戦いのゴングは観覧席で?
ラウラ(意訳)「なんとか回避した方がいいんじゃなくて?」
ニーナ(意訳)「一発殴ったらおとなしくならないかしら?」
よし、ニーナ案を採用だ!
うん、まあさすがに簡単に勝てるとは思ってない。
なんせ勇者だしな。
才能は折り紙付……というか開発の手がたっぷり入ってる。
いくらステータスをがっちり固めたからって、そう簡単に勝てるとは思っていない。
反面、入学当初の勇者と戦って、今の自分の力がどれくらい通用するかを見てみたい気持ちもある。
「ふん、怯えて声も出ないか」
「……」
うん、マジで殴ったら黙らないかな?
機械じゃないから無理か……。
訓練室で、俺はアベルと向かい合う。
ここには訓練用の武器が並べられているが、アイツが手にしているのは真剣だ。
マジもんの決闘かよ……。
殺す気まんまんじゃねぇか。
さすがに真剣相手に木剣は分が悪すぎる。
俺も真剣を使用させてもらう……が、やりにくいなあ。
勇者に傷を付ければ聖皇国と外交問題になる。
かといって手抜けば、こちらが殺られる――かもしれない。
いや実力がよくわからんから、なんとも言えんが……。
さて、どうしたもんかな。
剣を抜いて作戦を考える。
すると、目の前の勇者がぷるぷる震えだした。
みるみる殺気が強くなっていく。
いや、なんだよこの情緒不安定モンスター。
飼い主がいるならなんとかしてくれ!
「貴様ァ、今すぐその剣を返せ!」
「……は?」
「それは、オレの剣だぁぁぁ!!」
次の瞬間、勇者が俺に斬りかかった。
おいちょっと待て。
まだ開始の合図も出てねぇぞ!
慌てて回避。
すぐさま体勢を立て直す。
「今すぐ返すならば、貴様の命だけで許してやろう!」
「これは我が家の刀剣だ」
「返さんと言うなら、ファンケルベルクごと潰す!」
「少しは話を聞けッ!」
次から次に、攻撃が繰り出される。
それをギリギリで躱す。
紙一重。
急所に向けた攻撃さえ、手加減がない。
うわーマジで殺しに来てんな。
めっちゃ怖いんだが?
剣をゆらゆら揺らしながら、打開策を探る。
何度目になるか。
勇者の攻撃を躱した時だった。
「何をやっているんだ!」
教師が割って入った。
おお、救いの神よ!
「新入生にはまだ訓練室の使用許可が下りていない。勝手な行動は慎みなさい!」
「……ちっ。命拾いしたな」
ふむ。
教師には噛みつかない程度の理性はあるのか。
肩を怒らせながら訓練室を出て行く勇者を見送り、俺はやっと剣を鞘に戻したのだった。
○
エルヴィンと勇者の決闘が繰り広げられる中、ラウラは――なんの因果か聖女とともに観戦していた。
「これは、酷いですわね」
「あちゃあ。ここまで一方的になるとは思わなかったなあ」
酷い、一方的、というのは決闘についてだ。
現在、エルヴィンにも勇者にも決定打が入っていない。
だがどちらが勝っているかは火を見るより明らかだ。
勇者の攻撃はすべて回避されている。
しかも、すべてが紙一重で、だ。
完全に攻撃が見切られている。
おまけに勇者は自らの攻撃を制御出来ていない。
振り切った後、剣の重さに負けてよろめいている。
対してエルヴィンは、切っ先をゆらゆらさせて、一切攻撃の素振りを見せない。
――が、その切っ先は勇者の急所にことごとく向かっている。
下手に踏み込めば、勇者は致命傷を負うに違いない。
まさか、エルヴィンがここまで強いとは……。
彼はきっと、史上最高の公爵になるだろう。
これまで抱いてきた淡いものが確かな色として、今まさに胸に焼き付いて熱を発する。
心拍数が上がり、呼吸が乱れる。
その横で、同じような視線で見つめる瞳。
ニーナは7年前を思い出しながら、ぎゅっと強く
(ああ、やっぱり、すごく強かったんだ)
そうだよね。
(なのに、武力を誇らず最後までアベルとの衝突を躱そうとしていた)
うんうん。
そうでなくちゃね。
予言の勇者は、アベルで間違いない。
でも自分にとっての勇者は、アベルではない。
彼のように金に物をいわせ高級レストランに行こうとしたり、言うことを聞かなかったら無理矢理引っ張っていく人じゃない。
他人のものを自分のものだと言い張ったり、罪もないものに罪をなすりつけたりする人じゃない。
何気ない話題で笑って、食事だって庶民的なものを食べる。
話をきちんと聞いてくれて、無礼な人間が相手でも暴力的にならない。
そして――他人を守る為に命をかけられる人こそ、自分にとっての勇者だ。
「すごく……良くってよ……」
「うん、良いね」
ん?
うん?
この時、頬を赤らめた二人の視線がぱちりとぶつかった。
む?
むむむ?
もしかして……。
別のゴングが鳴ろうかというその時だった。
教師が訓練室に飛び込んで、戦いを終結させたのだった。




