二人で幸せになりましょう
「サンフォード公爵令嬢、隣に座ってもいいですか?」
馬車に先に乗り込むと、カミュ第二王子が私に尋ねる。
カミュ第二王子は、少し癖のあるプラチナブロンドに、エメラルドのような瞳で、とにかく常にキラキラエフェクトをまとっているように輝いていた。背景音は「シャラーン」という感じで、薔薇の花束を持たせたら無双しそうなキャラだった。
初めて十二歳の彼に会った時、私はこんなふうに思っていた。
(可愛い~。SDキャラみたい! キーホルダーにして鞄にぶらさげる! アクリルスタンドにして動画撮りまくりたい!)
でも今は違う。
決闘に負け、私に手出ししないと誓約していたのに、父親の国王陛下の力を借りた。
(そこはもう単純にズルいわ! あざとい!)
そう思ってしまう。
次男であるカミュ第二王子は、王太子とは違い、両親である国王陛下夫妻からは甘やかされて育てられた部分も多い。欲しいものがあった時。どうおねだりすると効果的なのか。それも心得ていたのだろう。
まさか国の英雄の命を天秤にかけ、私とリアスの婚約解消を迫るなんて、普通ではありえない。しかしこの世界、そもそも普通ではない。何せ乙女ゲームの世界なのだ。しかも全力でシナリオの正しい流れ、設定に戻そうと、強制補正がかかっている。
ゆえにあり得ないことがまかり通り、そして現在進行形でそれは続いているのだ。
「隣に……カミュ第二王子殿下とは、隣で座り合うような関係ではまだないと思うのですが」
「僕の気持ちを知っているのですよね、サンフォード公爵令嬢。そんな冷たい言い方はしないでください」
リアスに上目遣いされると、もう胸がドキドキだった。しかし同じような仕草をしているカミュ第二王子を見て、ときめくことはなかった。
さらに私が「まだ婚約もしていないのに、隣に座るのですか!?」という意図を示しても、カミュ第二王子は一切気にしていない。つまりそのまま私の隣に腰を下ろした。
(ポーズで聞いただけだったのね……)
ため息をついたその時。
「悪いが馬車に近衛騎士は乗らないでください。馬車に並走する形で騎乗の近衛騎士が付くようにしてください」
これには「えっ!」と思わず焦る。
(未婚の男女、しかも婚約もしていないのに、馬車で二人きり!? 通常、令嬢なら侍女を、令息なら従者、そしてカミュ第二王子なら近衛騎士と共に馬車に乗るべきなのに!)
だが近衛騎士が乗ることもなく、馬車は私とカミュ第二王子の二人を乗せ、走り出してしまう。
「殿下、いくらなんでもこれは」
「アドリアナ」「!?」
いきなり二人きりになったら名前を呼び出したカミュ第二王子に震撼する。
「秋休みが明けたら、手続きは迅速に進めます。婚約式もすぐに挙げたいのですが、王族ともなると、婚約式でも自由が利きません。でも婚約はすぐに行います。婚約式は三カ月後でしょうね」
すっかり私と婚約する気満々のカミュ第二王子を見て、私は黙り込むしかない。
「既に僕の方ではできる準備を進めました。サンフォード公爵令嬢と婚約できることが、嬉しくて堪らないのです」
そこでカミュ第二王子は確認するように私へ尋ねる。
「僕は身も心も、サンフォード公爵令嬢と婚約できる状態です。ですが君はどうなのですか? 間もなく僕と婚約するのに、元婚約者になる令息と未だに登下校を共にしていましたよね? これでは僕が心配になっても、仕方ないと思いませんか」
そう言うとカミュ第二王子は、隣に座る私の髪をひと房自身の手に取った。そしてそっと口づけをする。
(こんなふうに私に触れていいのはリアスだけなのに……!)
不快感が強く湧き上がる。
「……リアスと私は相思相愛です。殿下が水面下で変な画策をしなければ、そのまま結婚していました。私たちの仲を強引に引き裂いたのは殿下です! リアスのことが好きなのですから、ギリギリまで彼と過ごしたいと思っても、それこそ仕方ないのでは!?」
我慢も限界でそう言うと、カミュ第二王子の顔から表情が失われる。
まさに建物の影になる場所を馬車が走っているのだろう。馬車の中も暗くなったが、間違いなくカミュ第二王子は怒っている……。
「……サンフォード公爵令嬢。本当は君は僕と婚約しているはずだったのです。でも僕は王族であり、第二王子。意に沿わぬ帝国の第二皇女との婚約なんて、僕からしたら悪夢でした。ですがようやく呪縛から解かれたのです。二人で幸せになりましょう」
「婚約するはずだった……そんなことはないです。私は十二歳の時のお茶会の後、殿下が主催したお茶会にも呼ばれていません。国王陛下夫妻が私は殿下の婚約者には相応しくないと判断されたはずです」
するとカミュ第二王子は大きくため息をつく。
「父上と母上の……国王陛下夫妻がどう思おうと関係ありません。あの時、僕はまだ幼く、上手く立ち回ることが出来なかったのです。でも今は違います。僕は二度と君を失うわけには行きません。誰にも渡すつもりはないですから」
その笑みは大変美しいが、何だかその裏に狂気をはらんでいるようで、ゾッとする。
(間違いないわ。確認出来た。もしここで何か策を考え、それが功を奏し、カミュ第二王子との婚約を阻止出来たとしても。また彼は画策する。それは彼自身がそうするというより、この乙女ゲームの世界がそうさせるのかもしれないけれど)
つまり、逃げ切ることはできない。
(リアスと私。この世界で結ばれるのは……無理なのかもしれないわ……)
お読みいただき、ありがとうございます!
悪役令嬢の役割から逃れることはできない……!?
続きは明日、公開します!
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