レント、現実を知る
「この辺まで来れば大丈夫かな」
レントはゆっくりと鳥のような形の風魔法を降下させていく。
ニーナリットの王城を脱出し、森の上空を飛んで、ナイカ領の村近くに降り立った。
レントたちを魔族と誤解したが、モンスター退治をしたことで誤解が解け、一晩世話になったあの村である。
地面に降りると、風魔法が解除される。
レントは息をついて言う。
「これ以上は魔力も保たないし、一晩休憩させてください。夜が開けたらマナカンの王都まで一気に戻りましょう」
あの村にはちゃんとした宿屋はなく、納屋を借りることになる。王族のルインには厳しいかもしれないが、我慢してもらうしかないだろう。
そのルインが言ってくる。
「その前に、レントくん。その娘を預かろう」
「あ、はい」
と素直にビルデを渡そうとするレントを、サラが止める。
「待って、レント……殿下。この子をどうするつもりですか?」
なぜか緊迫した様子のサラに、ルインは鷹揚とした態度で答える。
「言ったはずだよ、ブライトフレイム嬢。マナカン王家が預かると」
「預かったあとどうするかは殿下の裁量次第、ということですか」
「察しがいいな」
二人で勝手に理解し合っている横で、レントは戸惑う。
「え? え? どういうこと?」
「私を生かしていく気がないってことだろ!」
「うわっ」
いつの間にか目を覚ましていたビルデが、もがいてレントから逃れた。
「ビルデ!」
「やられたぜ……まさかお前があそこまで闇属性魔法を扱えるとはな」
「ソイルソリッド!」
「おっと!」
ルインが放った土魔法を、ビルデはジャンプして避ける。
そのまま彼女は手に魔力を集中させた。
「全員動くなよ。この世から消えてなくなりたくなければな」
「チッ……」
ルイン王子は小さく舌打ちすると、レントに言ってくる。
「レントくん。彼女は危険な存在だ。世界を危機にさらす魔王を宿しているというならなおさら、ここで滅ぼしておくべきだ」
「違います! ビルデの真意を俺たちは知らない。それに魔王のこともなにもわかってないでしょう」
レントはそう主張するが、賛同する者はいなかった。
それはそうだろう。魔王とライル・マナカンとグラン・ファーラントが世界を救おうとしたあの光景を見たのはレントだけ。
この場の誰もが、勇者ライルとその仲間が、凶悪な魔王を倒したという『物語』を歴史的事実だと信じて疑わない。
「さあ、やるんだレントくん。闇魔法に対抗できるのは君だけだ。今こそ、マナカン王家とファーラント家の古の約束に従い、戦うときじゃないのか」
マナカンとファーラントの約束——いつかファーラント家にグラン・ファーラントの再来のような魔法使いが生まれたなら、ふたたび王都に戻り、王国のために仕えるという約束だ。
「っ……ごめん、ビルデ」
レントは手に光魔法を発動させる。
「くそっ、ダーク——」
「ライトショット!」
ビルデが魔法を放つより早く、レントは光魔法を撃ち出す。
激しい光が夜闇を裂いて、ビルデを吹き飛ばしふたたび気絶させた。
「よくやった、レントくん。君の名は王国の歴史に永久に刻まれるだろう。二度も世界を魔族の手から救った英雄としてね」
「…………」
レントはルインの言葉には答えず、倒れたビルデの元に歩み寄る。
そして彼女の身体を抱え上げると、そのまま走り出した。
「レント!」
サラが呼びかけるが、レントは振り向かない。
そのまま村の方へ走っていく。
そこへ村人たちが騒ぎを聞きつけたらしく家から出てくる。
「何事だ?」
「この前の貴族様の部下じゃないか。どうした?」
「また魔物じゃないだろうな?」
のんびりした態度の村人たちに、ルイン王子の護衛兵の隊長が大声で告げる。
「そいつが連れているのは魔族だ! 殺せ!」
「っ!」
レントは耳を疑う。
彼とはここまで協力関係にあった。
だが、それはレントがルイン王子の側にいたからだ。
相手が魔族であれば容赦はしない。
それが人々の常識のようだった。





