愛するとは
カミュ第二王子にも、私にも、それぞれ愛する人がいる。だからゲームの力が、カミュ第二王子と悪役令嬢である私の間で、野宿イベントを発生させても。
(何の問題はないわ!)
そう思った矢先で、カミュ第二王子が不穏なことを言う。
「今宵、ここで僕と一晩過ごしたことが、社交界で噂になったら……君とレイノルズ侯爵令息の婚約は……壊れてしまうでしょうか?」
「な……そんなことは起きませんよね? 殿下にだって婚約者がいらっしゃるじゃないですか。しかもお相手はイストス帝国の第二皇女です。変な噂が立てば、私とリアスが破談するより、殿下の婚約が受けるダメージの方が大きいじゃないですか」
社交界でカミュ第二王子と私が野宿したことが噂になる……それすなわち、王家が噂して良いと許可したことになる。そんなことを許可して、メリットなど一つもない。デメリットしかないのだ。そのことを私は今、カミュ第二王子に伝えていた。
(王族と皇族の婚約。それは国同士の盟約でもある。破ることなんて許されない)
「それに愛していらっしゃるんですよね、第二皇女のことを」
その瞬間。
またもカミュ第二王子の顔に、暗い影が落ちる。
(しまった! またやってしまったわ! 第二皇女と会えなくて、カミュ第二王子は今、とても寂しい想いをしているのだ。しかも真面目な性格。本当に愛しているなら、第二皇女のことを一人にしない。帝国にあのまま自分は残るべきだった――と自身を責めている可能性もあるのだ。だからこそ、こんなに暗い表情になるのだと思う)
「サンフォード公爵令嬢」
カミュ第二王子は暗い表情のまま、エメラルドグリーンの瞳で私を見て尋ねる。
「愛するとは……どういうことなのでしょうか」
「!?」
「君は……レイノルズ侯爵令息を愛していると、なぜ分かるのですか?」
(第二皇女と会えない辛さが、一周回ってカミュ第二王子を、哲学の世界へ導いてしまったのかしら!? 愛するとはどういうことなのか――なんて尋ねるなんて!)
驚きであるが、カミュ第二王子を元気にするには、私のリアスへの愛を語るしかあるまい。
「リアスへの気持ちは……一時的な感情の高まりではないんです。知り合ってから時間をかけ、お互いを知る中で、彼のことを信頼し、尊敬し、大切にしたいと思うようになりました。最初はこの感情を友情だと思っていましたが……。リアスに想いを告げられ、私も彼と同じ気持ちだと気づいたんです」
(弟子であるとか、弟みたいだとか、友とか仲間だとか言っていたけれど、本当は違う。リアスは私の好きな人だったと、気づけたわけだ)
「それと私は……もしかすると殿下の知る令嬢とはちょっと違うかもしれません。……リアスのこと、守りたいんです。リアスを泣かせる人のことなんて認めないですし、リアスを危険な目に遭わせる人も許しません!」
つい気持ちが昂り、立ち上がって演説するように話してしまった。カミュ第二王子はビックリした顔で私を見上げていたが……。
クスクスと笑い出した。
「確かにサンフォード公爵令嬢は、僕の知る令嬢とは全然違いますね。愛する人を守りたい……まるで騎士のようです」
カミュ第二王子にそう言われた瞬間。脳裏には池で溺れたリアスを救い出した時のことを思い出していた。
(確かにリアスをお姫様抱っこする私は騎士。対してリアスは乙女だわ!)
「君に愛されるレイノルズ侯爵令息は、果報者ですね」
そこでカミュ第二王子が「うっ」と眉をひそめ、唇を噛み締めている。
「カミュ第二王子殿下、どうされたのですか……?」
そこで彼が座る岩に、何かがぽたっ、ぽたっと垂れていることに気づく。
(え、血!?)
驚き、駆け寄り、そして仰天することになる。
「で、殿下、背中が……火傷を負われたのですか!?」
その火傷は塞がっているものの。真皮の深いところまで到達した火傷は、治癒後でも皮膚が引きつれを起こしやすい。その結果、傷跡の再裂開や小出血が起きやすい。まさに今、それが起きたのだろう。
(背中は体の動きが反映しやすい場所。ちょっと胸の辺りや肩甲骨周りを動かしたり、体をひねったり、前屈や後屈をしたりするだけでも、影響が出てしまうわ)
「うん。火傷です。注意をしているのですが……」
「……もしかして包帯をお持ちですか?」
カミュ第二王子が頷き、ずた袋に目をやる。
私は「では失礼して」と、ずた袋の中から包帯を取り出す。見ると軟膏もあったのでハンカチで血を押さえ、軟膏を塗り、包帯を巻く。
「手慣れているのですね」
「はい。お祖父様の屋敷で暮らしている時は、武術の練習もしていましたし、森の中を歩き回っていたので。この程度の怪我の処置は覚えました」
そこで包帯を巻き終わり、結び目を作ろうとしていると、カミュ第二王子が私の手をぎゅっと握った。
お読みいただき、ありがとうございます!
ドキドキ展開が続きます!
続きは明日、更新します~























































