エスコート役
美青年リアスの提案で始まったプレデビュタント。
その中で、思いがけずジャスパーから告白され、アンバーからは愛人願望を打ち明けられ、セーブルとは友情が深まり、そして――。
「お嬢様、デビュタントのエスコート役をされるレイノルズ侯爵令息が、お屋敷を出発されたそうです」
「そうなのね。道は混んでいないかしら?」
「知らせを持ち帰った従者によると、まだ渋滞は始まっていないそうです。今日はデビュタントがあるので、宮殿近くの馬車道は、荷馬車や幌馬車の移動は禁止されています。迂回するよう、首都警備隊が交通整理も行っていますよね。あと二十分ほどでレイノルズ侯爵令息が到着し、出発すれば問題なく宮殿へ着くことできるかと」
そう、今日はもうデビュタント当日で、私をエスコートする役は、美青年リアスで決定していた。
プレデビュタントの日、父親はこう言っていた。
『さて。残りはリアス・テゼ・レイノルズ侯爵令息、君だけとなりました。君だけだからと、合格にするつもりはない。ダメだったらダメと、今回のプレデビュタントから選ばれる一人はいなかった――そうするつもりですが……君はどうでしたか? 自信のほどは?』
これに対して美青年リアスはこう答えた。
『自信はあります――こう断言すると、驕っていると思われてしまいそうですが、『自信がある』と言えるまで、僕は努力しました。三年前までの僕は、努力などとは無縁で過ごし、自分で無理だと壁を作っていたのです。でもそれを越える勇気をもらえる出来事があり……。僕は変わることができました。そこからは、努力は無駄にならない。諦めてはいけないと信じ、生きています。よってエスコートも、ダンスも、万全を尽くしました。これでダメと言われたら……何がダメだったのかを知り、ダメだったところを乗り越えたいと思います』
とても前向きであり、そして私が言っていた通り、最善を尽くしてくれていた。もし美青年リアスでもダメだというなら、父親は誰に私をエスコートさせるつもりなのか、問いただしたいぐらいだった。だがリアスの言葉を受け、父親は――。
『素晴らしい。君のような友人がアドリアナにいると分かり、わたしも妻もとても嬉しく思います。レイノルズ侯爵令息。君のエスコートは完璧でした。娘が無理しているところもなく、君自身もとても自然にエスコートできていました。それにダンス。あのダンスは……』
そこで父親が母親を見た。こういった場で、自身の意見を述べることはほんどない母親が、珍しく口を開く。
『あのスローワルツは、お互いに片想いする男女の切ない恋心がテーマになっている曲です。このテーマをレイノルズ侯爵令息とアドリアナは、ダンスをしながら見事に表現していました。距離が縮まり、遠ざかり、視線が交わり、吐息がぶつかり――。もう見ていて鳥肌が立ちました。大変素晴らしいダンスでしたわ』
実は母親は私を産む以前、知り合いのマダムの娘である伯爵令嬢に、ダンスの指導をしていたことがある。つまりダンスがかなり得意。その母親が今の言葉を言うということは、余程のことだった。要は美青年リアスのダンスのリードが、それだけ素晴らしかったということ。
こうして両親のお墨付きを得た美青年リアスが、デビュタントのエスコート役を任され、今日を迎えたわけだ。
デビュタント当日である今日は、朝から準備に追われた。入浴はミルク風呂と薔薇の風呂の二回行われ、髪も綺麗に洗い、乾かし、きっちりアップにしてティアラを飾っている。デビュタントのために仕立てた白のドレスは最高級シルクが使われ、その光沢の美しさは息を呑むもの。オペラグローブや宝飾品を身に着け、完璧な準備が終わったところで、美青年リアスの出発を知らされた。
「あ、そうでした、お嬢様。最後に香水を」
「ああ、そうだったわね」
既に薔薇風呂に入浴し、薔薇の香油を全身に薄付けしているので、薔薇の香りはほんのりしていた。ここにいつも使っているバニラの甘い香水をふんわりと足す形になる。
「では軽く」
ふわっと甘い香りをまとうと、「あ~、いいですね~。芳醇な薔薇の香りにバニラの甘味が加わり、うっとりしますよ、お嬢様。なんだかお嬢様のことを食べたくなります」と侍女が言い出すので、ここは笑うことになった。
そんなことをしていると、ヘッドバトラーがわざわざ部屋に来て、両親がエントランスホールに向かったことを教えてくれる。まだ美青年リアスは正門を通過していないが、あらかじめエントランスホールのソファに座り、到着を待つということだ。
(そんなふうに待つのは、余程の相手の時なのに)
でもプレデビュタントの夕食会の後、隣室に移り、美青年リアスを含めた令息四人と父親は、歓談を楽しんでいた。途中から父親とリアスは二人で会話を続け、さらに後日二人は手紙のやりとりもいしていたようなのだ。
(リアスはすっかりお父様のお気に入りね)
そんなことを思いながら、侍女に告げる。
「私もエントランスホールへ向かうわ」
お読みいただき、ありがとうございます!
ドキドキのデビュタントが幕を開けます!
続きは明日、公開します〜
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