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リーシャ視点です。


「ゲホ、ゲホ」


私は、一人家の中で、お兄ちゃんの帰りを待っていた。

私の病気で、お兄ちゃんに無理させているのは、分かっているし、知っている。

お兄ちゃんがいけないことをしているということも。

でも、罪はいつかバレる。私たちの両親は、口癖のようにそう言っていた。だから、お兄ちゃんの正義感は人一倍強い。

だけど自分に嘘をついて、感情を押し殺して、罪を犯す。そんなお兄ちゃんの姿はもう見たくはない。だから早くやめてほしい。私はどうなってもいい。ただ、私はお兄ちゃんの苦しそうな顔をみたくない。それが私の心からの願いだ。


「ただいま」


お兄ちゃんが帰ってきた。お兄ちゃんは、家に入るといつも真っ先に私のもとに来てくれる。それは、いつものことだ。

しかし、今日はお兄ちゃん以外にも何人かの足音が聞こえた。

もしかして、お兄ちゃんが犯罪を犯していることがバレたのかも。私はそう思った。


「リーシャ、大丈夫か」

「うん、大丈夫。お兄ちゃんは?」

「大丈夫だ」


お兄ちゃんが返事を返してくれると、お兄ちゃんの後ろから、私と同じぐらいの年だと思う少女と女性が私の部屋に入ってきた。


「お兄ちゃん、その人たちは?」

「お前の病気を治すためにお金を貸してくれるんだとさ」

「初めまして、リーシャ。私は、ユリシア。こっちは、お母さんのイリス」

「イリスよ。宜しくね」


私は、ユリシアとイリスを見た。ユリシアは、きれいな銀の髪を持っていて、凛とした顔つき。私とは大違いだ。でも、何だろう誰かに似ている感じがする。

イリスという女性は、なんだかそっけない感じで、でもカッコイイ。


「リーシャは、何歳なの」

「私は、八歳」

「へー、私も八歳なのよ」

「そう――ゲホ、ゲホ」

「――リーシャ!」


お兄ちゃんは、私のもとに近づいてきた。


「リーシャ、少し横になっていたほうがいい」

「うん」


私は、お兄ちゃんの手を借りながら、体を倒した。


「早く医者(せんせい)に診てもらったほうがいいかもね。イリス、医者(せんせい)を呼んできて」

「分かったわ」


イリスさんは、家を出て行った。

それにしても……


「お兄ちゃんはとユリシアは、どうしてであったの?」

「いや、ま、うん……」

「この子が、私の財布を盗んだのよ。でも、理由が妹の病気を治すためにお金が必要ってことなら、私は進んでお金をあげるわ」

「なぜ、そこまでしてくれるのですか?」

「え、人助けは当たり前のことじゃない」


このユリシアって人、どれだけいい人なのだろう。彼女の言葉には、誠意しか籠っていなかった。

それに人助けを当たり前だ、という人に私は、会ったことがない。


……いや、いた。

私の両親も人助けを当たり前と思っていた。だからかもしれない。初めてユリシア見た時を誰かに似ていると思ったのは。


「ま、さっき逃げようとして、私に襲い掛かってきたのだけどね」


は。私の頭の中は、真っ白になった。お兄ちゃんがこんないい人に襲い掛かるなんて。


「すいません。私の兄が。ケガさせてしまいませんでしたか」

「大丈夫よ。逆に私が返り討ちにしちゃって……そっちのほうが心配だわ」


私は兄の方を見た。


「俺は、大丈夫だ」


うん、本当に大丈夫そうだ。というかお兄ちゃんは、昔から丈夫な体しているからね。


「もうちょっとしたら、お母さんが医者(せんせい)を連れてくるから」

「はい、ありがとうございます。そこまでしてもらって」

「謝らなくていいのよ。当然のことをしているだけだし」

「でも、何もお返しできませんし」

「お返しなんて、いいのよ」


その後、イリスさんが、医者(せんせい)を連れてきてくださって、私は、医者(せんせい)に病気を診てもらった。

診断の結果は、少し体が弱っているだけで、そこまで悪くはないとのこと。

薬を飲んでいれば治るらしい。


「ありがとうございます、医者(せんせい)

「いえ、いえ。しかし驚きました。まさかお嬢様に平民のお友達がいたとは」

「「お嬢様!?」

「もしかして、知らないのですか」


知らないって、一体……


「その様子では本当に知らないようですね。お嬢様はの名前は、ユリシア・ティオ・アクシス。アクシス公爵家の長女です」

「「え!?」」


私はまた、頭の中が真っ白になり、お兄ちゃんも同じように驚いていた。


「はあ、医者(せんせい)、ばらさないでくださいよ。かしこまれるのが嫌で、わざと名乗っていなかったのですから」

「おっと、それは失敬」


私は、ユリシア様と医者(せんせい)の話についていけなかった。


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