンと鼻をつく。

 次の瞬間だった。

 魔王が上げていた手をサッと前へふると同時に、魔撃の巨大な球が魔獣たちに向かって突進した。空気を切り裂き、空間を歪ませる圧力が、鼓膜を破るような音を立てて魔獣の群れに激突した。


 ふ、と一瞬の空白。

 薄紙をはさんだみたいな奇妙な沈黙のあと、轟音と風圧がきた。


──ズドドドドド……


 魔獣たちは、悲鳴すらもあげられなかった。

 魔撃はそこら一帯を炎の爆発に巻き込み、膨れ上がって爆散した。

 その場所に忽然(こつぜん)と、ほとんど山ひとつぶん、いやふたつぶんはあろうかという火の玉が出現したんだ。


(う、わあああ……っ)


 まるで核兵器みたいだった。ずっと昔に見たなにかのアニメのような光景が、いま実際に目の前に広がっている。

 でもこれはアニメじゃない。現実なんだ。

 でも、現実感はまったくない。

 俺はアホみたいに口だけ開けてたと思う。たぶん。


(いやいや! そうじゃねーって!)


 俺は必死で自分の脳を叱咤した。ぼーっとしてる場合じゃねえわ!

 目を凝らして様子を見る。

 光と轟音がしずまったあとには、阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。

 体をほとんど消しとばされた魔獣たちが、自分の血と臓物にまみれて呻き、いもむしみたいにぐちゃぐちゃと動き回っている。それもごく一部のことで、ほとんどは丸焦げになったり、中心部ではなにもかも蒸発してなにひとつ残っていなかった。

 人は……だれも見えなかった。

 全部ぜんぶ、黒こげの炭みたいになって消えていた。


「そ、そんな……。そんな」


 こんなの、ダメじゃん!

 そりゃわかるよ。あれ以上の魔獣の侵攻を許すわけにいかないってのはさ。

 でも……これはダメでしょ。

 こんなんじゃ!

 せっかく助けようとしてた人まで殺しちゃったんじゃさ!


 混乱しておろおろしてるうちに、魔導士や兵士たちが魔撃の跡地へ飛んでいき、状況把握に努めている。

 俺は我慢できず、魔王のそばにドットを寄せて叫んだ。


「あのっ! 俺も行かせてくださいっ。助けられる人がまだ残ってるかもしんねえし──」

「そうだな。許可する」


 魔王は表情筋のひとつも動かさず、こっちを一瞥(いちべつ)すらしないで言った。

 ウルちゃんが何か言いたそうにしたけど、それを待ってることはできなかった。俺はドットを急がせて、すぐに跡地の方へと飛んでいった。


 現場は目を覆うばかりの惨状だった。

 肌を腐らせるんじゃないかと思うほどの悪臭が鼻を突き、ピリピリと目が痛んで涙が止まらなくなる。


(……ひでえ。これは、ひでえよ……)


 なにもかもが丸焦げだった。

 もとは人だったらしい形をした真っ黒な炭が、大きな口を開けたまま悲しそうに、虚しい(うろ)になった眼窩(がんか)を空に向けている。と思ったら、ほんの少しの風がふいただけでさらさらと崩れて散ってしまい、あとには黒く煤けた地面だけが残った。


(まだ生きてる人はいねえのか。生きてる人はっ……!)


 俺はドットをあちこちに飛ばして、その場を必死に駆けまわった。

 と、魔導士の一人がもう死にかけている魔獣にとどめを刺そうとしているのが見えた。魔獣は牛頭をしたでかい奴だ。もう体の半分以上を削られて虫の息なんだけど、それでももぞもぞと動いている。


「待った! そこ、ちょっと待ったあああ────!!」


 気がついたら、もう大声で叫んでいた。

 だって、もういい。

 もうたくさんだ。

 これ以上ムダに殺すな。

 これ以上、だれかを傷つけんなよ……!


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