最悪なタイミング
背中に火傷を負った理由。
私の推理を聞いたカミュ第二王子は、嬉しそうに頷く。
「正解です」
そう答え、こう語る。
「反政府組織によるテロ行為には屈しない……ということで、今回の婚約を維持することも考えました。ですが僕が熱湯をかけられたのは、皇宮だったのです。皇宮は……王宮と同じで、国の中で一番厳重に警備されていないといけない場所。そこで白昼堂々暗殺が遂行されたとなると……。今の帝国の政府の求心力は落ちていることになります。そして皇族の中に裏切り者がいる可能性も浮上しました」
もし皇族の中に裏切り者がいるなら、クーデターが起きる危険もある。ここで皇女とカミュ第二王子との婚約を維持するのは諸刃の剣だ。
もしクーデターが成功すれば、第二皇女は逆賊扱いになる。彼女をもしクロノス王国が庇う形になれば、新政府を樹立した帝国と紛争が起きかねない。クーデターが失敗に終わり、反政府組織を壊滅できたなら、それが最善になる。だが皇族の中に裏切り者がいて、かつ皇宮にまで暗殺者が入り込める状況だと……。たとえクーデターが失敗で終わっても、二度目、三度目の反乱が起きるリスクがある。
そんな危うい帝国とカミュ第二王子が婚姻関係を結ぶのは……。
今回、婚約解消の流れになるのは仕方なく思える。
だがしかし。
「事情から察するに、今回の婚約破棄は……致し方ないことに思えます。ですがカミュ第二王子殿下と第二皇女、お二人は相思相愛。お二人の気持ちを考えると……辛い決断でしたね」
するそこでカミュ第二王子が、あの影のある表情になる。
(しまったわ。暗殺の件を話しても、当事者同士の気持ちの部分まで、踏み込むべきではなかったのね……。私、またもやらかしてしまった)
そう思い、シュンとするが、カミュ第二王子は表情を戻し、不思議そうに尋ねる。
「第二皇女と僕がどうして相思相愛だと思うのですか?」
「え……」
「僕自身、一度も第二皇女に対する気持ちを言葉にしたことはないのですが」
「え、あ、でも、デビュタントが終わっても……」
そこでハッとする。
デビュタントが終わっても帰国しなかったのではない。
帰国できなかったのだ。
火傷を負った状態で、長旅は無理な話。
(なるほど。つい人伝えで聞いた話を信じ切っていたわ。第二皇女とカミュ第二王子は……相思相愛ではなかったのね)
「僕としては帝国との第二皇女との婚約は政略結婚以外の何物でもない。父親から……国王陛下から第二皇女との婚約を命じられた時は、ショックでした」
「……そうだったのですね。それは……辛かったですね」
(カミュ第二王子は第二皇女との婚約、乗り気ではなかったのね。そしてデビュタントで実際に第二皇女と会っても、その気持ちは残念ながら変化しなかった……。きっと第二皇女がカミュ第二王子の好みの女性ではなかったのだわ)
「自分が王族であるため、政略結婚は避けられないことと思っていました。ですが第二王子である僕と婚約しても問題のない令嬢に、一目惚れをしていたのです。ただ両親には難癖をつけられ、反対されて……。確かに少し変……というか不気味なところはありました。でもそこを上回る魅力があったのです。機転も利き、頭の回転が速く、一緒にいて飽きないような令嬢でした」
これには大いに驚くことになる。
(第二王子の婚約者になるような令嬢は、機転も利き、頭の回転が速く、一緒にいて飽きないような令嬢ではないと思うのだ。おしとやかで、大人しく、控えめで、一緒にいて安心できる、落ち着いた令嬢を選ぶのではないかしら?)
「僕は不本意ながら政略結婚の道を進むことになり、彼女もまた婚約してしまいました」
「そうだったのですね。そうなるともう諦めるしか……」
「でも僕は婚約が解消となったのです」
それは確かにそうだ。
今、カミュ第二王子は完全フリー。
(ということはヒロインであるマーガレットは、押しの一手でカミュ第二王子を攻略できてしまうのでは!?)
そうなれば悪役令嬢など不要で、マーガレットはカミュ第二王子とゴールインできる。
(そうよ! 今こそ、マーガレットは動くべきなんだわ! 何か彼女が動きやすくなるよう、私はすべきかしら!?)
そんなふうに考え込んでいると、膝にのせていた私の手を、カミュ第二王子が不意にぎゅっと握った。
これはあまりの不意打ちで「???」となる。
「サンフォード公爵令嬢」
「は、はいっ」
答えながら、カミュ第二王子の手を外そうとするが、そこは男性。力強く、普通にやっては外せない。
「僕はお茶会で会った時、君に一目惚れしているんです」
「はいっ!?」
「僕がずっと片想いをしているのは、君なんです」
そこは前世記憶持ちの悪役令嬢として危険信号を感じ、いつもの手首捻りで、カミュ第二王子の手を外す。彼が驚いている間に、私は椅子から立ち上がりながら告げる。
「殿下のお気持ちはとても恐れ多いです。それに私は婚約者がいますので」
乙女ゲームの世界の強制補正がかかっていると感じ、もうこの場から逃げたいと思っていた。
だが――。
立ち去ろうとする私をカミュ第二王子が抱きしめた。
「待ってください。行かないでください、サンフォード公爵令嬢!」
「ちょっと」
やめてください!と、いくつかの体術を使うことを考えたが、相手は王族。使う技は、そのことを加味しないといけないと思ったその時。
「アドリアナ」
リアスの声が聞こえた。
お読みいただき、ありがとうございます!
わーーーっ!(アドリアナの心の叫び)
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