第四王子の策謀
(フィーア兄上? どうしてここに……)
シフルと一緒に草陰に隠れているルインは疑問に思う。
もともと、魔竜一族の代表として王城を訪れているユキシロは、フィーア王子や、彼と結びつきの強い外務大臣と会っていることが多い。
しかしそれは、大抵王城のもっと中央にある、応接間などでのことだ。
賓客が寝泊りする貴賓室や、その周囲で会うというのは、公式な会談ではなく、プライベートということ。
(つまり、フィーア兄上とユキシロさんが……?)
考えたくもない想像をしてしまい、ルインは慌ててそれを振り払う。
フィーア王子にも、ルイン同様、婚約者がいる。
しかもフィーアは女性に興味はないと公言して憚らない。今だってまるで女性のような服を着て化粧をし、そのことを全力でアピールしているかのようだ。
結婚は王族の責務として果たすが、それ以外の場で女性と付き合うことなどありえないはずだ。
(あるいは、それが目眩しだったのか?)
ユキシロという要人と陰で付き合うための。
「……魔竜一族の代表とフィーア殿下。こんな場所で会うとは……どんな密談を行うつもりだ?」
シフルも疑問を覚えている。
ただし、ルインとはやや観点がずれているようだったが。
しかし、ズレているのはルインだったということがすぐに判明した。
「魔導書ガルドラボーグを大聖女教会が所有しているというのは確実ね」
独特の揺れるような口調でフィーア王子が言う。
「やはりそうでしたか。厄介と言えば一番厄介な展開になりそうです」
ユキシロは外見通りの淡々とした口調でそう答える。
魔導書ガルドラボーグ。
魔法に関する様々な知見が記されており、また膨大な魔力を拡散させる術式を有する魔道具でもある。
魔王復活を阻止するためにそれが必要になると考えられていたが、魔王がああいった形で復活してしまったため、それに関する議論は公の会議では取り沙汰されなくなっていた。
「どのようにして手に入れるのですか? マナカン王国といえど、教会に手出しはできないでしょう?」
ユキシロが問う。
大聖女教会は排他的な宗教集団だ。世俗の権力からは独立しており、国同士のパワーバランスとも無縁という顔をしている。
「たしか、教会の現在の代表は、王妃殿下のいとこに当たるのでしたか。そのあたりから?」
「…………」
ルインは微妙な心持ちでユキシロの言葉を聞く。
たしかにその関係から、マナカンの五人の王子全員になにかあったときには、王国の領地の相続権が教会に渡ることもあり得る。
なので、教会はマナカン王国に恩を売っておいても損はない立場だ。
だが……。
「いいえ、それでは確実ではないし、時間がかかりすぎる。あまりのんびりとはしていられないのよ」
「では、どのように?」
ユキシロの問いに、フィーア王子は妖しい笑みを浮かべ、
「もうすぐ合同魔法学校祭が開かれるわ。そこで例年通り参加校対抗の魔法試合も開催される」
もうそんな時期か、とルイン王子は思う。
幼いころから魔法を学んできたルインは、合同魔法学校祭の魔法試合は何度も見学してきた。
各国の魔法学校の生徒たちが入り乱れる魔法試合はなかなか見応えがある。
「あれに、あなた方の東部連邦魔法学校も参加するでしょう? そして、教会の聖エクレシア学園も参加予定」
フィーア王子は手にしていた扇子をバサリと広げた。
「教会代表は、今の聖エクレシア学園の首席と聞いたわ。であれば、当然試合に参加するでしょう?」
「それは……まさか」
「その機に乗じて、教会代表を攫ってしまうのよ。そして人質と交換で魔導書を要求するの」
扇子で口元を隠して、フィーア王子は妖しく笑った。
「魔導書さえ手に入れば、あとはどうとでもなるわ」





