ディーネ、自分の思いを語る
しばらくすると、皆それぞれの場所に落ち着いた。
サラはディーネの母親と話している。
ムーノは使用人から食器を借りて、持ち帰る食べ物を詰めていた。ミヅハがそれを手伝っている。
レントは中庭の外れにあった噴水を眺めていた。
「それは、父が昔仕えていた貴族から譲り受けたものだそうです」
横にディーネがやってきて言った。
「へえ……ドラゴンの意匠だね」
「はい。もともと対になっているもので、その貴族のお屋敷にも、この噴水があるそうです」
「そうなんだ」
ドラゴンは口から水を吐き出し続けている。
それは、まるでディーネが持つ水属性魔法の才能を象徴しているようにも見えた。
「今日は……ごめんなさい。せっかく来てもらったのに」
ディーネは突然謝ってきた。
理由がわからず、レントは訊き返す。
「どういうこと? こっちこそ、すっかりご馳走になっちゃって」
「ミヅハや母が、あんなことを言って……」
「ああ……べつに気にしてないよ。ディーネだって別にそんなつもりはないんでしょ」
「…………」
レントの言葉に、ディーネは気まずそうに沈黙した。
「え、もしかして」
「はい。あの……もしかしたらレントさんに迷惑がかかるかもしれませんから、伝えておきます」
そう前置きして、ディーネは言う。
「さっき、レントさん、わたしに訊きましたよね。魔法を学ぶのは魔道具を守るためなのかって。違うんです。父がわたしを魔法学園に入学させたのは、魔法の勉強をさせるためじゃないんです」
「魔法を勉強させるためじゃない……」
「はい。人脈を作るのが……はっきり言ってしまえば、貴族の結婚相手を見つけるのが魔法学園でわたしがやらなきゃいけないことなんです」
ディーネは目の前のドラゴンの噴水を見ている。
その顔は笑っているけど、ずいぶんと寂しそうな笑みだった。
「……仕方ないんです。わたしはすごい魔法の才能があるわけじゃないから……お家のためには、いい結婚相手を見つけるくらいしかできることがないから……」
「ディーネ……」
レントは慰めの言葉を探すが、いい言葉が浮かんでこなかった。
そんなことはない、と言うのは簡単だ。
けど、そんなのは言葉だけで、なんの解決にもならない。
レントがディーネに、具体的になにかをしてあげられるわけでもない。
「おおい、ディーネ、ちょっと来てくれないか」
そこへ、ディーネの父が戻ってきて彼女を呼んだ。
「はあい! すみません、レントさん。ちょっと失礼しますね」
「あ、うん」
ディーネは父のところへ駆けていくと、なにやら仕事の話を始める。
レントのところまで漏れ聞こえた内容から判断すると、どうやら父親がディーネに、貿易の経路について相談しているようだった。
「——の街から——街道を通って、港は——を使って」
「それだと——に行くのに時間がかかっちゃいます。それなら——」
と、ディーネは父が提案する経路の問題点を取り上げ、即座に訂正案を示す。
レントも大陸の地図を頭で描きながら聞いていたが、ディーネが口にする案を思いつくことはまったくできなかった。
「すみません、レントさん」
やがて、父親との会話を終えて戻ってきたディーネを、レントは驚きの表情で見る。
「あの、どうかしましたか、レントさん……?」
「ディーネ……君は、さっきみたいな話を、いつもお父さんとしているの?」
「え? ああ、はい。わたし、あんなことだけは得意で。わたしはすぐ答えられるから便利なので、父はときどき訊いてきますけど……でも、誰でも地図を見て考えればできることですよね?」
たしかに、ある程度貿易の知識があれば、できることではあるだろう。
地図を見て、時間をかけて考えれば。
普通、ディーネのように、話だけ聞いてその場で答えられたりはしない。
「……ディーネ!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
突然大きな声をあげたレントに、ディーネは飛び上がる。
「君に魔法の才能がないなんてとんでもない。君は、すごい魔法使いになれるよ。Aクラスにだって負けないくらいのね」
「え? え?」
戸惑いを隠せないディーネ。
しかし、レントの頭の中ではすでに、Aクラスとの交流授業までの間、ディーネにどんな魔法の訓練を施せばいいかのアイディアがどんどん浮かんできていた。





