確かに!
「アドリアナ、今日は放課後、一緒に過ごそう。最近アドリアナ、何かと用事が多くて、放課後は別々で過ごしていただろう?」
昼休みが終わり、カフェテリアから教室へ戻る時にリアスにそう言われ「確かに!」となっていた。
ヒロインであるマーガレットとカミュ第二王子の距離を、何とか縮めようと奮闘した結果。リアスと過ごす時間が減っていた気がする。ヒロインとはクラスも違うから、必然的に何かするなら昼休みや放課後になっていたのだ。
(リアスには寂しい思いをさせてしまったわ!)
「リアス、ごめんなさいね。何かと予定が入って、確かにリアスと過ごす時間がなかったわ。今日は何も予定がないから……。公爵邸の温室で過ごす?」
私の言葉に、リアスの顔がぱぁぁっと輝く。
「うん! ぜひそうしよう! 放課後、公爵邸に行くと、いつも美味しいお菓子を出してもらえるし、楽しみだな」
マーガレットは作戦がことごとく失敗したので「もう何もしなくていい」と私に告げていた。
確かに一向に成果が出ないので、ここは一旦クールダウンした方がいいと、私も思っていたのだ。ゆえにマーガレットには「分かったわ」と応じ、また何かあれば声をかけてと伝えている。
(ということで放課後の予定が埋まる事態にはならないわ! 気兼ねなくリアスと過ごせる!)
こうしてこの日の授業が終わると、いつものメンバーで馬車に乗り、リアスはそのまま公爵邸にやって来た。
「まあ、レイノルズ侯爵令息! ようこそお越しくださいました。アドリアナ、今日は二人で宿題でもするの?」
「宿題も……しないといけないけれど、温室で少しのんびりしたいの。お母様、お茶はそちらに用意してくださる?」
「ええ、いいわよ」
母親は私にそう応じると、リアスを見る。
「レイノルズ侯爵令息、良かったら夕食を食べて帰る? もしそうなら使いを出しておくわよ」
母親の提案にリアスは喜び、夕食は公爵邸で取ることになった。
リアスの父親はおそらく今回の有事、つまりは今朝、馬車の中で話していたイストス帝国の件で、国王陛下に呼び出されている可能性が高い。
(まだ戦争というわけではないけれど、場合によってはリアスのお父様が現地調査を命じられる可能性もあるわ。戦争になりそうな可能性が高かったら、そのまま即戦闘に移れるようにするために)
もしそうやってリアスの父親が家を空けることになったら、リアスは母親が寂しくならないよう、夕食は自身の屋敷で取るようになるだろう。つまりこれまでみたいに公爵邸で一緒に食事はできなくる。
私がリアスのお屋敷を訪ねることも出来るけど、そうなると二十時までに帰宅する必要があり、慌ただしくなってしまう。
結局、平日の放課後にリアスの屋敷で夕食は、そう出来るものではない。
(もしもを考えると、こうやってリアスと公爵邸で食事が出来るのは、貴重ね)
温室に到着し、中央のスペースに置かれたテーブルに腰を下ろすと、リアスがこんな提案をする。
「アドリアナ、お菓子を頂きながら、宿題をやっちゃおうか?」
「そうね。それが終わらないと、落ち着かないわ」
すぐにメイドがお菓子と紅茶を出してくれるので、お菓子を摘みつつ、紅茶を飲んで宿題を行った。
「リアス、この数学の問題が分からないわ……」
「ああ、それはまともに解こうとしないで、この公式を使うといいよ」
「え、そんな公式、知らないわ!」
「まさにその公式を習うための宿題だね」
「そうだったのね……!」
リアスのおかげで宿題は次々と片付いていく。
「あ、あとはこの王国史の問題は解けば、お終いね」
「そうだね」
「お嬢様、レイノルズ侯爵令息様、夕食の用意が整いました」
まさにちょうどいいタイミングでメイドが呼びに来てくれて、夕食をいただくことになった。夕食の席には、私の両親が勿論同席している。
前菜が出され、スープ、魚料理、肉料理と食べ進めている間、話題は他愛のないことだった。学校の勉強はどうであるか。秋休みには別荘に行くつもりだから、リアスも一緒にどうか――なんて話していたのだけど……。
「旦那様!」
ヘッドバトラーが慌てた様子でダイニングルームに登場。どうしたのかと思ったら、父親に耳打ちをしている。そしてその話を聞いた父親はハッとした表情になり……リアスを見た。
これには何だか嫌な予感で、心臓がドキッとする。
「レイノルズ侯爵令息。君の母君から使いが来た。昨晩国境近くで、イストス帝国と小競り合いが起きたそうだ。最初は酔っ払いの喧嘩のようなもだったが、今日になっても収まらない。それどころか双方、国境を越え、いがみ合う事態となり、混乱している。鎮静化を図るため、レイノルズ侯爵が率いるクリムゾン・ファングス騎士団の派遣が決まった」
父親の言葉を聞き、リアスはぐっと自身の唇を結ぶ。
奇しくも今朝、馬車の中でこの件をみんなで話していた。その中で、たらればの話として、クリムゾン・ファングス騎士団が現場に向かう可能性も話していたのだ。よって青天の霹靂というわけではない。
それでも心臓がドキドキしている。
私がこんな状態なのだ。リアスはもっと鼓動が激しくなっていると思う。
「ただ、まだ小競り合いであり、戦にはなっていない。出征というわけではないそうだが、国境付近が緊張した状態が続いている。よって支度が整い次第、移動を開始するそうだ」
これにはリアスの肩から力が抜けるのが見て取れた。私自身も安堵の息を大きく吐いている。
もし反政府組織が現政権と皇族を排斥するために動いていたとしても、クリムゾン・ファングス騎士団が現れたとなれば、尻尾を巻いて逃走しそうだ。反政府組織の目論見。それは騒ぎを起こし、帝国とクロス王国との間で、あわよくば戦が起こればいいと思っていたはず。でもまさかいきなり最強の騎士団が投入されるとは思っていないはずで、まさに泡を吹く事態になるだろう。
それはそれとして、わざわざ公爵邸にいるリアスのところへ、この知らせが届けられた理由。それはつまり、レイノルズ侯爵は、夜明けと共に屋敷を出るということだ。もし別れを惜しむなら、早々に帰宅した方がいい。
「母上からの知らせを教えていただき、ありがとうございます。デザートをいただく前ですが、退出させていただいてもよろしいでしょうか?」
リアスが私を見て、両親に視線を向ける。私も父親も母親も、リアスの言葉に異論などない。それは分かり切ったことなので、父親が答える。
「勿論、それで構わない。見送りはアドリアナに任せよう」
お読みいただき、ありがとうございます!
風雲急を告げる事態です……!
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