全部あいつのせいだ!
これ以上の茶番はさすがに飽きる。
さて、そろそろ終幕といこうか。
「貴様、御前であるぞ!」
「控えよ犯罪者!!」
「黙れ」
俺は威圧を少しだけ解放する。
すると、宰相が怯えたように声を詰まらせた。
将軍は、さすがというべきか少し耐えた。でも顔が青いな。
大丈夫か? この程度でびびってたら国を守れないぞ。
「やってもいないことを、やったと決めつけられるのは不愉快。帰らせていただく」
「さ――させるかッ!!」
将軍が叫ぶと同時に、近衛が俺を取り囲んだ。
うん、まあこうなるよね。
ちょっとだけ暴れていい?
視線だけで王に許可を取る。
返答はないものと思っていたが、少し……僅かに王の瞳に光が灯った。
それも、俺も大好きな――悪戯っぽい光が。
次の瞬間、王が立ち上がり叫んだ。
「この無礼者! 勇者が証言しておるのに、聖女を殺害したと一向に認めようとせぬ恥知らずめ!」
おい待てジジィ!
なんで俺が聖女を殺したことになってんだよ!
勇者が言ってたのは『拐かした』だ。
殺害したなんて言ってねぇ!
てか、もう少しマシな演技しろよ……。
「貴様のような悪の貴族は、余が自ら成敗してくれるー!」
次の瞬間、謁見の間に魔力が荒れ狂った。
うげっ、このジジィすげぇ魔力だな。
魔力を練り上げ、王が魔法を放つ。
風魔法が俺に向かい、途中で不自然にカーブ。
周りにいた近衛を巻き込み、吹き飛ばした。
吹き飛ばされた近衛が、貴族たちを巻き込み転がる。
あちゃぁ……。
「テ……抵抗するデナイ」
おい棒読み!
それになに『あっ、やり過ぎた』みたいな顔してんだよ!
ちゃんと最後まで演じきれよ!
しゃーない。
完全に予定外だが、せっかくお膳立てしてくれたんだ。
ここは王様の悪巧みに合流させてもらおう。
「……くっくっく。バレてしまってはしょうがない。陛下がおっしゃる通り、ファンケルベルクは悪の貴族だ。しかし今ここで捕まるわけにはいかぬ。サラバダ!」
俺は軽く王とアイコンタクトを躱す。
(おい小僧。お前、アドリブド下手くそだな!)
(ほっとけ!)
うん、このじいさんとは仲良くなれそうだ。
窓ガラスに向かって走る。
「待つノジャー」
後ろから棒読みが聞こえ、風が背中にぶつかる。
その余波で、窓ガラスが綺麗に割れた。
おっ、ナイスアシスト!
そのまま風魔法に載って、窓の外へ。
お礼とばかりに、ポケットから丸薬を取り出し、ダーク・フレアで着火。
謁見の間に投げ入れる。
一瞬にして火が回った丸薬から、大量のスモークが噴出した。
これでよし、と。
あとは逃げるだけだ。
落下?
問題ない。
ここは1階だからな。
地面を蹴って城門へ。
そのまま飛び上がり、城の外へ逃げ延びた。
○
窓から脱出したエルヴィンを見て、勇者アベルは発狂しそうになった。
何故だ!
エルヴィンは今日、ここで処刑を言い渡されて首を跳ねられるはずだ。
そういう運命だったはずだ!
なのに、何故逃げおおせられたんだ?
「ああ、そうか。原作より近衛が無能だったのか」
理由はわからないが、プロデニではエルヴィンは逃亡出来なかった。
なのに今回逃亡したということは、近衛がしっかり抑えられなかったからに決まっている。
内心歯ぎしりをしながら、アベルは次の一手を考える。
現状、すっかり原作からはずれてしまったため、なにをやって良いかわからない。
「なんとしてでも奴を連れ戻して、本当のシナリオに合流させるしか……」
考え事をしていると、目の前の煙が少しずつ晴れてきた。
この煙は逃亡のために使った煙幕だろう。元々こういうものを準備しているのか? 育ちの悪い奴だ。
煙が完全に晴れると、これまで地面に横たわっていた貴族や近衛兵、宰相は将軍までもが一度、ぴたりと動きを止めた。
「……ん?」
それは、奇妙な変化だった。
だが十秒経った頃、全員の目が一斉にアベルに向いた。
「――ッ!?」
ゾゾゾッ。
まるでホラーゲームでもプレイしているような怖気が走る。
「おほん。そこの予言の勇者よ、前に出よ」
「あ、ああ」
宰相に呼ばれ、わけもわからず謁見の間の中心まで歩み出た。
「して、先ほどの話は誠か?」
「先ほどの話、というと」
「聖女が拐かされたというものだ」
「ああ、間違いない。もう何日も姿を見てないからな」
「ふむ」
おかしいな。
不審に眉根を寄せる。
当然のことながら、エルヴィンは聖女を拐かしていない。
なぜならば、聖女は今アベルが借り上げている家の、地下室に閉じ込めているからだ。
それもこれも、聖女が悪い。
クラスメイトを操り、エルヴィンに嫌がらせをしていた時、あろうことか聖女は奴の肩を持とうとしたのだ!
アベルは、己がやりたいことを邪魔されるのが一番嫌いだ。
故に、自分の道を邪魔だてする聖女を監禁した。
(オレの言うことだけを聞いていればいいってのに。よりにもよってあのエルヴィンにケツを振りやがって。どんだけチョロインだよ!)
おまけに、物語終盤で貰えるはずの力をくれといっても渡さないの一点張り。
あれさえあればエルヴィンをぼっこぼこにしてやれるのに!
……しかし、まさかこちらの行動がバレたわけではないだろうな?
そんな不安をかき消すように、アベルは大声で叫ぶ。
「あのエルヴィンがやったんだ! 奴は聖女を監禁している! 今すぐ奴の屋敷を立ち入り検査するべきだ!」




