ムーノ、開花する3
「冗談じゃない。僕が負けるなんて……」
『負けなければいいのだろう』
シフルが頭を抱えているところに、不意に声が聞こえた。
肉声ではない。
風魔法でどこからか声を飛ばして、シフルにだけ聞こえるようにしている。
そして、その声は……。
「ルイン殿下っ?」
同じAクラスの王子だった。
『大きな声を出すな』
「あ、すみません……しかし、殿下がどうしてここに……?」
『そんなことはどうでもいい。それより、君が負けるのは私にとっても面白くない。AクラスがCクラスに負けたという噂がこれ以上広まっては、王国の魔法制度への信頼も揺らぎかけない』
「はい……申し訳ありません」
『しかし、私が手を貸して君が勝っても、公正な勝負とは言えない。それはそれでよくない噂が流れることになるかもしれない』
「では、どうすれば?」
『勝負をうやむやにしてしまおう。なに、私に任せるといい。君はその場でなるべくムーノくんや、見物客の皆を引きつけてくれたまえ』
「は、はい! 承知いたしました!」
自分より偉い相手からやるべきことを与えられ、とたんに冷静さを取り戻すシフル。
ルイン王子が手助けしてくれるなら安心だ。
そう思い、シフルは建物の入り口から外に顔を出す。
「どうした! 僕はここだぞ! 壁一枚あるだけで攻撃できないのか! それとも反撃が怖くて近づけないか!」
「ふん、なに言ってやがる。あんたこそ、反撃しないのかよ」
言いながらムーノが建物に近いてくる。
レントたちや子供たちも後から追いかけてくる。
ルインの指示どおりになっていることに、シフルは安堵する。
(これで殿下が手助けして、ムーノの隙をついてくれるんだろう。そこに僕が魔法を叩き込めばいい……)
しかしシフルは勘違いしていた。
ルインは、シフルを勝たせてやるとは一言も言っていない。
勝負をうやむやにしてしまう、と言っていたのだ。
そして、その手段に関しては一言もシフルに知らせていない。
どういう結果が待ち受けているとも知らずに、シフルはさらにムーノを誘い込む。
「ウィンドショット!」
建物の壊れた壁の隙間から風魔法を放つ。
「そこかっ!」
ムーノがシフルの位置を察し、石材を放ってくる。
狙いをつけるため、だんだん近いてくる。
(そろそろ、お願いしますよ、殿下……!)
その思いが通じたかのように、どこかにいるルインが魔法を発動させる。
風魔法のようだった。
シフルが発動したように見せかけるためだろう。
しかし、その魔法はムーノに向けられてはいなかった。
バキッ! と不吉な音が響いた。
「………………へ?」
シフルは音が響いたほうを見上げて、目を丸くする。
建物の天井部分が崩れてきていた。
一気にヒビが広がり、バラバラになって、重力に従い落下してくる。
「え? あれ?」
シフルは一瞬思考が停止する。
動けたのは、ムーノの怒鳴り声が聞こえたからだ。
「おい! なにぼんやりしてやがる! 避けろっ!」
「……っ!」
シフルは慌てて身体を動かす。
直後、さっきまで彼がいた地面に大きな石材が音を立てて激突した。
「え? なんで、殿下、なんでですか……?」
いまだに事態を把握できないシフル。
ルインが近くにいることを知らないムーノのほうが判断は早かった。
「おい! バトルは中止だ! 早く逃げるぞ!」
「え? しかし……」
「なにぼやぼやしてるんだよ!」
その間にも建物はどんどん崩れていく。
その破片は建物の外にも飛んで、レントや子供のほうへも落ちていく。
「くそぉ!」
ムーノはそちらへ駆けていく。
そして夢中で魔法を発動した。
今のバトルで自分が魔力を流した物質を集め、とにかく組み上げる。
落下する石材を食い止められればそれでいい。
「おおおおおおお!」
ありったけの魔力が流し込まれ、ゴーレムが生み出された。





