チャンス?
レナードと簡単な覚書を交わしたあと、俺は城の外で今後の動きについて考える。
ひとまず『真実の瞳』を手に入れたから、今すぐファンケルベルクの街に帰っていい。
だが、せっかく滅ぶ前のイングラムに来たのに、とんぼ返りはもったいない。
数日はここに泊まって、じっくり観光したい。
あと、米をどうやって買い付けるかだな。
イングラムとは同盟国になったし、今度レナードに商人を紹介してもらって、直接取引してみるか。
あっ、さすがに表の取引を俺が直接するとラウラが怒るかな?
うーん。一旦持ち帰って、ラウラに聞いてからにするか。
外は既に日が落ちていて、夜のひんやりした空気が心地良い。
暦上はもうすぐ冬だが、夜でも若干暖かい。
たぶん、アドレアよりも南にあるからだろうな。
城から繁華街に向けて歩いていると、ふと教会の建物が目に入った。
「……かなりデカいな」
高さこそないが、広さは城に匹敵するんじゃないか?
中に孤児院があるという話だが、いくらなんでも広すぎるな。
サン・ピエトロ大聖堂くらいあるんじゃないか?
やっぱ天井画とか巨大ステンドグラスとかあるんだろうか。
時間は夜だが、礼拝用の入り口は開いていて、ろうそくが灯されている。
……ちょっとだけ覗いて見るか。
滅んだ後にはまっさらになっていた教会にいざっ!
門を通り抜けて、一番大きな建物に向かう。
扉もデカいな。
ここまでデカくする必要あるのか?
人の五倍くらい高さがあるな。
聖堂には長椅子がずらり並んでいた。
道を示すかのように柱と燭台が並び、一番奥に神像と、天井まであるステンドグラスがある。
「おお……」
荘厳の一言しか浮かばない。
これで地方の教会だっていうんだから驚きだ。
本部はどれだけ豪華なんだ……。
何度もグラフィックは見たことあるけど、実際に目にすると感動するんだろうなあ。
……たぶんもう拝めないだろうけど。
くそっ、勇者めぇ。
俺からセラフィス礼拝のチャンスを奪うとは、なんてことしてくれやがったんだ!
一生恨んでやる!!
俺は奥まで歩き、神像の前で膝をつく。
決して信心深くはないが、ここは『ちょっと神様を信じてみようかな?』ってな気分になる。
手を組み、目を瞑って、祈る。
特に、神様にお願いすることもないな。
(プロデニの世界に連れてきてくれて本当にありがとう)
とだけ願った、その時だった。
――ズン!
背中に衝撃。
危うく前に倒れ込みそうになるが、ギリギリ堪える。
……なんだ?
振り返ると――輝くナイフと、光のない目をしたシスターが、
ひえぇっ、なんだこいつ!!
近づかれるまで気配ゼロだったんですけどッ!
ってか今も気配薄いんだが……。
レ、霊体系魔物じゃねぇよな?
ハンナ以外でこういうパターン初めてだわ。
即座に立ち上がり、三歩退く。
ぶっちゃけ背中を見せて逃げ出したいんだが、『大貴族の呪縛』がそれを許してくれなかった。
「貴様……」
「ひぇっ!」
まるで化け物を見るような顔をして、シスターが腰を引いた。
いや叫びたいのはこっちだから。
ってお前、俺にナイフ刺そうとしたのか!?
そうだ。怪我はないか?
意識を体に向けるが、痛みはちっとも感じない。
それどころか、衝撃を感じた部分には穴すら空いていない。
あれぇ?
おっかしいなあ。
刺されたと思ったんだが……。
あっ、そういえばタリスレットを装備してたんだった。
あっぶねぇ……。
クリスレットがなかったら、今頃死んでたぞ。
怪我がなかったことで、少しは混乱が落ち着いた。
そういえば、こういう時に活躍するはずの〝影〟がぴくりとも動かない。
おいお前、なんでどうでもいいときに人間たくさん飲み込んで、大事な時に動かねぇんだよ!
あっ、あのエリート兵士を飲み込んだ一撃で魔力が切れたのか。
そこから魔力1滴も補充してないや。
ぐぬぬ……。
今度から、影を動かしたら即座に魔力を補充しないとな。
こんな目には二度と会いたくない。
さて。
バックアタックされた腹いせに、ちょっとだけ本気で脅すか。
うぇいうぇい。
テメェどこのモンだコラァ!
国王のマブダチの俺になにしちゃってくれてんだよ、おおん?
(『大貴族の呪縛』さん、翻訳よろしく!)
スキルに丸投げした瞬間、自分の手にダーク・フレアが出現した。
「貴様は何者だ? ここのシスターか?」
「…………」
「この俺が、エルヴィン・ファンケルベルクと知っての狼藉か?」
「ヒッ!」
手に漆黒の魔法が浮かんだ時、カーラは己の死を覚悟した。
無理もない。
それは人間が扱えるレベルの魔力量を、あまりに逸脱しすぎていたのだから。
エルヴィン・ファンケルベルクが教会に侵入した時、カーラはその一報を見習いから受け取った。
手配書の顔に似た者が、聖堂にいる……と。
(たしか、ニーナはエルヴィンと行動を共にしていたという噂を聞いたわね)
ニーナは嘯いていたが、勇者が凶刃に倒れてからの行動は、すべてこちらに筒抜けになっている。
ファンケルベルクという名の土地で、不遜にも大司教を名乗って活動していることも、知っていた。
しかし、カーラはあえてこちらの情報を伏せた。
魑魅魍魎が掬う聖皇国内部で生き残るには、情報は強力な武器になる。
たとえこれから処刑される相手であろうと、手札をひけらかすつもりはなかった。
さておきそのニーナが来てからすぐに、エルヴィン似の男がやってきたということは、本人とみて間違いないだろう。
「ああ、わたしはなんてツイてるのかしら!」




