突然、教師に呼ばれ……
レイノルズ侯爵が率いる、クリムゾン・ファングス騎士団が、イストス帝国との国境沿いで起きている小競り合いを鎮静化するため、首都を出発した。それは朝刊で大々的に報じられることになった。
新聞を読んでいない者は、新聞を読んだ者から話を聞いた。こうしてクリムゾン・ファングス騎士団と戦争の英雄が動いたことは、あっという間に首都に暮す人々が知るところになる。
リアスはいろいろな意味で注目を集め、それから三日後。
授業中にリアスは突然、教師に呼ばれ、そのまま教室に戻ることがなかった。
◇
「リアス、どうしたんだろう?」
一限目の授業が終わり、セーブルが首を傾げ、アンバーは遠慮がちに口を開く。
「レイノルズ侯爵とクリムゾン・ファングス騎士団が現地に到着したのは、一昨日ですよね。もしかしたらそちらで、何か大きな動きが……あったのかもしれません」
何か大きな動きと言ったら……。
(まさか戦が始まってしまったの!?)
不安は募る。だが授業と授業の合間の休憩時間はあっという間に終わってしまう。
始業のベルが鳴り、席に戻るが――。
リアスが戻らないまま、二時限目の授業が始まる。
二限目の途中でリアスが戻って来るかと思ったが、それもない。そのままリアスが不在で二限目の授業が終わり、三限目の授業が始まった時。
私はたまらず教師に問いかけていた。
「レイノルズ侯爵令息が一時限目の授業の途中で先生に呼ばれ、教室を出て行きました。以後、彼は席に戻りませんが、どうなっているのでしょうか? 荷物も残っていますし……」
「そうですね……」
三限目の授業の教師は考え込み「教頭先生にも確認します。ひとまず授業にしましょう」と答える。その表情は真剣であり、それ以上尋ねることが憚られた。
(何かが起きているんだわ。その何かは……戦の可能性が高い。でも戦が始まったなんて、教師は迂闊に口にできないはずよ……)
国王陛下の開戦を伝える号外が配られ、国民が知ることになるのが普通。一部の貴族は国政に関わっているから、一足先に事情を知るだろう。だが学生である私たちが事態を知らされるのは、もっと後になる。
もしも戦になったら、レイノルズ侯爵は……。
彼だけではない。
貴族令息の多くが、ノブレス・オブリージュに従い、戦場へ駆り出される。
(そうなったら剣の腕が立つリアスだって……。特にリアスは戦争の英雄であるレイノルズ侯爵の息子よ。期待だってされるだろうし、国は……リアスを利用すると思うわ)
不安なまま、三時限目は終わり、休み時間になるが、リアスは戻らない。だが一旦退出した教師が戻って来て、私に声をかける。
髪をひっつめにして、グレーのデイドレスを着て丸眼鏡をかけた彼女は、年齢より老けて見えてしまうが、まだ二十代後半だった。その教師が私を廊下に連れて行った。
「サンフォードさんはレイノルズ君の婚約者でしたよね。きっと彼は今、愛する人の支えを必要していると思うのです。彼は宮殿へ向かい、今頃は母親と一緒に屋敷へ戻ったはず。早退を認めるので、レイノルズ侯爵邸へ向かうといいわ。あなたのご両親とレイノルズ公爵夫人に一報を入れておきます。すぐに自身の荷物と、レイノルズ君の鞄も持ってきてくれますか?」
これには「わ、分かりましたっ!」と答え、慌てて教室へ入り、帰り支度を始めた。私の動きに察しのいいアンバーが動き、リアスの鞄に教科書やノートなどをしまってくれる。
「リアスのところへ、レイノルズ侯爵邸へ行くのか?」
セーブルに尋ねられ、私は「うん。リアスの早退理由は教師から詳しく教えてもらうことはなかったわ。でも何かがあったと思うの。そこで私はリアスの婚約者だからと早退を許してもらえたのよ」と答えた。
「なるほど。……自分も心配だし、気になるけど、大人しくしているよ」
「サンフォード公爵令嬢、リアスの荷物です!」
「ありがとう、アンバー! セーブル、心配かけてごめんなさい。何が起きているのか。まだ分からないから何とも言えないけれど……。でも大丈夫。何があってもリアスのことは私が守る!」
アンバーからリアスの鞄を受け取りながらそう答えると……。
セーブルとアンバーは顔を見合わせ、吹き出す。
「サンフォード公爵令嬢は、昔も今も変わらないな!」
「ですがさすがにもうリアスを抱き上げるのは無理ですよ。池ドボン事件の時のように、リアスをお姫様抱っこするのは……やらないでくださいね」
セーブルとアンバーにそう指摘され、私は「さすがに分かっているわ! お姫様抱っこは無理よ。でも肩から担ぐなら……短時間ならできると思うの。テコの原理も応用することで」と答えると……。
「サンフォード公爵令嬢はさ、そこは少し乙女でいいんじゃないか? 君が助けるぐらいなら、自分が担ぐよ!」
「そうです! それにリアスはもう昔と違い、強いですから。池ドボンのようにはなりません。もう泳げるようにもなったので、自力で動けますよ」
セーブルとアンバーのそんな言葉に見送られて教室を出る。
「では行きましょうか」
教師がリアスの鞄を持ち、エントランスに向け、歩き出した。
お読みいただき、ありがとうございます!
リアスのことは私が守る!
続きはまた明日~
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