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√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道 悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ  作者: 萩鵜アキ


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赤く染まる白いゴミ

 ハイター・シロイネンは、王城へと全力で走っていた。

 肥え太った体からは、まるで果実を握りしめたかのように大量の汗が溢れ出している。


「くそっ、あそこまでフラグナーが使えないとは!」


 自分の権利を守るため、ハイターはライザー公を利用した。

 公はこの国で最も武力のある家だ。

 彼ならばクーデターを成功させられるだろう――と思っていた。


 だが蓋を開けてみればどうだ?

 たった一人の男に、一方的にやられているではないか!


 彼の私兵は国で一番強いという触れ込みだったが、ただのハッタリだったか。

 ライザーの側に一切勝ち目がないと踏んだハイターは、兵たちが混乱して逃げ出した隙をついて、こっそりその場から離脱した。


 幸い、武装派の面々を襲撃した男は、この国の人物ではない。

 ならば、今日をやり過ごせばライザーを影で操っていたことも誤魔化せる可能性がある。


「どうせフラグナーは、あの男に殺されるだろうからな」


 兵士たちを虐殺した殺意の塊のような男が、ライザーを見逃すとは到底思えない。

 武装派すべてが消えれば、ハイターがクーデターに拘わっていたことも闇に消える。

 ――口封じが勝手に完了する。


「さて、今後はどうすべきか」


 イングラムにおいて最大戦力といわれていたライザーが消えた。

 今後再びクーデターを起こすにしても、戦力がない状態では成功などありえない。


「……はあ。クーデターは諦める他なさそうだな」


 とはいっても、エルヴィンなどという小僧に下るつもりはない。

 武力で制圧出来ないのであれば、内政でこっそり足を引っ張ってやればいい。


「悔しいが、内側に武力がないなら、外側から引っ張ってくる他あるまいな」


 幸い、ハイターは宰相であるため外国とのパイプラインが豊富だ。


 内政をわざと停滞させ、そのすきに他国と内通して挙兵を促す。

 そうして戦争状態になった時、内側から門を開いて一気に王城を落とさせるのだ。


「ふむ。悪くない案だな」


 何年かかるかわからないし、国そのものが大きなダメージを受けるだろう。

 しかし、そんなものはどうだっていい。

 ハイターは自分の立場と、金と、権力さえ無事であればそれでいいのだ。


 王城まであと少しと迫った時だった。

 月に照らされた道の真ん中に、世にも美しい銀髪の女性が佇んでいた。


「どこへ行こうというのですか? ハイター・シロイネン」


 女の言葉に、ぞっと背筋が凍り付く。

 彼女の容姿は、一度見れば決して忘れないほどだ。

 絶世の美女といっても過言ではない。


 だが、まるで見覚えがない。

 なのに彼女は、自分の名前を知っていた。


「まさか、エルヴィンの――」


 そこまで口にしたとき、チッと耳元で音がなった。

 ぼたぼたと、肩になにかがしたたり落ちる。

 あまりに耐え難い痛みに、ハイターは両手で耳を押さえる。

 しかし、


「な、ないッ!?」


 右の耳がなかった。

 あるはずの場所からは、ドクドクと血液が溢れ出す。


 見回すと、足下に右耳が落ちているのに気がついた。

 まるで気づけなかったが、耳が切り落とされたらしいことだけはわかった。


「きさま――あぁッ!!」


 今度は左耳に激痛。

 足下に、ぽとりと耳が落ちた。


 やはり今回も、耳を切り落とされる瞬間がわからなかった。


 これは非常にまずい。

 このままでは、確実に殺される。

 それだけは、絶対に嫌だ!!


「か、金ならある。いくらほしい? 一千万クロンか、二千万か……いや、もっと出そう。一億クロンだ! 平民になど一生拝むことが出来ない大金だぞ? それで、どうだ。見逃してくれないか?」

「……ふざけているのですか?」

「十億クロンだ! 頼む、見逃してくれ!!」


 懇願するハイターに、女が落胆のため息を吐いた。


「宰相というから、どれほど優れた人材かと思えば……ただの豚でしたか」

「ぶ、ぶた、だとッ!?」

「ああ、ゴミと比べては豚に失礼でしたね」

「ぶ、無礼者が!! 貴様、私を誰だと心得――ぎゃぁぁぁぁ!!」


 女が手を振った瞬間、手元からナイフが飛び出し、腕に直撃。

 ナイフが肩を貫通し、腕が弾かれるように宙を舞った。


 今度は、なにをされたかが見えた。

 ――いや、見せつけられたのだ。


 肩口を押さえるが、血が止まらない。

 両耳からも、ドクドクと流れ続けている。


「十億クロンで手打ちにするより、貴方を消した後でゆっくり全資産を頂けばいい。そうすれば、十億クロンを踏み倒されることもないし、より多くのクロンが手に入る――こう考えることすらせず命乞いをするから豚……いえ、ゴミと言ったのです」

「ぐ、ぬぅッ!」

「まあ、元よりエルヴィン様を愚弄し、クーデターを煽動した者を見逃すつもりはありませんが」


 女がナイフを手にして、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 地面に腰を落としたハイターは、必死に後ずさる。

 だが恐怖に震える足では、地面をうまく捕らえられない。


「た、助けてくれ。頼む、なんでもする! か、金だけじゃない。地位もやろう! そ、そうだ。丁度いま、公爵家が空位になったのだ。どうだ、イングラム王国の公爵を継いでみないか?」

「ああ……素敵」

「む?」


 突然うっとりとした表情になった女の変化に、ハイターは痛みも忘れて首をかしげた。

 まさか、助けてくれる気になったのだろうか?


「あなたのようなゴミが、エルヴィン様の手を煩わせる前に消せるなんて、幸せです」

「~~~っ!!」


 彼女がうっとりしたのは、自分を殺せるからだったのだ。

 狂ってる……。

 ハイターの顔が恐怖に歪んだ。


「それでは、さようなら」

「ま、待て。待ってくれ! わたしはまだ死にたく――ピチュ」


 振り上げられたナイフが顔面に突き刺さり、勢いのまま喉元まで切裂いた。

 ハイターは即死。

 自分が殺されたことを、しっかり認識した上で、慈悲なく殺されたのだった。

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