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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
界渡りの武神

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帝都陥落

 朝から多少の混乱の報はあった。一応は帝国正規軍を取り纏めていたディムザの副官マンバス・ダルバンが遺体の傍で自刃しているのが発見されたのである。

 正規軍兵士に衝撃は走ったが、ジャンウェン辺境伯の指示で三将が全軍を纏め大きな混乱には至らずに済んだ。


 ポミ平原はラドゥリウスのすぐ西の平原だ。帝都を目指す彼らは、行軍でも二陽(ふつか)ほどの行程を移動中。


「仲良しにゃ」

 停戦後は帝都へ偵察に行っていたファルマも戻ってきている。守勢はかなり厳しいと聞いている。

「放っとけば。ずっとあんな感じよ」

「羨ましいのかにゃ?」

「違う!」


 トゥリオの傍にはずっとフィノが寄り添っている。二人は騎乗したまま並び、時折り大男の掛けるちょっかいに犬耳娘が顔を赤くするという有様だ。

 転じてカイは穏やかには思える。しかし、遠く帝都を見つめる瞳にはあの青白い焔のようなものが垣間見える。彼の本当の敵があそこに居るはずなのだ。


(最近のこの人はずっとこう。内なる激情の昂りが少し表に零れている。もしかして人の域を踏み出しかけているのかもしれない)

 チャムは抑えきれない不安を抱えている。それを悟られると余計に刺激しそうで極力顔には出さないようにしている。


「そんなに気負うなよ」

 トゥリオが並んで話し掛け、フィノも心配げに覗き込む。

「そんなに気負ってるつもりは無いんだよ。ただ、僕が馬鹿をやって手の内を見せちゃったものだから、当然対応してくるだろうなと思って。そうなると何を仕掛けてあるもんかと考えちゃってね」

「ちーるー」

 リドが問題ないとばかりに頬を撫でる。

「あー、確かに無警戒って訳にはいかねえか。だがよ、あの状態のお前に人間如きが対処出来るとも思えねえんだがな?」

「ですですぅ」

「まあ無理だにゃ。それでもなかなか分かってくれないのも事実だにゃ」

 カイの場合、普段の平凡な見た目が邪魔をしているとファルマも言う。

「手が届きそうに見えちまうのか。いっその事、ごてごてと着けてみるか?」

「こんなやつを? それも一つの手かもね」

 赤い鱗状の肩甲(ショルダーガード)を叩きながら軽笑する。


「トゥリオはもう平気かい?」

 軽口を叩き合って空気が和んだところで青年は問い掛ける。

「何ともねえって言ったら嘘でしかねえぜ。正直、やり切れなくてしょうがねえんだよ。だからってお前にゃ含むところは欠片もねえ。戦う前から分かってた事だ」

「うん」

 そこで大男はカイと肩を組む。

「頼むよ、相棒。俺にも二、三人分け前をくれ。ぶった斬ってやらなきゃ腹が治まらねえ」

「機会があったらね」

「そこを何とか」


 トゥリオは彼の肩をぽんぽんと叩いていた。


   ◇      ◇      ◇


 帝都前にまで進出した西部連合軍と正規軍捕虜は1ルッツ(1.2km)の距離を置いて停止する。そこからでも街壁上を行き来する防衛軍兵士の姿は確認出来るし、その気になれば魔法の射程内でもある。しかし、攻撃してくるなら反撃を受けると分かっている防衛軍は静観の姿勢。

 そうでなくとも北側では所々で煙が上がり、先ほどまで戦闘中だったのではないかと思わせる。ラムレキア軍に確認は取っていないが、もう遠話器を使うまでもない距離だ。


 連合軍はルポック将軍を使者に立てて、既に降伏勧告を行っている。彼が内部へと入って防衛軍の指揮を執っている軍帥ブニンガル侯爵と交渉するのだ。応じないのであれば実力を行使するしかない。


「降伏してくれますでしょうか?」

 ルレイフィアは勝手が分からず疑問を抱いているようだ。

「ご心配召さるな。ラッダーナめもそこまで愚かではない。皇帝ディムザが討たれたと聞けば抗戦の意味がないと知りましょう」

「ですが予め送った伝文にも反応が無かったのでは?」

「それはディムザが伝文の信憑性に関して警告を発していたからではないかと? 信じ込んでラムレキア軍に降伏したりなどすれば笑い者になってしまいかねませぬ」

 ジャンウェン伯は、直接耳に入れなければ信用など出来ないだろうと説く。

「そうですか」

「無論無視して徹底抗戦してくる可能性も捨て切れません。宮廷貴族どもが稼いだ時間で誰か立ててこないとは限りませんので」

「自分の権利を守るのには長けた方々ですものね」

 モイルレルの警告にも納得出来る。

「それなら僕が街門も城門も焼き切るからいい。街区を巻き込んで戦闘に及ぶほど愚かなら押し通るまで」

「馬鹿がいない事を祈っとけ。もうこいつは止められんぞ」

「その時はお兄ちゃんに付いていくね」

 物騒な成り行きは望んではいないが致し方ない。

「とりあえずは打ち合わせましょ? アヴィが来たわ」


 ラムレキア軍の首脳自らお越しのようだ。近衛騎士団数百を従えて勇者王の青い髪と指揮戦車の姿も見える。一騎だけ騎鳥の姿があるが、それには心当たりもある。


「勝手をいたしまして申し訳ございません、魔闘拳士殿。ミキル(ごう)のオーグナと申します」

 騎鳥は抜け出ると、カイの前までやってきてすぐに跪く。

「お疲れ様です、オーグナ。お手伝いに山を降りてきて下さったそうですね? 無理をさせてすみませんでした」

「とんでもございません。御命もないまま憤りだけを抱えて動いてしまいました。どうか皆はお咎めくださいませんようお願いいたします」

 そう言って深々と首を垂れる。

「あたしからもお願い。彼ら、すごく頑張ってくれたの」

「咎めたりしませんよ。申し訳なく思っていただけです。心配させるくらいでしたら最初からお願いしておくべきでしたね」

「ご寛恕感謝いたします」


(そうは言っても、もしカイが要請していたら最低限の人数だけ残して数十万が集まって来たでしょうね。下手すればそれだけでラドゥリウスが落ちるくらい)

 やり取りを聞きつつ青髪の美貌は失笑する。


「状況は?」

 連合軍首脳と挨拶を済ませたアヴィオニスは街壁上に目をやっている。

「三将の一人に降伏勧告を持たせて送り込みました。当面は判断待ちです」

「そう。北側も連合軍の姿が見えてからは静かになってるわ。中は結構混乱しているかも?」

「どうするかしら? 時間掛かりそうよね?」

 美女二人と美少女が並んで首を傾げている。

「待っても明陽(あす)までだよ。それ以上は待たない」

「だとよ。俺も待ちぼうけは嫌だぜ」

「男達は堪え性が無いのにゃ」

 キルケを頭の上に乗せたファルマがけらけらと笑っている。ザイードも黙然と街壁を睨み付けているから否定出来ない。


 そうこうしているうちに西大門が重厚な扉をゆっくりと開いた。


「帝都は全面的に降伏するそうです。どうかお入りください」

 戻ってきたルポック将軍は帝宮の決定を携えてきた。

「ずいぶんと聞き分けが良いのね?」

「いえ、ディムザ陛下が敗れるような相手では命運は尽きたと考えていたようです。それに神(ほふ)る者の真の力を伝えると宮廷貴族は震え上がってしまって抵抗する気力など無いと見ました」

「そうですか。では帝宮へ向かいます。どうしましょう? ではルポック将軍、必要な兵を率いて街区に先触れを命じます。市民に危害を加える事はありません。帝宮からの布告があるまで整然とした生活を望むと伝えなさい」

 ルレイフィアの寛容な姿勢にルポックは心が揺らぎつつあるようだった。


 城門をくぐると帝宮に向かう連合軍首脳部とは別に、カイ達五人とエルフィン隊はそのままジギリスタ教会を目指す。目的地はそこ以外に無いのだ。


「ちっ!」

 口を真一文字に結んだカイを代弁するようにトゥリオが舌打ちする。


 聞いていた教会地下の空間は完全に無人だった。

開門の話です。後半戦の開始は帝都への入場から展開でした。ところがもぬけの殻で、という内容です。さあ、カイが主役の後半は神至会(ジギア・ラナン)戦です。

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