彼との時間
リアスは会話できる時間が少ないことを悲しみ、登下校の馬車の中でカミュ第二王子と二人きりで、何か怖い思いをしていないかと心配してくれた。
この心配はとても嬉しかった。
なぜならカミュ第二王子は最初から私の隣に座りたがり、すぐにスキンシップを始めたのだ。といってもそれは手を握ったり、頭を撫でたり、髪や手の甲へ口づけをしたりといったもの。キスであるとかそれ以上は今のところない。
それでもスキンシップが多いことを明かしたら、リアスはきっと怒りを通り越して悲しみそうだった。一晩、枕を涙で濡らしそうな気がしたのだ。よってここは明るく伝えることになる。
「リアス、心配をかけてごめんなさいね。馬車の中では確かに二人きりよ。しかも隣の席。でもそれだけ。何かされそうになっても、私は強いから大丈夫よ」
「アドリアナを信じていないわけではないけど……。それでもやっぱり心配だよ」
うるるんな瞳で見られると、リアス愛い!となり、抱きしめたい衝動に駆られる。
「それに……秋休みに入って、アドリアナと一緒に過ごせるのは嬉しかった。てっきりカミュ第二王子殿下が、秋休みの最中も『アドリアナと過ごす』と言い出すかもしれないと思ったから……」
(リアス、ごめんなさい。そこは裏事情があるのよ。この秋休み、レイノルズ侯爵邸で過ごすこと、それは私がカミュ第二王子に認めさせたの。リアスと私は相思相愛だけど、この秋休みの間に気持ちを断ち切る。そのための時間が欲しいとお願いしたの。想いの冷却期間を得られないと、カミュ第二王子のことを一生愛することはできないと伝えて……)
結果としてそれは上手く行ったが――。
秋休み明け、そこからはカミュ第二王子の前で、リアスの話題を出すのは禁止。リアスとの会話も控え、なるべく接近しないなど、カミュ第二王子からは細かいオーダーが入っていた。
つまり秋休みは天国であり、地獄だった。
リアスと過ごせるのは天国。
でも終わればリアスと距離を完全に置かなければならない地獄が待っていた。
「アドリアナ、ここだよ」
声に意識を今に戻し、プラタナスの木を見上げる。
中庭の中で一番目立つオブジェにもなっているプラタナスの木。その大きさは目を見張るもの。
木陰の下で寛げ、目の前では噴水を観覧もできるのだ。
「! 見て、布が敷いてあるわ」
「僕たちより先回りして、用意をしてくれたのだと思う」
そう言うとリアスがチラリと屋敷の方を見る。
つられて見ると、飲み物をこちらへ運ぼうとしているメイドの姿も見えた。
「座ろう、アドリアナ」
リアスに手を引かれ、腰を下ろす。リアスも私の横に座ると、こちらを見て微笑む。
「こんなふうに腰かけて、池のそばでティータイムをしていたわよね。まだ二人だけで朝の練習をしていた時」
「そうだね。そんな時にジャスパー、セーブル、アンバーの三人が現れて、池ドボン事件が起きた」
「そうね。まさにそうだったわ!」
そこにメイドが来て、飲み物を置き、ブランケットを渡してくれる。リアスはメイドに「ありがとう」と微笑む。
容姿端麗で笑顔が素敵なリアスに、妙齢のメイドはポッと頬を染める。だがリアスはメイドのその反応を見ることなく、透明感のある美しい碧眼を私に向けて微笑む。
「アドリアナ、木にもたれよう。そしてこのブランケットをこうやって一緒にかける」
プラタナスの木に二人して寄りかかり、ブランケットを膝の辺りで一緒にかけた。
「!」
リアスが自身の頬を、私の頭に載せるようにした。さらに左手は、私の右手をぎゅっと握りしめている。
「……アドリアナ。秋休みが始まった。こうやって一緒に過ごせるのはとても嬉しい。でも……僕は今だけでは満足できない」
「リアス……」
「僕は欲張りだから、これから先もずっと。アドリアナと一緒がいいと思っている」
そこでリアスは真剣な表情で私を見る。
「アドリアナは何か策を考えていると言っていたよね。アドリアナのこと、信じている。でも心配なんだ。僕は特に何もしていない。アドリアナは僕にできることはないと言うけれど……。でもアンバーには何か協力を仰いでいなかった?」
「ええ、確かに。アンバーにはちょっと協力を仰いだわ。でも本当にリアスはそのままでいいの」
私の言葉にリアスは真剣さから一転、不安そうな表情へと変わる。
「……最近、夢を見るんだ。アドリアナがカミュ第二王子殿下と結婚式を挙げていて、僕は……その様子をただ眺めるしかできない。身動きもとれず、声も出せず、ただ二人が笑顔なのを眺めているだけっていう夢だ……」
そう言って視線を伏せるリアスを見て、胸に迫るものがある。
今のグイグイくるカミュ第二王子を見ていると、私が笑顔であるかどうかはともかくとして。本当に悪役令嬢である私と挙式しそうな勢いだった。でもそうはならない。私がカミュ第二王子の婚約者におさまったら、そこからがリスタートだ。ヒロインであるマーガレットのリベンジマッチも始まる。カミュ第二王子は今度こそ私と婚約破棄し、マーガレットとシナリオ通りでゴールインだ。そして悪役令嬢には死が待っている……。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きは明日公開します。























































