意味深な答え
リアスとレイノルズ侯爵夫人は実に上手く動いた。私のアドバイス通りで話を進め、国王陛下……その背後で画策するカミュ第二王子を上手く納得させたのだ。
つまりもうすぐ秋休みが始まる。秋休みの十日間は役所も休みで、皆、行楽の秋を楽しむ。婚約を解消するには、裁判所への提出書類もある。よって秋休みが明けたら動き出す。何より、自身の父親であるレイノルズ侯爵は大変な目に遭い、帰還するのだ。そこで婚約解消の話を持ち出すのは、あまりにも間が悪い。諸々落ち着くのは、秋休み明けなので、そこから動く形にして欲しいとお願いしたのだ。
これは理にかなったものであり、文句をつけるなら、いちゃもんに近くなる。ゆえに皇帝陛下サイドの「分かった」により、打ち合わせはこれで終わる。そして事態は動き出す。
レイノルズ侯爵を人質にした反政府組織は、彼の命と引き換えで、クロノス王国と交渉するはずだった。しかしまさかの帝国軍とクノロス王国軍との挟み撃ちに遭い、散り散りバラバラで逃げ惑うことになる。
そのまま帝国軍は一気に反政府組織の壊滅に動き、その結果──。
反政府組織と通じていたのが、皇帝の側妃の一人であることが判明した。
イストス帝国では、皇后が二人の皇子を産まないと、側妃を娶ることが許される文化だった。その側妃もなかなか身籠らないと、もう一人、側妃を迎える。ダメなら、また新たに……という感じで、側妃はどんどん増えていく。それは後継者を確実に得るための手段になっていた。
こうして現皇帝は皇后に加え、三人の側妃を娶っており、その一人が裏切っていたことが判明している。その側妃は元々反政府組織のリーダーと恋仲だったが、情報を得るため皇帝に近づいたところ、惚れられてしまった。そこで体を張ったわけだ。
愛する人がいながら、皇帝の側妃となり、革命を起こそうとして失敗をした。最期は反政府組織のリーダーともに、無数の矢を受け亡くなったという。
今回の一連の出来事は「乙女騒乱」とクロノス王国とイストス帝国の両国で命名されることになった。もちろんこれは、貞操の危機にさらされ、クロノス王国の英雄に救われた第二皇女の悲劇を踏まえた命名だった。
こうして「乙女騒乱」は、発生から十日程で完全に沈静化される。
リアスの父親であるレイノルズ侯爵は、第二皇女の純潔を守ったということで、帝国から勲章を授けられ、クロノス王国でも騎士の鑑として褒章が贈られた。さらに双方の国から現金報酬も与えられている。国内ではレイノルズ侯爵の人気がさらに高まり、『戦争の英雄』という呼び名に加え『乙女の守護者』とも呼ばれるようになった。
ちなみに解放されたレイノルズ侯爵は、その強靭な肉体でなければ耐えられないような、ひどい目に遭っていた。食事も水分もろくに与えられず、さらに気まぐれで鞭打ちをされる。薔薇戦争で肉親を亡くしていた者もいたので、ここぞとばかりで石を何度も投げつけられていた。怪我の手当てもされず、かなり非人道的な扱いを受けていたのだ。
もしもあの日。私との婚約解消を渋り、決断に時間がかかっていたら……。いくら強靭な肉体のレイノルズ侯爵でも、再起不能になっていた可能性もある。よってあの場で即断したことに後悔はない。
ただ、耐え難いことが起きる。
「サンフォード公爵令嬢。今日からは僕と登下校を一緒にしましょう。やがてそうすることが当たり前になるのですから」
いろいろなことが落ち着き、秋休み目前となったその日の午後の授業が終わった後。つまりはまさに下校しようとしていたその時、カミュ第二王子が私のいる教室へやって来た。その上でいきなり登下校を共にすること、それがやがて当然となると言い出したのだ。
何も知らないジャスパー、セーブル、アンバーは、怒りの反応を示す。
「カミュ第二王子はご乱心か!?」とジャスパー。
「登下校を共にするって……。あり得ないだろう」とセーブル。
「やがて当然になるとは、夢でも見ていらっしゃるのでしょうか」とアンバー。
リアスは何かを言い掛け、それを呑み込み、私を見る。
すべては秋休み以降と言っているのに。ルールを破るカミュ第二王子にはイラッとするが、婚約を解消すること。それを既に認めてしまっているリアスは、何も言えない。
そして私は一つの答えに気持ちが向かいつつあった。
それを確認するために。
能面のような無表情で答える。
「……分かりました。カミュ第二王子殿下と登下校を共にします」
抑揚のない声で答えているのに、カミュ第二王子は満足そうな笑顔で私に手を差し出す。
(早速、エスコートをする……ということなのね)
その手を振り払いたい気持ちになる。しかし我慢して手を載せる。
「な、何しているんだよ、サンフォード公爵令嬢!」
ジャスパーが私の肩を掴むが、リアスが「ジャスパー」と声をかけ、手を離すようにと伝えている。
「僭越ながら、カミュ第二王子殿下。サンフォード公爵令嬢は、こちらにいるレイノルズ侯爵令息の婚約者です」
アンバーが丁寧な言葉をかけると、私をエスコートして歩き始めたカミュ第二王子は足を止め、ニコッと笑顔で返す。
「そうですね。今のところはまだ」
なんとも意味深な答えに、今度はセーブルが「いくら王族でも度が過ぎませんか! 誓約書はどうなっているんだよ!」と今にも飛びかかりそうになり、それはアンバーが止めてくれた。
さらに歩き出すと、ヒロインであるマーガレットがじっとこちらを見ている。何か言いたげだが、私の顔を見ると黙り込む。
それはそうだろう。
今、自分でも自覚している。
カミュ第二王子にエスコートされている私は、上機嫌の彼に対し、心底不快という顔をしているのだから。決して自分から嬉しそうにエスコートされているわけではない――それはマーガレットにも伝わったようで、彼女は息を呑み、私とカミュ第二王子を見送ることになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
乙女ゲームの強制力が第二王子有利に働く中、私は……
本日、もう1話公開します!























































