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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第二部【アメリカ横断編】第五章・オレタンジーパーク100祭り

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112「バラバラ」★海神織歌

キャラクター一覧はこちら!

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挿絵(By みてみん)

「大将!!」


 水虎が叫ぶ。

 エヴラードも父も、すぐに戦闘態勢に入る。


 乙女は口元に手を当て、楽しげにふふ、と笑った。


「……あら、ご立派ですわね。さすが”ヒロイン”の側に立つ人たち」

「乙女嬢ッ!! この方はあなたの父親だろう……!」

「勘違いなさらないで。これは“役目”ですのよ。わたくしはヒロインの”試練”を与える者。それが”乙女”の存在意義なのですもの」


 乙女の金の瞳が妖しく輝く。


「さあ、海神織歌。あなたが本当のヒロインなら、こんな窮地、簡単に抜け出せるでしょう?」


 雷鳴が真上で爆ぜる。

 喉からかすれた声が漏れた。わけがわからない。彼女は何をしたいんだ。

 わからないのに……彼女から浴びせられる憎しみが心を苛む。


「乙女……なにを……」


 一六八閣下が私をかばいながら、雨の中で歯を食いしばる。


「織歌くんは下がっていなさい。ここは吾が受ける……!」


 乙女の足元に、金色の波紋が広がる。

 その魔力は、ウヅマナキの気配と同じ色だった。


 「さ、させるか!」


 折神で鯱を召喚する。だが、一瞬判断が遅れた。

 それが戦場で命取りになるということを、私の胸元にいる一六八閣下は何度も教えてくれていたのに。

 私の攻撃を完全に読み切っていた乙女は、すました顔で鯱を避ける。


 「お前ら、乗れ!」

 

 だが私の愛しい婚約者たちはこんなへまをしなかった。ダミアンはいち早く新たに手に入れた車を走らせ、全員を救助しに来てくれた。

 大型のバンにはすでにシュヴァリエが乗り込み、エヴラードが、父がその次に続く。


「キラー、一六八閣下、水虎! ここはいったん離れよう――」


 次は私たちの番だ。残る人々に手を差し伸べ車に乗り込もうとした時だった。


「ヒロインと、新キャラはこっちデスヨ」

「コクレン……?」

 

 カラン、と乾いた感の音がする。その次の瞬間には轟くような爆発音とともに缶が爆ぜる。

 簡易爆弾だ。

 爆発は激しく、車のオイルに引火してより一層派手な音を鳴らした。


「お父さん!」

「”無事だ!”」

 

 必死で声を張り上げると、父の声が返ってくる。無事なことに安堵はするが、激しい黒煙で何も見えない。


「ほらほら。次が来ますわよ」 


 だが混乱する暇すら与えず、乙女は次々と雷を繰り出してくる。

 一六八閣下を連れたままでは逃げられない。


「おるかっ!」

 

 せめて彼を守ろうと必死で覆いかぶさると、水虎の強い力で引きずられた。


「近くに……いる者……吾に触れよ」

「一六八閣下!」

 

 一六八閣下が折神を展開する。

 折神による技の中でも最も強いとされる閣下の技は瞬間転移だ。一度印をつけたことがある場であれば、彼はどこにでも行くことができる。

 

「でも、まだシュヴァリエたちが……!」

「現場命令だ! 逃げられるものから撤退せよ!」

 

 私の心を読んだかのように、シュヴァリエが大尉の声で命令する。

 戦場での上官の言葉に私も水虎もピンと背筋が伸びて、一六八閣下の掌に触れる。

 目の見えないキラー・ホエールの手を取って、一六八閣下の元に集うと、柔らかな光と共に体が宙に浮く感覚がする。


「ここは僕たちがどうにかします!」

 

 お父さんに状況を説明されたのか、エヴラードは驚く様子もなく私たちを送ってくれる。


「ニューヨークで会おう! 織歌!」


 ダミアンの声が別れの合図だった。

 まるで大きな力の意思であるかのように、私たちは別れてしまった。

 私・水虎・一六八閣下・キラー・ホエール。

 お父さん・ダミアン・シュヴァリエ・エヴラード先生。

 コクレンとセレストは……乙女の元へ行ったのだろうか。

 

 次に目を開いた時、私たちの目の前にあったのは真っ暗な洞窟だった――


 ◇ ◇ ◇


「もういいわ。帰りましょう。コクレンさま、セレストさま」


 織歌たちを見送った後、乙女がつまらなそうに呟いた。


「”まてっ!”」

「待たないわ」


 後を追おうとする勝を一瞥すると、大きな炎と共に煙を巻き上げて行方をくらませる。

 騒然とするテーマパーク内で、勝は乙女の背を負うことはできなかった。

 

「お前っ、何のつもりだ! ゲームの世界であることをばらすなんて」

「あの莫迦ヒロインには何も理解できませんわ」

「だからって……」


 怒り心頭なセレストの唇にそっと触れて、乙女はセレストを黙らせる。


「水虎さま以外、あの集団は”攻略対象外”。そんな者たちと荒野に放たれてはヒロイン補正などなく、もう物語は終わり。わたくしたちは海底で堕ちてくるヒロインを待てばいいだけですわ」

「……もしあいつが、攻略したらどうなるんだよ」

「ありえませんわ。そんなこと」

「ドウデスカネー」


 乙女とセレストの言い争いに、コクレンがのんびりとした口調で割り込んでくる。ふああ、と興味なさげに欠伸をしたかと思うと、突然真顔になって呟いた。


「もし攻略できたら、”話”は変わってきマスネ」

コクレン、裏切りそうなやつが普通に裏切りました


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次回は12/13(土)21:10更新です。

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