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魔闘拳士  作者: 八波草三郎
ホルツレイン王家の人々

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セイナの考察

 準備だ何だとしているうちにいい時間になっていたらしく、エレノア母子が王宮練兵場にやってきた。バスケットを提げたフランも付き従っている。


「なにゆえこんな有様になってしまったのですか?」

 ずらりと並ぶ玉子料理にセイナが疑問を感じるのも致し方ないことだろう。

「何って言われても強いて言うなら流れかしら?」

「はい?」

 これまでに至る経緯を説明すると、セイナは呆れたような声を出す。

「それでこんな玉子パーティーに?」

「そうだよ。色んな味試してみたりしてる。どんどん味見してね」

「そう申されても、カイ兄様。これは……」

「オムレツいっぱいー」


 色んな物がかけてあったり、様々な野菜や肉が細かく刻んでとじられていたり、混ぜ込まれて焼かれていたりする。オムレツだけでこんなにバリエーションがあるものかと感心させられるほどだ。中には創作料理も含まれているのだが、完全に迷彩の中だ。

 幸い、ゼインは好物らしかったようで早速口に運んでいる。


 この頃になると、カイもオムレツから日本風の巻き玉子焼きに切り替えていた。

「これもおいしー」

 玉子焼きはオムレツとは違うプリプリとした食感がある。ゼインはそれもいたくお気に召したようだ。

「そう?これも色々あるんだよ」

 最初に焼いたのは塩味だったが次は砂糖を使った物、そして魚のアラから取った出汁を使って淡い味に仕上げた出汁巻き玉子を作ってみる。

「あら? こんなに深い味を出す玉子料理もあるのね。意外だわ」

「うーん、もうひと味欲しいところだけどこんな物かな?」

「あなたのお国の味付けなの、カイ?」

「そうだよ」


 自身はお嬢様で料理には明るくないエレノアだが、美食には通じているので出汁のような複雑な味にも理解を示してくる。それにはカイも悪くない気分になるが、不満が無いと言えば嘘になる。

 この世界では、貝類や海藻類は沿岸部や河岸部で僅かに消費されるだけで内陸部には全くと言っていいほど入って来ない。だから和風の出汁のような味付けはまず見られないのだが、逆に魔獣の骨などを利用したスープ類は多様化し普及している。使用する魔獣によって分けられ系統化されているほどだ。

 どんな環境に於いても人というのは食に貪欲になるものらしい。


 慣れていないだけあって、カイの出汁巻き玉子はそれほどの評価を受けられず彼を落胆させた。


   ◇      ◇      ◇


 セイナは手ずからセネル鳥(せねるちょう)たちに乾燥豆を与えていた。


「この子たちは本当に賢いのですね、カイ兄様」

「うん、本当に助かっているよ」


 前にカイがセネル鳥と遊んでいたのを見て、真似してみたくなったらしい。その遊びは、彼が放り投げた乾燥豆をパープルたちが争って口で受け取るというものだ。彼らは好んでこの遊びをよくやっている。

 まずは第一歩としてセネル鳥たちを馴らそうと思ったようだが、ざっくりとだが言葉を解する彼らは既にセイナの言うこともちゃんと聞くので無駄に終わる。


「なぜホルツレインでは普及していないのでしょう?」

「魔法演算領域を持っている属性セネルのほうがより知性が高いみたいなんだ。そしてその属性セネルには絶対数という問題がある」


 フリギア王国でのセネル鳥の扱いについてセイナに説明する。その誕生は偶然の要素が強いこと。属性セネルが普及するに至るほどの生息数が確保できないこと。そのために本場であるフリギアでも主に繁殖されているのは無属性のセネル鳥であること。

 ホルツレインでも南部の一部では生息が確認されている。しかし馬に比べて汎用性に劣るセネル鳥は有用性が認められず、飼育には至らなかったようだ。


「つまり属性セネルが意図的に繫殖させられるようになれば、普及には問題が無いわけですよね?」

「まあ肉食寄りの雑食っていう難点があることにはあるけど、利便性のほうが勝るだろうから普及してもおかしくないね」

 カイは彼らを家畜とは見做していないが、一般的な視点では家畜になるだろう。その飼育には利便性が必須になる。


 日本でも少し前まで農家には一軒に一頭以上の農耕用和牛が居たものだ。労働力として利便性の高かった牛は当たり前に飼育されていたのである。しかし現代日本では、農耕用の牛の飼育はほとんど行われていない。更に利便性に優れたトラクターに取って代わられてしまったのだ。

 以上のことで解る通り、家畜の繁殖・飼育と利便性は切っても切れない関係になる。現実問題として、現在飼育されている和牛はほぼ食肉用と言っても過言ではないだろう。動物が人と関わることで繁栄を勝ち取るためには、利便性無くしては有り得ないのである。


「意図的な繁殖は不可能なのでしょうか?」

 頭を擦り付けてくるイエローのクチバシを撫でながら、セイナは思案気に言う。

「うーん、僕もそんなに詳しく訊かなかったんだ。どうなんだろう、トゥリオ」

「俺も詳しくはねえんだが、属性セネル同士を掛け合わせても確実じゃねえらしいぜ。通常セネル同士の交配よりゃ遥かにマシだって話だがな」

「では属性セネルと通常セネルの交配ではどうなのでしょう?」

「確率的には中間くらいじゃねえかな?」

「トゥリオ、今論じているのはそういう不確定な話じゃないんだよ。でも……、属性セネル同士の交配で失敗した時点で諦めた可能性があるね?」

 少し考えながら仮定の話をするカイ。

「そうかもしれません。だとしたら試す価値はあるような気がします。でも命あるものを実験に使うのは冒涜的な感じがして気後れします」

「それは気にしなくて良いんじゃないかな、セイナ。彼らとは意思疎通ができるんだよ? 協力してもらえばいいだけの話。何より、彼らにとって繁栄への一つの道になるかもしれないんだから」

「本当ですわ。こんな簡単なことに気付かないなんて。お願いしたら協力していただけるんでしょうか?」

 パープルたちは口々に「キュウキュウ」と賛同している。話し合いの余地はありそうだ。

「それに属性セネル同士の交配で不確実っていうのがどうにも納得いかなくてさ」

 カイの説明はこうだ。


 確かに鳥類と哺乳類の差はある。しかし哺乳類系の魔獣が遺伝形質であり、種として独立しているのは既に推察している。おそらく爬虫類系でもそうだろう。ならば鳥類系だけ違うというのは変な話だ。ではそこに何らかの要因が絡んでいると思えてくる。

 その証明として、パープルたちが一つの群れとして行動していたのが端緒になりそうだ。偶然出会って群れを形成したと考えるよりは、彼らの母集団も属性セネルの群れだったと考えたほうが納得出来る。つまり自然の状態では、魔法適性は高確率で遺伝しているはずなのだ。


「その要因を探ればいいんですね? 環境として、地形には大きな差異が出ない気がしますし、気温などの気象条件は生息地で差が出るでしょうから考慮しなくて良さそうです。だとすると食事だと考えるのが一番確実性があるような気がしますが」

 セイナは眉をへの字にして熟考している。イエローに手を甘噛みされているのにも気付いていない様子だ。

「僕もその辺りだと思うよ」

「良かった。カイ兄様が保証してくださるのなら自信が出てきました」

「ただ色々試すにも或る程度の絶対数が必要になってくるから繁殖からだね」

「はい。お父様にそれなりの数のセネル鳥を輸入できないかお願いしてみます」

「うん。でもこれだけは忘れてはいけない。そういう繁殖が今まで試みられていないってことは、コストパフォーマンスが非常に悪いってことだからね? 粘り強く頑張らないといけないんだよ?」

「ええ、商業ベースで行われていないからこそ国家計画として試みる価値があるのだと思います」


 これが後に「属性セネルの母」とまで呼ばれるセイナ・ゼム・ホルツレインの第一歩であった。

セイナとセネル鳥の話です。属性セネル繁殖計画をセイナが考え始めたエピソードでした。作者である僕も、農耕用和牛に子供の頃何度か触れた事が有りました。近くで見るとその巨大さに圧倒されたものです。

まあ、あまり近付くのは推奨できません。彼らは結構気性が荒いので。

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