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√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道 悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ  作者: 萩鵜アキ


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ここはどこ?

「今は諦めたほうがいいわよ」

「でも――」

「焦らないで。ほとぼりが冷めるまでの我慢よ。それまでニーナをここでかくまってあげるから」

「いやいや、さすがにそれは悪いよ。だって、迷惑かかるし」

「いいのよ。だってわたしたち、親友じゃない」

「親友……」


 カーラの言葉に、ニーナは胸がじんとする。

 現状、組織の誰が味方かわからない。そんな状況で、幼なじみの――それも大司教が自分の味方に付いてくれることほど、心強いものはない。


 目頭が熱くなるけど、持ち前の負けん気でぐっと堪える。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな。宜しくお願いします」

「お願いされます。さて、一度お茶にしましょうか」


 懺悔室を出て、カーラの部屋に入る。

 中は大司教とは思えないほど質素だ。


 年季の入った椅子に座りしばらくすると、カーラがティーセットを運んできた。

 紅茶にスコーンにバター、それにジャムが少々。


「ジャムが付くなんてリッチね」

「久しぶりの再会なんだもの、贅沢したっていいじゃない」

「それもそうね」


 ジャムなんて高級品、口にするのはいつぶりか。

 苺の香りがするジャムをちょっぴり塗って、バターをのせる。


「ところで、ニーナは勇者が本国に戻ってから、どこに隠れてたの?」

「……いろいろよ」


 思い出したくない、という素振りでぶっきらぼうに答える。

 実際は、ファンケルベルクの街にいた。大司教として活動している、などと答えられるはずがない。


 そんなことを口にすれば、頑張って大司教になったカーラの顔に泥を塗ってしまう。


(アタシが大司教なのは偶然。競争相手もいなかったし、ほとんどエルヴィンのせいだし……)


『俺は、ニーナだから頼んでいるのだ』


 エルヴィンの強い視線をうっかり思い出して、ニーナは即座にかき消した。

 喉に詰まりそうになるスコーンを、紅茶で流し込む。


 香りが強く、苦い紅茶が、口の中でジャムとバターを溶かして流れていく。

 すべて消えた後、舌の奥に強い甘みが残った。


「……ふぅ。美味しいわね」

「そうでしょう? これ、本国から取り寄せた紅茶なの。最近流行ってるらしいわよ」

「へえ。でも、お高いんでしょ?」

「そうでもないのよ。茶葉は普通のものなんだけど、製法が違うとか」

「アタシも少し欲しいなあ」

「今度取り寄せてあげるわね」

「ありがと。……ふわぁ」


 カーラに出会えて緊張の糸が解けたからか。

 ニーナは強い睡魔に襲われた。

 目をこするが、瞼が重い。


「ここまで長い旅をしてきたんでしょう? 少し眠るといいわよ」

「うん……そうする」


 瞼を瞑ると、ニーナの意識は不自然なほどプツンと切断された。




 頭がぐらぐらする。

 まるで船の上にいるみたいだ。


 体を動かそうとすると、ガシャンという音とともに手首がなにかに引っかかった。


「ん?」


 違和感に気づき、瞼を開く。


「ええと、ここは……」


 目の前には、柵があった。

 窓もない部屋はジメジメしていて肌寒い。

 手首は鎖によって、壁と繋がれている。


「まさか、牢屋?」


 なんとか否定したいが、見た目から牢屋以外あり得ない。


「どうして……」


 先ほどまで、自分はカーラとお茶をしていたはずだ。

 なのに目が覚めたら牢屋に繋がれていた。


 まさか、寝ているあいだに異端審問官か誰かが来て、自分を捕らえたのでは?


(カーラは大丈夫かしら? アタシをかくまっていたことがバレたら、あの子だってただじゃ済まないはずよね)


 自分が捕らわれたことよりも、親友の身を案じて、胸が苦しくなった。

 その時だった。

 牢屋の向こうから、何者かの足音が聞こえた。


 その者が目の前に現れた時、ニーナの呼吸が止まった。


「おはようニーナ。そんな姿勢でよくぐっすり眠れたわね」

「……」


 目の前に現れたのは、幼なじみで親友の、カーラだった。

 何故、どうして……。

 頭が真っ白になって、何も考えられない。


「やっぱり粗野な生まれだと、牢屋でも安眠出来るのかしら?」

「カーラ、これは、どういうことなの?」

「どうもこうも、匿ってるのよ。あなたを直接教皇様の元に届けるためにね」

「アタシを、売るつもり……だったの?」

「売るなんてとんでもない。献上するのよ」

「――ッ! なんで、こんなことをするのよ! アタシたち、親友でしょ!?」

「親友ぅ?」


 カーラの目がつり上がり、口の端が不機嫌に垂れ下がった。


「吐き気がするわ。誰が親友ですって? あなたのことなんて、一度たりとも親友なんて思ったことはないわよ」

「そ、そんな……」


「あなたは入信当初から雲の上にいたからわからないでしょうね。わたしのような、なんの才能もないシスターが、どれほどの辛酸をなめさせられたか!」

「でも、カーラはイングラムの大司教になれたじゃない! 才能がないなんて――」


「まさか、実力で上がったとでも思ってるの? ああ、甘いわね。その甘さに反吐が出るわ! 努力してもあなたみたいに結果が出ない人種が、世の中にはたくさんいるのよ!  わたしだって努力した。努力した結果、なんの成果も上がらなかったの!

 わたしは努力で大司教になったんじゃない。体を売って、偉い人に取り入って、のし上がったのよッ!」


 充血したカーラの目を見れば、それがいかに地獄の行程だったかが窺える。


「昔から、そういう甘いところが嫌いだったのよ――」

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