モブ令息
カミュ第二王子が「くれぐれも彼女を責めないであげてください」と言ってくれたが。父親からは注意される可能性は大。そうなる前にと私はホールを抜け出し、併設されている小部屋に向かった。
そこはもし今日が舞踏会なら、飲み物や軽食が用意されている部屋になるはずの場所。でも今日は急遽ホールに移動したため、この小部屋にその準備はされていない。本来誰もいないはずだが、先客がいた。
一人は、おかっぱ頭のブロンドで透明感のある美しい碧眼をしている。そしてその美しい瞳から、煌めく滴を落としている。一瞬少女にも思えてしまう儚さがあるが、着ているのはミルキーな水色のセットアップ、美少年だ。
その少年の前には三人の令息がまさに仁王立ちで、美少年を見下ろしている。
リーダー格の少年は、赤毛の短髪で、顔にそばかすがある。瞳の色はチョコレート色で、少し吊り目だ。髪色と同じ、赤の派手なセットアップを着ている。その彼の右隣にいるのは、ブルーブラックの髪に、黒曜石のような瞳の少年。襟足の長いワイルドヘアで、少しオオカミっぽい。着ているのも黒のスーツで、見るからに悪に見えた。赤毛少年の左側には、長髪のブロンドを右肩の辺りで束ねた、琥珀色の瞳の男子がいる。三人の中では一番控え目に見える。ベージュのスーツを着て、インテリっぽい印象だ。
そんな三人は美少年に向け、こんなことを言い出した。
「なんだかお前、男なのに女みたいで、見ていてイライラするんだよ」
赤毛が肩をすくめてそう言うと、ワイルドヘア男子も同意を示す。
「男なのにそうやってすぐ泣くところもよくない」
この言葉におかっぱ頭のブロンド美少年はさらに「ぐすっ」と涙を落とすことになる。
「いっそのこと、女装したらいいんじゃないですか? 顔は女の子みたいなのだから、美少女になれますよ」
一番大人しそうに見えた長髪ブロンドが、最もキツイ一言を口にしている。
「そうだよ。そんな服は脱いで、ドレスでも着たらいいだろう!」
再び赤毛短髪がそう捨て台詞を言うと、三人が美少年の服を脱がせにかかった。
悪戯にしては度が過ぎているだろう。
そこで私は巾着袋からロープを取り出し、三人のそばにぽいっと投げた。そして今、ここに来ましたとばかりに声をあげる。
「きゃあ、蛇がいるわ」
私の声に三人はぎょっとする。
まず美少年をいじめている現場を誰かに見られたことに対する驚き。続いて「蛇」という言葉に反応して、ロープを見ることになる。
人間とは不思議なもので、思い込みで何かを見ると――。
「「「うわあ、本当に蛇がいる!」」」
ただのロープもちゃんと蛇に見えてしまう。
「逃げろ」「助けて」「お母様!」
三人は慌てて小部屋から逃げていく。
一方の私は美少年に近づいた。
その美少年は腰が抜けたのか、座ったまま、か弱く悲鳴を上げながら、蛇だと思っているロープから遠ざかろうとしている。
「落ち着いて。これはね、ただのロープよ」
「うわあ、蛇をつまんでいる~!」
美少年は両手で顔を覆い、絶句してしまう。
「違うわよ。これは正真正銘ただのロープで、私が投げたの。だって君、あの三人に嫌がらせをされていたでしょう? だから三人の気を逸らすためにそうしたの」
「えっ……」
ようやく美少年が落ち着いた表情になり、私を見た。
◇
本当はホールに戻り、ダンスの真似事に参加した方がいいのだろうけど。戻ったらどうせ両親から何か言われる。それに山猿令嬢になるために準備したネタは使い尽くしたし、カミュ第二王子は、想像以上に肝が据わっており、そっとやちょっとでは動じない。今日はこれ以上何か仕掛けても成果なしと判断した。
代わりに泣き虫美少年を連れ、ホールに面した中庭に出て、噴水のそばのベンチに腰掛ける。そして彼の話を聞くことにした。
「リアス・テゼ・レイノルズ……レイノルズ、レイノルズって、あのレイノルズ侯爵!?」
「はい。父親は薔薇戦争の英雄と言われているレイノルズ侯爵、その人です」
薔薇戦争というのは、十五年前のクロノス王国とイストス帝国の間で起きた薔薇を巡る紛争だった。まさに国境沿いで、自然界では存在しないはずの碧い薔薇が咲き、この薔薇はどちらの国ものかと、クロノス王国とイストス帝国で戦争になったのだ。
そんなことで戦争をと思うが、勝てばその薔薇を含む一帯を領土として手に入れることができる。よって戦争はかなり真剣な戦いとなり、決着がつかない。最終的に勝利をもたらしたのがレイノルズ侯爵で、彼の奇襲により、イストス帝国軍は総崩れになった。クロノス王国は碧い薔薇と新たな領土を手に入れ、レイノルズ侯爵は戦争の英雄として称えられたのだ。
そのレイノルズ侯爵は、豪胆な偉丈夫で知られていた。大剣使いで、ワイン樽を片腕で一つずつ担ぐことができ、馬でさえ持ち上げられると言われている。そんなレイノルズ侯爵ではあるが、ゲームではその名が登場することはない。この世界に転生して、新聞でその名を知ることになった。つまりはゲームの観点から見たら、戦争の英雄ではあるが、それでもモブ。
そのレイノルズ侯爵の息子であるリアスは、完全にモブ令息。モブだからか、ゲームでろくに設定を与えてもらえなかったからか。父親はラガーマンのようにがたいがいいのに対し、彼の息子であるリアスは、線が細く、美少女にも見えてしまう華奢な美少年だった。
「お父様に比べたら、僕はこんなにも弱々しく……。実際、僕は読み書きの方が得意で、乗馬も剣術の腕もいまいちなんです。下手だからって分かるから、練習も億劫で……。あんなふうに取り囲まれたら、どうにもならないんです。お父様ならきっと、三人まとめて放り投げることもできるだろうけど、僕には無理で……そんな腕力もないから、勝てっこなくて」
そう言って瞳を潤ますリアスを見た私はキッパリ一言、こう告げることになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
いったいアドリアは何を告げるのか!?
今日はお昼にも更新しているので
続きが気になる読者様もいると思い
早めに更新しました~
この後、いつもの時間にもう1話更新します☆彡























































