1章84話 真実を知る時1 王と罪人(つみびと)
地下牢のベッドで横になっていたラスティグは、遠くに聞こえてくる足音に目を覚ました。
「……なんだ?」
食事をもってくる兵士の足音ではない。正確な時間はわからないが、食事が運ばれてくるタイミングでもないようだ。
──と、そこまで考えてから、急に馬鹿馬鹿しくなってしまった。
どうせ自分は断罪される身だ。それが今やってきたとしてもおかしくはない。近づいてくる足音がなんであれ、そんなことを考えること自体、無駄なのだ。
ラスティグは再び目を閉じた。
彼は自らの心を乱すものを、もはや受け入れるつもりはなかった。
静かに大切な人たちのことを思いながら、その時を待つつもりでいた。
しかしその足音はどんどん近づいてくる。
石畳の廊下に硬質なリズムが鳴り響いていた。
そしてついに牢屋の前で止まったかと思うと、その人物はラスティグに向かって声をかけた。
「……寝ているのか?」
その声にラスティグはすぐさま飛び起きた。
鉄格子越しにその人物を見つめ、驚きに目を瞠る。
彼の人はホルスト・ミンスク・ラーデルス国王陛下その人であった。
「陛下っ!」
彼はベッドから飛び出て鉄格子の前までいくと、国王の前に跪いた。
「申し訳ございません。……私は……この手でサイラス王子をっ──」
続く言葉をホルストの差し出された手が制した。
「それ以上はもうよい……ラスティグよ」
頭上から降ってくる国王の声は、悲しみの感情の中に、ラスティグに対する慈しみがあるように感じた。
しかし国王がどんな表情でその言葉を言っているかはわからない。
ラスティグは冷たい石の床を手のひらで掴むように爪を立て、ただじっとそれだけを見ていた。
もう死への覚悟を決めていたはずなのに、跪いて俯いた自身の首筋に、今にも断罪の刃が振り下ろされるのではないかという恐怖が、ゾクゾクと体の中を駆け巡るのを感じた。
「サイラスを……殺してしまったのは私なのだ。お前のせいではない」
「え……?」
思いもよらない国王の言葉に、思わず顔を上げてしまう。一瞬だけ悲しそうな瞳と目が合った。
「も、申し訳ございません!」
すぐさまラスティグは再び頭を垂れると、じっと体を強張らせて国王の出方をうかがった。
「……よい。それよりももっとその顔を私に見せてくれ」
ラスティグは国王の言っていることがよくわからなかったが、言われたとおりに顔を上げ国王を見た。
そこには年齢よりもずっと年老いて見える一人の男がいた。
「……お前は本当に彼女に似ているな。美しさと強さとを両方併せ持っている」
国王はラスティグに向けて話しながらも、どこか遠い記憶に想いを馳せているようだった。
その言葉に出てきた女性にラスティグは心当たりがあった。
自分がずっと求めて、そして本当の意味で手に入れる前に、あっという間に失ってしまったもの。
「……それは……母のことですか?」
相手が国王陛下だということも忘れ、母に関する事を聞きたいという願望が勝ってしまった。
「そうだ。お前たちの母親ミーリアのことだ」




