サンフォード公爵令嬢!
図書館へ行こうと、まさに渡り廊下を進もうとした時。
「サンフォード公爵令嬢!」
声を掛けられ、振り返ると、そこにいるのはカミュ第二王子!
これには瞬時に緊張感が走る。
ちらっと見ると、そこに学友である宰相の息子ダグ、公爵令息のロンの姿はない。近衛騎士は馬車で待機で、さすがに校内をうろうろしていなかった。
つまり今、カミュ第二王子と二人という状況。
(これは……ゲームの強制補正なのでは!?)
焦る私に対し、カミュ第二王子は落ち着いた様子で話しかける。
「サンフォード公爵令嬢。林間学校での件、手紙で御礼はしています。でも僕自身の口からはまだ、ちゃんと御礼を言えていないですよね。本当は直接、公爵邸を訪ねたかったんです。でも新聞で君も見たと思うけど、いろいろあって、その時間を作れませんでした」
「カミュ第二王子殿下、そこはお気になさらず。ご多忙なのは承知しています。それに私は大したことはしていません。むしろ翌日に回収すればいいとおっしゃられた殿下の言葉に反する行動を提案してしまい、申し訳なく思います」
「そんなことありません。実は近衛騎士によると、あの晩、僕たちが寝静まった後、怪しい集団が森の中を徘徊していたそうです。まさに僕たちが雷雨に遭遇した辺りをウロウロして……。突然の雷雨で逃げ惑った時に落としたものを、拾い集めているようでした。僕の剣も発見されていたら、きっと盗まれていたでしょう」
これを聞いた私はビックリだった。
(そんな一味がうろついていたなんて!)
「怪しい一味を発見した時、近衛騎士は全員起きて、剣を手に警戒しました。彼らが出す殺気は凄まじいですから。その怪しい者たちは僕たちのところへ近づかず、去っていったそうです。結局何もなかったので、あえて話しませんでした。話したところで心配したり、僕に申し訳ないと思うと思ったので。でもサンフォード公爵令嬢が、ご自身の提案を謝罪されたので、間違っていなかったと伝えたくて、打ち明けることにしました」
「なるほど。そうだったのですね」
そこでカミュ第二王子は少し癖のあるプラチナブロンドを揺らし、提案する。
「こんな立ち話をするのもなんですから、そちらの中庭の東屋で座って話しませんか。お時間はとりませんから」
終始一貫、カミュ第二王子の対応は丁寧であり、私に声をかけた理由も明確だった。ただ御礼を正式に自分自身で言いたいと。そして中庭の東屋は人目につかないような場所ではないし、渡り廊下からもバッチリ見える。こんな場所で、この前みたいに急に私の手を握るなんて行動は……しないと思えた。
(それに本人も時間をとらないと言っている。ここで王族である彼の申し出を断る事由もないわ。これだけオープンな場所で「二人きりは……」なんて言ったら、自意識過剰よ。社交としてもここは応じて、手短に話を聞いて終わらせるのが最善だと思う)
「分かりました。殿下からの御礼を、謹んでお受けしたいと思います」
「ありがとう、サンフォード公爵令嬢」
微笑むカミュ第二王子は王族らしく、実に洗練された動作で私に手を差し出す。ここは彼の手に自分の手をのせ、エスコートしてもらうことにする。
東屋は四本の柱とドーム型の屋根で壁はなく、中にはアイアン製のテーブルと四脚の椅子が置かれている。そこに対面で向き合う形で座ると、カミュ第二王子はとても丁寧に御礼の言葉を伝えてくれた。
「林間学校では急な雷雨があり、僕は自分の剣を失うところでした。無事、帰還し、後日父上に確認したところ……。その剣は王家に代々伝わる名剣で、初代建国王が特別に作らせたものだったそうです。鋭い切れ味はあるものの、この剣を使わずに済むことを誓った。そして実際、一度もあの剣が戦闘で使われることはなかったとのこと。だからこそ、僕のところに渡ることになったのです。つまりとても貴重な剣でした。失くしたら大変なことになっていたと分かりました」
そこで言葉を切ると、彼は席を立ち、右手を胸に添え、恭しくお辞儀をしてくれる。
「あの時、ちゃんと取り戻すことを提案いただき、ありがとうございます。また近衛騎士が不在の中、武術に覚えがあると付き添って下さったこと、心から感謝です。騎士のようなサンフォード公爵令嬢がそばにいてくださり、安心できました。それに僕の怪我を手当てしてくれたことにも、謝意の気持ちを伝えたいです」
再度お辞儀をしてくれたカミュ第二王子に「そのお気持ち、しかと受け取りました」と返し、ようやく彼は椅子に腰を下ろした。
(王族にこんなふうに感謝されるなんて。驚きだわ……)
「火傷の方は大丈夫なのですか?」
「ええ、宮廷医にも見ていただいており、ちょっとした外科的な手術も受けながら、皮膚に柔軟性を取り戻すことになっています」
「そうなのですね」
そこでカミュ第二王子はあのエメラルドグリーンの瞳をまっすぐに私に向けて尋ねる。
「どうして火傷を負うことになったか。知りたいですか?」
お読みいただき、ありがとうございます!
声の主はこのお方でした~!
続きはまた明日♪























































