拳と拳を合わせて
アンバーとのダンスを終え、控え室に戻り、次は……。
セーブルだ。
レモネードを飲み、一息つくと、セーブルがエスコートを申し出る前に、ちゃんとレストルームにも行ってしまう。
(準備は完了。これでセーブルには余計な気遣いはさせないで済むわね。セーブル、控え室にいる間、宙の一点を見つめ、かなり緊張していたようだし。エスコートとダンスに集中させてあげた方がいいわ)
ということで、用意が整った私はセーブルに声をかける。
「ブラックウッド侯爵令息」
その瞬間、セーブルは騎士が上官に呼ばれたかのように勢いよく立ち上がり、背筋を伸ばす。
「そろそろホールへ行きましょうか」
「はい! エスコートさせていただきます」
キリッとしたセーブルのエスコートで控え室を出ようとした時から気づく。
「あ、ブラックウッド侯爵令息、もう少し腕を下げていただけませんか?」
「失礼しました!」
控え室を出て歩き始めてすぐにまた声をあげることになる。
「ブラックウッド侯爵令息、もう少し歩くスピードを落とすか、歩幅を合わせていただけますか?」
「もちろんです!」
セーブルのエスコートは何度かの微調整が必要となる。
(セーブルは完全にエスコート慣れしていないのね。それでいて副団長の息子として、武術訓練を受けている。テキパキ動くことに慣れているから、歩くのが早く、女性のペースに合わせるが一苦労なんだわ)
私がそんな感想を持ったまさにその瞬間、セーブルが大きく息を吐き、口を開く。
「……ダンスは猛特訓したんだ。練習の際、ダンスフロアの端からホール中央までの移動で、ダンスの先生から『もう少し、エスコートするレディのことを配慮してください』と注意はされていた。その時は気を付けようと思った。でもいざこうやってマスターをエスコートしていると……。今日のマスターはすごい綺麗だし、エスコート慣れてしているわけではないから、やたらと緊張して……いろんなこと、頭から吹っ飛んでいる」
セーブルは自身の今の状況を赤裸々に語る。
語り始めると、そこに意識が持って行かれるようで、早足になってしまう。そこで私は「もう少し、ゆっくりでお願いします」と声を掛けることになった。
私から何度か忠告されることで、セーブルに焦りの色が見え始める。
「全力を出さなきゃ負けるのに……」
「ブラックウッド侯爵令息、落ち着いてください」
「マスター……」
そこで共に深呼吸をすることを提案し、一旦立ち止まる。「すーはー」と繰り返すと、セーブルは落ち着いて来た。
「エスコート中もダンス中も。会話は必須ではないわ。よってこれから先は、エスコートとダンスに集中よ。会話はなくても大丈夫」
「え、でも……」
「今はちゃんとホールに到達し、ダンスすることが重要よ。もし余裕があれば、会話も楽しみましょう」
私の提案にセーブルはしばし考え、そして「そうする」とやっと応じてくれる。
そこからのセーブルはまずはエスコートに集中。ホールの入口まで到着した時、彼の額には汗が浮かんでいる。そしてそのままホールへ入り、フロアの中央へ。
向き合ったセーブルに笑いかけ、「大丈夫。ダンスは猛特訓したのでしょう」と伝えると「はい!」と彼は強く頷く。
そして始まったダンス。
猛特訓しただけあり、セーブルのステップと動きにミスはゼロだった。ただパートナーのリードの部分は、少し力が強すぎたり、性急過ぎたり。女性と踊っていることをつい忘れてしまう部分はある。
それでもセーブルなりの精一杯で踊れたのだろう。
最後のポーズをとり、ダンスを終えると……。
「マスター、ありがとう! 自分、今できる全力を出し切れた。傍から見たら、全然だ。マスターから見ても、まだまだだと思う。それでもこれなら、自分が選ばれなくても……。仕方なかったと思える。今の自分では無理だったと納得できると思うんだ」
「そう。それなら良かったわ。エスコートもダンスも、慣れだと思うの。これから私たち、舞踏会や晩餐会にも顔出す機会が増えるわ。エスコートも経験を重ねれば、スマートにできるようになる。それにね、令嬢にも癖があると思うの。極端に歩くのが遅いとか、身長差でもエスコートのスタイルが変わるわ。それも経験していくうちに分かるようになる。何も今日が全てじゃないから」
私の言葉にセーブルの鼻が赤くなる。
彼がこんなふうになるのは珍しい。
「セーブルがそもそも私をマスターと仰ぐのは、武術を……体術を習いたかったからでしょう? だから私をエスコートできなくても……ダンスできなくても、気にする必要はないじゃない」
「そんな、そんなことはない、マスター!」
「!?」
「自分だって……いや、自分は……自分は……うん。マスターに……マスターの強さに憧れた。自分に一切の攻撃を許さず、池にドボンさせたんだ。マスターはまさに女傑。この三年でマスターに追いつくかと思ったけど、マスターもこの三年でさらに強くなったから……追いかけるよ、マスターのこと。これからも」
そこでセーブルが自身の拳を差し出す。私は笑顔で拳を作り、彼の拳に軽く当てる。
ヒヤヒヤだったジャスパー、考え込むことになったアンバー。そしてセーブルとは……爽快に最後は終わることができた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回、大トリを飾るのは……
続きは明日、更新します〜
明日も特別に【日中と夜】の二本立て更新にします!
お昼は、普段なかなか読みに来られない方にも楽しんでいただけるように、そして夜は、いつものお時間にお届けしますね!
ブックマークや☆で応援いただけると嬉しいです☆彡
よろしくお願いします!























































