③
そう言うと兄はスーツのジャケットのうちポケットから、2枚のチケットを取り出した。
私はそのチケットを見て言った。
「何?それ…」
「招待券だよ…。『豪華クルーザー!一週間の夢の旅』。貰ったんだけど…俺、仕事で行けないからさ…」
兄は私にチケットを手渡した。
「葵と行ってこいよ」
私は少し高揚したが、兄が葵の名前を出したので少し冷めた。
「私は嬉しいんだけど…葵、行くかな?…お兄ちゃん知ってるでしょ…葵、こういうの興味無いの…」
兄は言った。
「いいから、誘ってみ…葵のやつ、最近退屈そうだぞ」
「どうして?」
「捜査協力は相変わらず手伝ってくれて、助かってんだけど……慣れちまったのか、少し飽きた様子なんだよ…」
私は兄の言いたい事が、だいたいわかった。
「で、これに連れって行って、気分転換させろと?」
「流石は俺の妹…察しがいい」
「あのねぇ…私は、葵の保護者じゃないのっ!」
「まぁ、そう言うなよ…せっかくの夏休みだぜ…」
私には願ってもないチケットだったが、葵が素直に行くとは思えなかった。それでも、葵以外の人間と旅行する気も無いので、誘ってみる事にした。
「わかった…葵、誘ってみる…。ありがとう、お兄ちゃん」
「心配すんな、葵は行くよ…」
兄が何を根拠にして、葵が行くと思っているのか、わからなかったが…私は素直に兄の好意を受け取った。




