悪役ポジション……変わろうか?
決闘の一件について、教師からちょっとだけお小言を貰った以外は、特に目立った罰則は受けなかった。
どうやら勇者の奇行については教師の耳にも入っているらしい。
「なんとか決闘だけは避けられなかったのか?」
「さすがにアレの相手は無理です。言葉が通じません」
「……そうか」
そう言うとあっさり引き下がったので、間違いない。
学校から出ると、ハンナが小走りで近づいてきた。
その目が、少々血走っている。
もう何言うかがわかるな。
「消――」
「さない!」
ほらな。
なんでもすぐ消そうとするんじゃない。
人間はパソコンじゃない。
一度消したら、再起動出来ないんだぞ。
「事故を装えば――」
「ヤろうとするなってば……」
ずいぶんと好戦的だな。
勇者といい勝負だ。
「それにしても、圧勝でしたね。攻撃をかすらせることもありませんでしたね」
「……見てきたように言うな?」
「見てましたから」
「…………」
えっ、あの場にいたの?
忍び込んで?
ファンケルベルクの筆頭使用人、すげぇな。
全然気づかなかったわ。
「そういえば、何故攻撃されなかったんですか?」
「……触れたら壊れるぞ、あいつ」
うん、正直になろう。
めっっっっっちゃくちゃ弱かった!
なんだアイツ。
これまでの人生、どんだけサボったらあんなに弱くなれるの!?
正直、弱すぎて引いた。
戦う価値もないって、格好付けや煽りの台詞じゃなくて、本当に実在する感覚なんだな……。
「あれでも一応は、聖皇国公認の勇者だ」
「見逃すのですか?」
その時、ハンナの瞳から光が抜け落ちた。
ぞっとする程深い闇。
やばっ。
そういえばこいつ、ファンケルベルク一筋だったっけ。
家を馬鹿にされてんのに放置したなら、俺の背中に穴が空きかねんな……。
あっという間に落命の危機。
背中に冷たい汗が流れる。
頭をフル回転させて、出て来た言い訳は。
「いや、泳がせる」
「……と、言いますと」
「今は弱すぎて話にならん」
「?」
「お前は、子犬に吠えられただけで消すのか?」
「なるほど、今はヤる気にならないと。よくわかりました」
くっ、消すとかヤるとか、ファンケルベルク語かなんかなのか!?
なんで穏便な言葉じゃ伝わらねぇんだよ……。
○
この一件を境にして、勇者がプロデニの基本シナリオからはずれ――孤立していった。
いやマジでどうなってんだ?
シナリオはずれすぎだろ。
プロデニ本編だと、結構取り巻きがいて、ワイワイ談笑してるシーンいっぱいあったぞ?
なのに今の勇者くんときたら……。
教室の中央にぽつんと一人座ってる。
周りには誰もいない。
近づいたら絡まれると思ってるんだろ、きっと。
うん、俺でも思うよ。
だってめっちゃ絡まれたし。
いきなり決闘だ! とか言う奴の近くに寄りたい奇特な人なんてこの世におるんか?
――あ、いた。
ニーナだけは勇者の近くにいるんだな。
まあ……内心仕事仕事!とか思ってそうだが。
あれで平常心を保ててる勇者がすご――。
「――ッ!!」
勇者がギロッと俺を睨んだ。
うん、全然平常心じゃないな。
怖い怖い。
俺も近づかないでおこーっと。
三ヶ月もすると、もう勇者は空気になっていて、誰も動向を気にしなくなっていた。
これっていじめに入るのか?
危ない奴に近づかないって判断は、いじめになるのか?
よくわからん。
最近勇者がおとなしくて平穏が保たれてるが、時々怖くなる。
どこかで暴発するんじゃないかって。
あるいは、爆発する場所を待ってるのか……。
入学して初めての訓練授業。
はい、二人一組になって剣術のお稽古をしましょー、なんて緩い授業じゃなくて、ガチでぼこぼこになるまで殴り合う。
「どんな怪我をしても、国定回復士がいるから大丈夫だ」
というのが、この授業担当の教師の言葉だ。
「でも、気を抜くなよ? 当たり所が悪けりゃ死ぬからな。実際、毎年何人かは死んでる。ハッハッハ!」
何笑ってんだよ。
事件だろ。
まあ今年は国定回復士と一緒に、心強い仲間(?)もいる。
「アタシ、一応これでも聖女だし。心臓止まってなきゃ元通りに治せるわよ。みんな、心臓だけは止まらないように頑張ってね☆」
いやその台詞はどうなんだ。
逆にみんな腰引けてんぞ?
「念のため繰り返すが、この訓練ではファイアボールなどの放出系の魔法は一切禁止だ。あくまで肉体だけでぶつかり合ってもらう。追い込まれても魔法だけは絶対に使うなよ? 使ったら停学。最悪退学だからなッ!」
人が集まってる中で素人が放出系の魔法なんて使ったら、どれだけ怪我人が出るかわからないからな。
最悪、死人が出る。
魔法はあくまで魔法の授業でしか使っちゃダメ、絶対。
立てかけてある木剣を手に取る。
さあて俺の相手は……って、まあ、探すまでもないか。
「よお、首洗って待ってたか?」
初めから殺意マックス。
殺る気十分のアベルくんが、俺の前に立ちはだかって顔を歪ませた。
君のその顔、完全悪役なんだけど……。
絶対俺とポジション変えたほうがいいよ。
勇者と俺がやるってことになった途端に、みんなが一気に壁際に引っ込んだ。
いいぞやれやれ、って感じじゃなくて、巻き込まれないように逃げただけだ。
「裏でクラスメイトを操ってオレを孤立させてんだろ?」
「……そんなことをして、俺に何の得がある?」
「裏でオレを嗤ってたんだろ!!」
えっ、嗤うためだけに、クラスメイトを操ったって?
やらねぇよそんなこと。
手間に対してリターンが釣り合ってないだろ。
「今日、ここで叩き潰してやる」




