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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第二部【アメリカ横断編】第五章・オレタンジーパーク100祭り

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102「100祭りじゃい!オレタンジーパーク!シュヴァリエ編!」 ★海神織歌

キャラクター一覧はこちら!

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3524077/

挿絵(By みてみん)

「シュヴァリエ、「愛のトンネル」に一緒に行こう!」

「ああ、ありがとう」

 

 私はシュヴァリエの手を取った。

 「ニューヨークの富豪」という設定の彼は高級なスーツを着ているというのに、私と目線を合わせるために膝に土をつけて屈んでくれる。

 大きな体が膝をついて屈むと目線が合う。深い藍色の瞳の中に、金色の煌めきのある宝石のような瞳。

 

 その中に――私とエヴラード先生が映っている。


「あなた方が一番怖い組み合わせなんですよ」


 あぶないあぶない、ここに彼がいなければ思いっきり口吸いをしていたところだ。

 エヴラード先生の冷たい言葉が、愛の熱で燃え上がる体を程よく冷やしてくれる。

 

「私も怖いです。危なくなったら止めてください」

「止まってくださいね、あなたも」

「それはもちろん――わっ」


「内緒話はそこまでだ」


 エヴラード先生と倫理的ジャッジの打ち合わせをしていると、シュヴァリエから優しく抱きとめられる。

 そのまま彼の大きな腕の中に包まれて抱っこされ、まるで親子のように連れ去られてしまった。


 ◇ ◇ ◇


 愛のトンネルは2人乗りボートで薄暗いトンネルの中を進んでいくアトラクションだ。

 星空を模したライトや、ロマンチックな絵画などが各所に配置され、幻想的なひと時を過ごすことができる。

 

 ――と、言えば聞こえはいいが、要はデート専用アトラクション。


 私、シュヴァリエ、エヴラード先生、キラー・ホエールの4人組は妙に浮いていた。


「なんだろ、あれ。家族?」

「家族連れだろう。さっきも他の親子を見た」

「ふふ。外人さんだとカップル用ってわかんないのかな」


 各々好き勝手なことを言っているが、シュヴァリエが余所行きの顔で優しく微笑むと全員黙り込む。

 男は巨漢の白人にけん制されたことに怯え、女は長身の美形に微笑まれたことに浮かれる。

 シュヴァリエの美貌は、男女関係なく人を魅了することができるのだ。

 

 白く塗られた小さな洋館風のアーチの入り口の上には金文字で「TUNNEL OF LOVE」と描かれている。

 ピンクの造花のガーランドで彩られているが、昼でも入口は薄暗く、その先は見えない。

 

 ボートは4人乗りのカヌー型。

 1列2席でみんなが前方を向く形で、2人で並ぶと自然と肩を寄せ合うことになる。

 前列に私とシュヴァリエ、後列にエヴラード先生とキラー・ホエールが並ぶ。


「家族でひとつのボートだな」

「婚約者でボートが埋まるんだから、恐ろしいものだ」

「また意地悪を言う」

  

 私がこっそりそう言うと、シュヴァリエが意地悪そうに笑う。

 こうやって私をいじめる時のシュヴァリエは楽しんでいる時だ。


(意地悪な顔をしている時が一番きれいだ)

 

 膨らんだ頬をむにむにと弄られながら、私は私しか見れないサドっ気のある美人を堪能した。

 

 *** 


 ボートは水流の力で穏やかにゆっくりと進んでいく。

 薄暗いゾーンにはちらほら【KISS HERE】と書かれたキスコーナーが存在し、わざとらしくボートはそこで止まる。

 コーナーには絵画が飾られていて、ランプの優しい光が私たちを照らす。

 絵画の中の恋人たちは視線を絡め合い、甘く熱く愛を囁いている。


 他のボートも別の場所で止まっているのだろう、くすくすと可愛らしい恋人たちの笑いが響いてくる。


(口吸い……したい……)


 私がこんな(6歳児)体でなければ全てのキスコーナーで口吸いをしたのに!

 

「シュヴァリエ……」

 

 シュヴァリエの白い肌に触れると、彼も優しく手を握り返してくれる。


「私はこんな姿なのに、あなたが欲しくなってしまう」


 シュヴァリエは静かに微笑んで顔を近づけてくれる。

 長い睫毛が揺れる様が見えるほど近づいて、期待に胸をときめかせて目を閉じる。

 

(こんなに暗かったら誰も気づかない)


 体の年齢なんか関係ない、そう思って唇に神経を集中させる。

 だが、シュヴァリエの唇は頬にあたり――


 かぷりと唇で頬を咥えられた。


「あでででで」


 歯は当たっていないので痛くはないが、頬を引っ張られる感触に間抜けな声が出る。

 犬が玩具を加えるように軽く左右に揺られると、やっと話してもらえた。


「シュヴァリエー……」


 何をするんだ。

 思わず彼の名を呼ぶと、シュヴァリエはやはり意地悪そうな顔で笑った。

  

「今は駄目だ」


 がたん、と音を立ててボートは進む。

 キスコーナーから離れ、今度は星を模した灯りの元へ誘われる。

 まがい物の星空は電気の力で瞬き、暗闇が光る洞窟を煌々と照らしている。

 

 その中に一つだけ炎が燃えるランタンがあった。

 改修前の電飾が残ってしまったものなのだろうか。

 電飾の輝きには遠く及ばない光が、ひとつだけ寂しく輝いている。

 

(だが、火の灯りは安心する)

  

「……貴方と会うまで、私はこの洞窟のような暗闇にいた」


 洞窟の中の幻想に見とれていると、シュヴァリエが静かに語りだす。


「まがい物の光なのに美しいと持ち上げられ、あの中のひとつのように輝くことを求められた……」


 その声は寂しい。


「それを救ってくれたのはあなただ」

 

 だがシュヴァリエはぎゅっと私の手を握り、まがい物の星の光に照らされる私を見つめている。 

 

「あなたの魂を愛している。姿は関係ない。体の繋がりなど、なくても構わないんだ」

 

「だから焦るな」と頭をぽんぽんと撫でられる。


「うん。私もあなたのその心が好きだ」


 私は彼を求める気持ちをぐっとこらえて、ただ手を繋いで瞳を見つめる。

 絡めた視線はきっと、口付けよりも熱かったと思う。

 

 ◇ ◇ ◇


 一方その頃、後席のエヴラードとキラー・ホエール。

 

「ちょっと、あそこキスしちゃいますよ」


 何度もやってくるキスコーナーにエヴラードは戦々恐々としていた。

 情熱的なシュヴァリエと織歌は【キスしてはいけない】関係の中でも最悪の組み合わせだ。

 

 織歌は6歳の体とは言え心は20歳。

 互いの了承があればキスくらい……と思いもするが、ここは法治国家アメリカ。

 そんなことをすれば手を出した方はアルカトラズ(牢獄)行きだ。

 

 そうならないためにも自分はストッパー役を仰せつかったのだろう。


「キラー・ホエールにはなんも見えねーんですよ」

「音は聞こえるでしょう。ほら、キスしそうな会話してる」

 

 隣の席に座るキラー・ホエールに状況を相談するが、彼はぷいとそっぽを向いてしまう。 

 

「……もしかして、嫉妬してます?」

「し、嫉妬なんかしてねーですよ! キラー・ホエールは奴隷なんですから……」

「奴隷制度はもう終わってますよ」

「魂の話です!」


 シュヴァリエと織歌の声が聞こえる度、キラー・ホエールは明らかに不機嫌になっていた。

 シュヴァリエへの嫉妬というよりは、その感情に答えが見つけられない自分への憤りなのだろう。


「……これからも、奴隷のままでいいんですか?」 


 罪な女だ。

 エヴラードはため息をつきながら、新たな友人に発破をかけてやる。


「それは……」


 キラー・ホエールはうつむいて、それ以上何も答えなかった。

当時の若い男女が2人っきりに慣れる空間は希少だったので、愛のトンネルは人気だったとか。


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100祭りなのでしばらく毎日更新です。

次の更新は明日【21:10】!

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