レントたち、魔族の謎について話し合う
「これも見張りの魔族が話してたんですけど」
とディーネが説明する。
なんでも、二日後に魔族の大部隊がこの王都に到着するらしい。
それに合わせてビルデ(さっきの少女)たちは王城の幻惑魔法を解いて王都の住民の前に姿を晒し、ニーナリット王国の占領を宣言する。
そしてその場で、ルインとニーナリットの王族を処刑するつもりなのだ。
「まさか! そんなことをしたら……」
サラのうめきをシフルが引き継ぐ。
「ああ。戦争になるぞ。抗魔戦争の再来だ……」
「もちろん、まさにそれが狙いなんだろう」
ルインは頷く。
王国を占領し、その王族を処刑するのはまだいい(よくないけど)。
しかし、その場で隣国の王族であるルインをも処刑するのは、完全にマナカン王国に対する宣戦布告だ。
しかもマナカン王家は魔王を倒し、抗魔戦争で魔族を倒した、勇者の末裔。
その一人を殺すのだから、これは人類全体への宣戦布告と言っていい。
「愚かなことだ。ニーナリット一国を占拠したところで、周辺の国全てを相手に戦争に勝てるものではない。所詮は過去の憎しみに冷静さを欠いた行為でしかない」
「しかし戦争となれば犠牲は出てしまいます。たとえ負けないとしても、戦禍に苦しむ者は必ず……」
「そう。迷惑なことだ」
サラの言葉に苦々しく言うルイン。
その態度は民のことを思ってと言うよりは、自らの財産が減ることを悔やむようではあったが。
「いや……どうなんだろ」
「どうしたの、レントくん?」
ミリアに言われ、レントは顔を上げる。
「ルイン王子の言う通りです。魔王が討伐されたのは八百年前。抗魔戦争が起こったのは八十年前。前回は魔族たちは復讐の機会を七百年以上待ち続けたんです」
抗魔戦争は人類側が負けてもおかしくない戦いだったという。
つまりそのときには魔族には勝算があった。
「今回は、抗魔戦争終結から五十年しか経っていません。なのに、復讐心にかられて勝算もないのにふたたび戦乱を起こそうとするなんて愚かすぎませんか?」
「ではなにか? 魔族どもにはなにか秘策があるというのか?」
「はい……そんな気がします」
答えながらレントはビルデの姿を思い出す。
王都に魔道具〈ドラゴンの卵〉を持ち込み、ルイン王子をドラゴン化させた。
そしてそのドラゴンを倒したレントのことを知っていた。
「あ、そういえば」
とサラがミリアに話しかける。
「あの魔族の少女が、マナカン王家のことを『大逆の勇者の末裔』と言っていたのですが、どういうことなんですか? あの少女はミリア教官に聞けと言ってきて……」
「ああ、それは——」
とミリアは、ビルデから聞いた話を説明する。
「……魔王を倒した『から』大逆、か。よくわからないな」
シフルが首を傾げる。
「難しく考えることねーんじゃね? 大逆が主君を殺した罪だっていうんなら、つまり八百年前の勇者が——」
「ばか! 滅多なことを言うな!」
シフルは慌てた様子でムーノの口を塞ぐ。
「むがもがっ……っおい、なにするんだよ!」
「君こそなにを言うつもりだ! 不敬罪でこの場で殺されたいか?」
「うむ。その通りだ。ムーノくん、その結論には皆思い至っただろうが、あえて口にしていない。なぜならそんなことはあり得ないからだ」
ルインが静かに告げる。
それ以上の議論を避けるように。むしろ、恐れるように。
サラも頷く。
「そうよ、あり得ない話よ。人類と魔族は別の存在。それぞれの種族が生まれたそのときから相争う運命にある。その敵味方の区別は変わることはないわ」
「そうかなぁ……」
と呟いたのはレントだった。
「そもそも人類と魔族を区別するのってなに?」
「なにって……」
「見た目が全然違います」
言葉に詰まったサラに変わって、ディーネが答える。
シフルも頷く。
「外見からして、僕たちとは違う存在だ。言うまでもないだろう」
しかしレントは納得しない。
「うーん、でも、あれはたぶん闇魔法を効率的に使えるように、ああいう身体になっていっただけだと思うんだよね……」
「どういうことだ?」
ムーノの問いに、レントは答える。
「人間でも、地水火風、それぞれの属性が得意な人がいるでしょ。しかもそれは血統によって左右される」
サラのブライトフレイム家は代々火属性魔法を得意とする魔法使いを輩出している。
「つまり魔族って、闇属性魔法を得意とする魔法使いの一族っていうだけなんじゃないかな?」
ルイン王子が言う。
「だとしても結論は変わらんだろう。その一族は我らとは違う種族なのだ」
「でも、俺は人間だけど、闇属性魔法が使えますよ」
「それは……」
情報共有のため、レントはここで、自分が闇属性魔法を使える理由を説明しておく。
実家の書庫にあった、先祖である伝説の大魔法使いグラン・ファーラントが残した魔法書には古代魔法についての詳細が書かれていた。
その九段階すべての階梯を修め、レントは闇魔法と光魔法をも扱えるようになった。
ルナ校長には他言しないよう言われていたが、こんな状況だし仕方ないだろう。
……わりとしょっちゅうバラしてしまってる気もするけど。
ともかく、勇者パーティの一人であったファーラント家の魔法使いは闇魔法を使うことができたのだ。
「つまり、闇魔法は魔族しか使えないわけじゃないんです」
「じゃあけっきょくどういうことなんだよ? 魔族ってなんなんだ?」
首を傾げるムーノに、レントが考えていることを告げようとしたところに、
「そこまでだ」
牢に現れたビルデが会話を遮った。
「盛り上がってるところ悪いが、議論は中断だぜ。レント・ファーラント、来てもらおう」
「俺?」
レントは目を丸くして自分を指差す。
わけがわからないが、抵抗しても仕方ない。
魔族に牢から連れ出され、レントは連れていかれるのだった。
書籍版発売まであと3日!
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