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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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15/21

15話:必要なもの、そうでないもの

 何で、どうして。

 そう呟きながら、リュシエールの姉であるオクタヴィアは、形の良い爪をぎりり、と噛んだ。


「……何で……」


 本来ならば、リュシエールが死んでいてくれていい。そうすれば、リュシエールの死を口実として魔界に攻め入ることが出来る。

 それが、人間界サイドの思惑だったのだ。


「……おかしい」


 確かに、リュシエールの死を口実にできるのであれば、それに越したことはない。

 だが、リュシエールがそんなに簡単に死んでしまうわけない。リュシエールの蔑称……もとい、魔力がない人に対して使用されている『ホワイト』について、魔力ゼロ、という認識ではあるものの、本当はそうではないことをオクタヴィアは知っているのだから。


「あわよくば、魔界産の天然の魔石をこちらに流してもらうことを期待していたのに……、あのリュシエールが死ぬとかありえない。……生きていないはずがないのよ!」


 叫びながら、湧き上がってくる怒りに任せて思いきり部屋に飾られている花の生けられていた花瓶を思いきり床に叩き落した。

 がしゃん、と大きな音がしてしまい、使用人が慌ててオクタヴィアの部屋に入ってきた。


「オクタヴィア様!」

「今……って、大丈夫でございますか!!」


 わいわいと賑やかな様子でオクタヴィアの部屋にやってきた使用人たちは、手際よく片づけをしていく。オクタヴィアは必死に笑顔で取り繕いつつ、これからどうするべきなのかを必死に考えていた。

 しかし、どうしたものかと考えたところでうまい考えが出てこない。


「……あ」

「オクタヴィア様?」

「いいえ、何でもないわ。皆、片づけに来てくれてありがとうね」


 オクタヴィアがにこりと微笑むと、使用人たちが嬉しそうに笑顔を返してから部屋から出て行った。

 それを確認し、尚且つ、足音が聞こえなくなったのも確認し、オクタヴィアはさっとレターセットを取り出して手紙を書き始める。勿論、リュシエールに向けての手紙。


「死んでいるわけがないのよ……だって、死んだら死んだで、魔族側の報告や届があってしかるべきなんだもの!」


 もしリュシエールが生きているならば、利用価値がある。

 生きているとするならば、魔王妃となっていないにしても、リュシエールがどうにかして魔族に上手く取り入ったということだろう…そうであれば、私の役に立ってもらおうか。


 そうと決まれば、魔界にはどうにかして手紙を届けなければいけない。

 最悪の場合は死んでも問題ないような奴隷を使用してしまえば良いだけのことだ。オクタヴィアには隠し持っている奴隷もいるし、手紙を届けるだけならば片道だけで良いから、一人だけ捨てれば良い。

 ただ、それだけなんだ、とニヤリを笑みを深くしてから、オクタヴィアの専属執事を呼んだ。


「オクタヴィア様」

「これを1号に渡して。それから、魔界に届けさせなさい」

「……は」

「死んでも別に構わないわ、だって奴隷なんだし……そんなものでしょう?」


 とても綺麗な微笑みを浮かべて言うオクタヴィアに、専属執事はゾッとするが彼女の目は至って本気そのものである。


「し、しかし……」

「良いから、早くしてちょうだい! 魔界に届きさえすればいいんですからね!」

「……は、はぁ……」


 困りきったような執事だったが、オクタヴィアの言うことは絶対とされている。勿論、これはオクタヴィアが決めたことではあるのだが、逆らうととても面倒になるから、執事は溜息を吐いてオクタヴィアが所持している奴隷のところに向かったのだった。


 当たり前だが、いくらオクタヴィアの命令といえど、奴隷たちは死にたくないと叫ぶ。

 何せつい最近、『魔界に行ったら生き抜くことなんてできやしない』という情報が彼らに伝えられていたからだ。これまで奴隷に対しても丁寧に接してくれていたオクタヴィアは、こんなことはしない、と勝手に奴隷たちは信じていた。

 だからこそ、そのオクタヴィアから『ちょっと魔界に行ってくれるか、片道だけで良いんだから楽勝でしょう?』というお達しがあった、と聞いてしまったために、奴隷たちは騒然としてしまったのだ。


「何でですか!」

「……も、もし生きて帰ってきたとしても、こちらの体調に何かあれば対応はしてくれるんですか!?」


 と、奴隷たちだって死にたくないから必死に執事に縋りついてくる。

 だが、そんな彼らをばっと振り払ってから、執事は冷酷に言い放った。


「あなた方は奴隷、それもオクタヴィア様に買われた存在ですよ。主人のために死ぬくらい、どうってことないでしょう?」

「そんな……」


 確かに、いつかはこんな日が来ると思っていた。だって自分たちは奴隷なのだから、主人を守るために身を挺することもあるとは思っていた。だが、それはあくまで人間界で何かあった場合のことだとばかり思っていたのに、どうして魔界なんかに行かなければいけないのか、と泣き始める者もいた。

 執事だって理不尽だとは感じていたものの、オクタヴィアに反論したところで考えを変えるはずもないのだから、とこの奴隷部屋に来るまでにすっかり諦めてしまったのだ。


「……さて、誰が行きますか?」


 手紙をひらひらとさせてみたものの、誰も立候補なんかするはずもない。

 仕方ない、と溜息を吐いてから執事はちょうど近くに座っていた奴隷の腕をぐっと掴み、場違いなほどに綺麗に微笑んでから手紙を押し付ける。


「あなたにしましょう。はい、今から行ってきてくださいね」

「え……あ」


 他の奴隷を振り返っても、皆がささっと視線を逸らす。

 誰だって死にたくはない、いつか死ぬんだとしても、それは『今』ではないと考えている奴隷の方が圧倒的に多く、押し付けられた奴隷は悲壮な顔をして、ふらふらと立ち上がったのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……まさか、お姉さまがこんなことをするなんて」


 リュシエールは溜息を吐いて、自分のベッドに横たわって真っ青な顔で眠っている奴隷に視線をやった。


「リュシエール様、このニンゲンは……」

「手紙を……届けてくれたみたいね」


 ハンナの問いかけに、リュシエールは奴隷が持っていた手紙をすっと持ち上げて見せた。

 またか、と顔を顰めていたハンナだが、リュシエールがじっと自分の方を見ていたために、ぺこりと頭を下げてからレオンのところへと急ぐ。


「……あなたも、大変だったのね」


 きっと、普通の人間が護符もなしにここに来ているだなんて、恐らくこの奴隷は耐えられないだろうけれど、野垂れ死になんてさせるわけにはいかない。

 リュシエールはそう判断して、レオンに治療してもらうようにお願いをしたのだ。許可は得たものの、手紙の内容には困り果ててしまっていたのだ。


「リュシエール様」


 レオンのところに行ったはずのハンナが、転移魔法を使って帰ってきた。


「ハンナ、早かったのね」

「陛下がお呼びでございます」

「うん、ありがとう。……一応、そこの人は見張っておいてくれるかな?」

「かしこまりました」


 ハンナが使用してきた転移魔法は、往復タイプ。つまり、ハンナが『行き』だとすれば『帰り』は誰か。


「ありがとう、レオン様」


 御礼を言って、リュシエールは遠慮なく転移魔法を使ってレオンの執務室に出向く。

 転移した先では、レオンが書類を見ていたが、リュシエールがやってきたのを見るとすぐさま書類から目を上げて彼女を出迎えてくれた。


「リュシエール嬢、何か憂いていることがあるとハンナから報告があった」

「……」


 手にしていた手紙を少しだけ強く握ったせいか、くしゃ、と音がする。

 手招きされるがまま、リュシエールはレオンのところに歩いていって、ぎゅっと何かに耐えるような顔をしてから口を開いた。


「そろそろ、家族らしき人たちに対して見切りをつけなくちゃいけないのかな、って思って」

「……そうか」


 手紙とリュシエール、双方に視線をやったレオンは、リュシエールの頭をぽん、と撫でてやる。

 ゆっくり、丁寧に優しく撫でてやれば、リュシエールの目と顔に、生気が戻ってくるのが分かった。


「お前の好きにすると良い。俺は、何があろうとリュシエール嬢の味方だ」

「……」


 こく、と頷いたリュシエールはもう一度口を開いた。


「……いるものと、いらないものの仕分けって……必要ですかね?」

「それを、リュシエール嬢が必要だと判断したのか?」


 問いかけに問いかけで返してはいけない、とちょっとだけツッコミを入れながらも、レオンの言葉にはリュシエールは小さく頷く。

 迷っているのか、背中を押してほしいのか。

 どちらかは、きっとリュシエールの中で決めているのかもしれないが、レオンは頭を撫でていた手をするりと頬に移動させ、優しく撫でてやりながらこう告げた。


「お前がそう思うなら、遠慮なくやりなさい」


 改めて背中を押してくれるレオンの言葉に、リュシエールはこくん、と頷く。

 やるにしても、少しだけ考えたい。


 ――だが、ほとんど気持ちは固まっているから、迷っていてはいけないのだ。


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