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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
神使の一族

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生い立ち

 チャムはこのゼプルの里に生まれた。


 幼い頃は他の子供達と同じく、使命に全てを捧げるべく、真剣に学びの時を過ごした。

 王の家系に生まれた彼女だが、分け隔てなく教育を受けさせるのがゼプルの方針だったのだ。


 教育期間を終え、十八になる少し前くらいには身長も容姿も今とほぼ同等にまで成長していた。

 十三の頃には片鱗を見せ、十四の時には神々との感応力で類稀な才能を示し、さすが王家の血と褒めそやされる。それに気を良くし、そのまま修練に打ち込んでいけばいずれはゼプルを導く者として、十分な能力が備わるものだと考えていた。


 その立場から、チャムは各部局を巡るように属し、組織構造を理解し、問題点の指摘も行い、素質と能力を示し、未来の指導者として信頼も勝ち得ていた。

 しかし、その彼女が壁にぶち当たる。正確に言えば、彼女だからこそぶち当たった壁であった。

 疑問を抱いてしまったのだ。ゼプルはこのままで良いのか、と。


 最盛期のゼプル王国は人口五万人を有し、森の民とともにその数十倍する人族や獣人族を従属させ、魔王への対抗勢力として十分な力を示し、栄華を極めていた。

 それが今では、その人口は三百を割り込みそうになっている。少子化が進み、人口は時代を追うごとにどんどんと減っていき、実に百分の一以下になってしまっている。明らかな衰退だ。

 衰退は、短命な人族が多数の国を興していくという世界情勢の変化に拠るものでは無かった。


 その原因は、種族的な活力の減少にある。

 彼らゼプルは神々のしもべとして、魔王に対抗すべく生み出された人種である。その使命を鑑み、多くの経験や高度技能を必要とする事から、それらを蓄積し易いように長生を定められた。

 平均して、千数百()の時を生きる。成長には二十()と掛からないが、そこから彼らは不老となる。成長した身体を持ったまま時を経て、そして若い外見のまま生を終える。

 その種族特性は確かに有効に作用し、様々な技術開発に才を費やす時間を得た。人々は使命と真剣(・・)に相対し、魔王の脅威排除の為に全力を尽くしていたのである。

 ただ、それは生きる情熱には繋がらなかった。愛し合い、子孫繁栄を願う意識には繋がらなかった。使命を優先するあまりに彼らは、生命として大事なものを欠いたまま漫然と世代を重ねてしまった。


 気付いてしまったチャムは、このままではゼプルは滅んでしまうと考える。何らかの手段を講じない限りは、人類は魔王への対抗手段である技術を永遠に失ってしまう危機に瀕していると感じた。

 そこからの二十()は、ゼプルに活力を蘇らせる手段を編み出す事に全精力を傾けた。しかし、何ら成果を上げられないまま彼女は齢五十を迎えてしまう。


 内部に何も見出せなかったチャムは、ゼプルを再活性化させる手段を外部に求めようと思い立つ。だが、女の細腕で身分を隠したまま外に出る事は敵わない。

 彼らゼプルは、人族や獣人族からは『神使の一族』として崇められている。それとは別に、高度で特異な魔法技術の持ち主として狙われてもいるのだ。

 実働を担う森の民(エルフェン)を連れ歩く訳にはいかない。彼らは身を隠して世界各地に散っており、ゼプルの活動の根幹を支えている。表舞台に立たせるのは無理だ。


 同じゼプルに同志を募るのも難しい。皆、使命に忠実であり、再びの繁栄を願う彼女の考えを異端だと断じる者も少なくないのだ。

 そういう者達は、ゼプルは世界の裏側で支え、それを淡々と愚直に継続していくのが自分達であり、栄華を望むのは我欲だと主張した。

 ゼプルの技術を我欲に用いるのは、彼らを生み出した神々への叛逆だとまで言い、そしてその考えが多数派を占めていた。


 結果、彼女は身一つでゼプル再興の要因となる何かを求めに出て行かなくてはならなかった。

 幸い、チャムは闇雲に飛び出すような無謀な性格ではない。それからの十()をゼプルと、そして彼女自身を守るべく剣の修行に費やした。

 齢六十を数える年になって、初めて世界へ足を踏み出した。


 チャムはゼプルの里を出て十()としないうちに、人が活力を生み出す原動力の在り処に気付いた。

 それは情熱だ。生き残りたいという情熱であり、より多くの子孫を残したいという情熱であり、より多くを知りたいという情熱。それは短命の者達だからこそ抱く情熱なのである。

 彼女はゼプルが再びその胸に情熱の炎を灯す術を見出そうと決意する。


 ところが、その情熱は彼女の中にも乏しいものだと気付く。

 彼女の宿願であるゼプル再興も、使命感から来るものであり、負託出来ない義務感から来るものであり、明確に情熱と言えるものではなかった。


 チャムは、百五十()もの長い長い時間を東方の社会に身を置いて求め続けた。

 時に人族や獣人族と手を取り合って魔獣との戦いに明け暮れた。時に隊商に腰を下ろし、人々との交流に身を委ねた。時に戦場に赴き、命の遣り取りの中に何かを見出そうともした。

 それで情熱の欠片のような物を見つける事はあっても、伝授出来るような形を得られる事はない。ましてや彼女は老いる事がない。一つ場所に長期に渡って身を置く事さえ出来ない。

 滔々と流れる時の中で、チャムは無力感と虚しさに捉われる事が多くなっていってしまう。


 最後の気力を振り絞って東方から出る決意をし、その他の地方に一縷の望みを託した。

 その裏では、どこに行こうが人族社会に大差はないと諦めも抱きつつ。


 中隔地方を旅して何も得られない現実に心折れそうな自分を奮い立たせ、西方へと足を伸ばす。胸の奥から湧き上がりそうになる絶望を振り払いながら。

 辺境の街は猥雑ながらも活力に満ちている。そんな場所でも何か拾えないかと、どんなものでも受け入れようと悟りに近い感情を以って臨んでいた。


 そして、そこで黒髪の少年に出会う。

 彼は気力にも活力にも満ちていて、何より彼女の心を求める情熱を持っていた。

 チャムは、その少年のような青年から学べるものが無いかと思い、道を共にする事にした。


 そのカイという男は、後に彼女の悩みなど全て覆してしまうような人間だと知る。彼の心を勝ち得るだけで、どんな望みでも叶うのではないかと思えるほどの強大な存在だと。


 彼にゼプルの未来を託そうと思った。

 チャムの宿願が叶わなくとも、カイなら何らかの結論を出してくれるだろう。委ねれば、一生懸命考えてくれるだろう。


 彼女が自身を委ねたいという想いはまだ伝えない。


   ◇      ◇      ◇


「そうか……。そうだったんだね?」

 カイは何もかもに得心が入った。


 チャムは奇抜な行動をとる事がたまにある。

 回転させるだけという単純作業に並々ならぬ興味を示したり、釣り竿を手にするだけで尋常でない興奮を覚える様子を見せたりする。

 それは全て、彼女の中に芽生えた情熱を掻き立てるよう、敢えてそれに執着する姿勢を取っていたのだ。自分の中に残っている情熱を掻き集めるように。それを、生命の活力として生かせるように。


「変な女でしょう? 恥ずかしいとか何だとか、もうかなぐり捨てていたの。欲しいものに手が届くなら、何でも構わなかった」

 麗人の面には自嘲の色がある。

「恥ずかしいなんてそんな事ないですよぅ! チャムさんは、ゼプルの為に身を投げ出す覚悟で世界を巡ってきたのですからぁ!」

「ああ、俺にも真似は出来ねえな。そんな長い間、成果が見えてこねえと萎えちまうだろ?」

「そうだよ。僕に出来る事は何でもするから、そろそろひと息吐いたらいいさ」


 チャムは潤んだ瞳を見せないよう、青年の肩に頭を寄せた。

チャムの生い立ちの話です。これまでの生を振り返る展開でした。半分くらいで済むかと思っていたけど、結局ほとんどがそれで埋まってしまいました。まあ、二百年ちょっとを二千五百文字に凝縮したので、こんなもんかな、と。

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