表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽しい転生  作者: ぱにこ
103/122

66話

「皆さん、ご静粛に。この度、魔族代表イルミラさん、エルフ代表ルフィーノさんを交えまして会議を行う旨となりました。議題は進行毎にお伝えいたしますので、その都度、正直に思うまま話し合って頂けると幸いです。そうそう、いくら白熱したとしても攻撃魔法や魔眼の使用だけはお控えください。もし、その様な惨状になりましたら、各々の弱い部分(ネタ)を私が攻撃(暴露)致しますので、くれぐれもお注意くださいませ。それでは『第一回・円卓(切り株)会議』を始めたいと思います! 司会進行はこの私、ルイーズ・ハウンドが務めさせていただきます。はい、拍手! 」


 私の呼びかけに応じて、皆さんが拍手をしてくださいました。

 おお、父様は立ち上がって拍手をしてくださっています。かなりニコニコしていますね。

 白い歯を見せながら、親指を立て「グッジョブ! 」ですか。

 ありがとうございます。


 さて、皆さんの拍手と父様の歓声に満足した私は、まず最初の議題を発表する事に致しました。

 おっと、その前にこの場にいらっしゃる方々を御紹介しましょう。


「はい皆さま、注目! 最初の議題を発表する前に、皆さんをご紹介させてください。まずは、ヨークシャー王国の今代国王で在らせられる『フレデリック・ヨークシャー』国王陛下に御座います。次にヨークシャー王国の宰相を務めております『鬼の宰相』、『氷の宰相』とも名高い『アベル・ハウンド』侯爵閣下に御座います。ちなみに、私の父です。そして、お次は近衛騎士団長でいらっしゃいます『ユーリ・シュナウザー』伯爵閣下に御座います」


 陛下は威風堂々と上座に腰かけ、下々の者━━私達に「うむ」と言うお言葉を掛けて下さいました。

 父様は、陛下と目配せをした後「ルイーズの父様だ」という自己紹介? をしてくださいました。

 そして最後に紹介したダリウスパパは、陛下と父様に目配せをした後、暫し沈黙し「……ダリウスの父です」と自己紹介をしてくださいました……。

 ってか、イルミラさんもルフィーノさんも、ダリウスが誰なのか、知らないからね。

 父様も陛下もクスクスと笑わないのっ。もう。


「え~と、ダリウスパパ━━違った……シュナウザー伯爵が仰った『ダリウス』とは、私の友人ですの。後でご紹介しますね」

「あっ、はい。お願いします」

「ええ、お願いします」


 呆然としているイルミラさんとルフィーノさんにそう説明すると、首を傾げながらも納得してくださいました。

 さて、気を取り直して会議を始めましょうか。


「では、まず最初の議題は━━」

 と言った瞬間、シュナウザー伯爵が挙手をしました。

「議長! 」

「はい、何でしょうか? シュナウザー伯爵」

「ダリウスぱぱの『ぱぱ』とはなんでしょう? 」

「パパとは、子供が父親を呼ぶ時の名です。家庭によって様々な呼び名があると思いますが、その内の一つだと思ってください」

「そうですか……ダリウスはこの呼び名の事を知っていますか? ダリウスにぱぱと呼んで貰えたりは? 」

「いえ、知りませんし、呼ぶ事もないでしょう。私の心の中だけで呼んでいる名称ですので」


 凛とした態度で私がそう告げると、ダリウスパパが少し寂しそうに頷きました。

 すると、陛下が含み笑いを浮かべつつ、大きく挙手をします。


「議長! ユーリを『ダリウスぱぱ』と呼ぶのなら、私は『レイナルドぱぱ』と呼んでいるのだろうか? 」

「いえ。心の中でも陛下とお呼びしております」


 そうきっぱり告げると陛下がしょぼんとしてしまわれました……。

 えっ? そう呼んで欲しかったの?

 心の中だけで良いのでしたら、そう呼ぶのも吝かではありません。

 

「では陛下、ご期待にお答え━━もごっ……」

 そう思い、陛下にお伝えしようとしたら、父様に口を塞がれました。

「駄目だっ! ルイーズ、駄目だよ。陛下を『レイナルドぱぱ』と呼んではいけない……心の中であろうと、これは不敬罪に当たる。どうしてもいうのなら、私を『ぱぱ』と呼ぶ事で我慢するんだ」


 父様……何を仰っているの?

 私は陛下のご期待に応えようとしただけですが?

 それと、苦し気に眉根を下げても、ニヤケている口元が隠せていませんよ。


「さぁ、ルイーズ! 私を『ぱぱ』と━━」

「何を言ってるんだ、アベル! 不敬罪になどする訳が無かろう! さぁ、ルイーズ嬢。私を『レイナルドぱぱ』と呼んでみなさい」


 父様と陛下はぐぬぬと互いを睨みあっている。

 はぁ~っ。これ、呼ぶまで終わらない感じのやつ?


「私、父様と呼ぶのを気に入っているんですけどね……一回だけですよ」


 そう断りを入れると、父様は満面の笑みを浮かべコクコクと頷いた。

 じゃあ、親孝行にもなるし、サービスしますか。


「パパ、だ~い好きっ」

「ぐはっ! なんて可愛さなんだっ! 」


 言葉でぐはっ! って言う人初めて見たよ。

 父様、胸を押さえ身悶えているのはいいけれど……。

 陛下が恨めしそうに見ていらっしゃいますよ。

 あっ、陛下がこちらに向き直った。

 

「ルイーズ嬢! これは王命である。『レイナルドぱぱ、素敵』と言うんだ」


 くっ! ここで王命を賜るとは、思ってもみませんでしたっ。

 ……いいでしょう、私は陛下の盾でありけん

 この忠義、篤とご覧くださいまし!


「レイナルドパパ~、と~っても素敵~」

「ぐほっ! ま、満足であるっ…………」


 陛下はそう言い残し、胸を押さえテーブル(切り株)に突っ伏してしまわれました……。

 なんなんだ、この茶番は……。

 ま、まぁ、静かになったし、終わりよければ全てよしって事にしておきましょう。

 

 さて、会議を始めましょうか。


「では、この隙に会議を進めますね。イルミラさん、まず魔眼と生き血を啜る事について詳しくお聞かせ願えますか? 」


 これをきちんと聞いておかないとね。

 いくらイルミラさんがこの大陸で過ごしたいと願っても、危険人物だとどうにもならないもの。


「はい。『魔眼』は生き血を啜る相手に『魅了』を掛ける目的で発動させます。この魔眼は同性には効きませんし、成人前の子供にも効き目がありません」

「ああ、だから、私との戦闘の時は魔眼を発動させなかったのね」

「ええ、はい」

「えっと、イルミラさん? 小娘相手に敬語が使い難いのなら、普通に話してもいいわよ。父様と陛下は上の空ですし」

「もう、小娘なんて思っていませんが……宜しいのですか? 」

 

 陛下と父様の脱線騒ぎで、時間も押しているしね。

 スムーズに話せるのなら、何でもOKですわ。

 なので、大きく頷いてみせました。


「では、お言葉に甘えますわね。次に生き血についてね━━吸血種にとって生き血を啜る事自体、必要不可欠という訳ではないのよ」

「えっ? 生き血ってご飯の様な物ではないの? 」

「ええ。魔力を補う手段の一つであり、食事ではないわ。戦闘中の魔力切れや大規模魔術を行使する時の最終手段といった感じかしら」

「ふむ……魔力を補うものね……あ、生き血を啜る以外で魔力補給の方法はあるの? 食事で補うの? それとも休んでさえいれば自然に満たされるの? 」


 人なら、マナが自然に循環してくれるお陰で、休んでさえいれば補給される。

 それは魔族も同じなのだろうか?


「魔国に居た頃は生き血を啜る事と休む事でしか補給されなかったのだけど、この大陸の食事だと補給されるのよね……だから、食事と休む事が魔力補給の方法と言えるかしら。つまり、生き血を啜らなくても何かを食べながらだと、大規模魔術が放てるって事になるのよ。魔国より手段が増えたって事ね、うふふ」


 食事でも魔力が補充されるの?

 …………。

 あっ、そうか!

 いつも食事を取るとマナの循環が良いなって思っていたけど。

 あれはマナが補給されていたんだ。

 って事は、魔力回復もマナ回復も同じって事なのね。

 ふむふむ。後は料理によっての違いを実験━━検討してみるのも面白そう。


 さて、生き血と魔眼についてはこれ以上聞く事はないだろうけれども。

 それを決めるのは、私ではありません。

 話を聞いている唯一のこっち陣営の大人━━シュナウザー伯爵に視線で伺います。

『もう聞く事はないですか? 次の話に行きますよ』ってな視線を送りました。

 すると、シュナウザー伯爵は陛下と父様の方を一瞥して、大きく頭を振った後『ええ、行っちゃってください。あの2人は遊んでるように見えても、聞くべき事は聞いていらっしゃるでしょうし』

 と、仰ってくれたような気がします。

 では、遠慮なく次の議題に移ります。


「生き血と魔眼に関しては理解しました。では、次の議題に移りたいと思います。次は……この大陸に来た理由についてお聞かせください」

「この大陸に来た理由は、一応人探しという事になっているわ」

「人探しですか……」

「ええ、魔王城から逃げた双子の姉弟と従者を探しに来たのが建前」

「建前ですが……まぁ、本音は後からお聞きしますが、建前の方を先にお話しください」


 私がそう言うと、イルミラさんは建前の方を話して下さいました。

 新しい魔王様の命で、船に乗り逃げた前魔王様の忘れ形見━━姉弟の抹殺を言い渡されたとの事。

 なぜ、逃げた者を追ってまで殺そうとするのか━━その理由がわからず聞いてみると、代々魔王の血族のみに発現する魔眼『魔王の証』を恐れての事だそうです。

 なんでも、超チートな魔眼らしく。魔族が使用する特殊技とか全てを無効化するらしい。

 うん、チートだわ。

 

 でもって、素朴な疑問も浮かぶわけで、聞いてみます。

「イルミラさん。双子の姉弟なんですよね? 魔眼はどちらに発現するの? 」

「直系の男子にのみ、受け継がれていたはずだから、双子の弟の方じゃないかしら? 」

「……弟の方ね……では、魔眼以外の脅威━━身体能力が恐ろしく高かったり、強大な術を使って辺り一帯を焦土と化したりします? 」

「まさかっ。そうね……私がお仕えしていた3代前の魔王様の場合だと、まず魔眼でこちらを無力化した後、更に身体能力を極限まで下げられ、剣でバッサリだったわね」

「ふむ……極限まで弱体化されてからの、剣でバッサリですか……それを踏まえ考えると、魔王様ご自身の身体能力は高くはなかった可能性があるわね」

「……そう言われてみれば、そうね……」

「そうそう、身体能力を下げる能力って、魔眼の追加効果かなにかですの? そうでないのなら、左右で効果の違う魔眼をお持ちだったとか? 」

「……ちょっと、待ってね。よく、思い出してみるわ…………無力化する時に光った瞳はどっちだったしら……」


 当時を思い出そうと頑張ってくれていますね。

 では、この時間を利用して、ルフィーノさんに昨晩の事を聞いておきましょうか。


「ルフィーノさん。口説き落としは成功しましたか? 」

「えっ!? あ、たぶん……成功したと思います……」

「ん? 自信なさげですね」

「あ、いえ……正直に言いますね……一生、貴女の傍に居たいと、告げると……なら、これまで通り一生仕えてくれたら助かるわ! と言われました……」

「従者の面接を受け、再採用された感じになっていますわね」

「……はぁ、失敗ですよね……従者としてでも、お傍に居られるのは嬉しいのですが……」

「そうね……もっと、前向きな話し合いになるだろうと予想していたんですけどね……どうして昨日のあの流れから、その返答しか引き出せなかったのか不思議でなりませんわ……」

「言い方が拙かったんですかね? 」

「……付き合いの短い人間━━それも少女に聞きます? 」

「お願いします」

「……ふぅ、仕方がありませんね。私が見た感じ、イルミラさんは意外と天邪鬼です」

「あまのじゃく? 」

「ええ。相手の言葉を逆手に取り、逃げ道を用意するタイプです。そう言うタイプの人間は、美しい景色が望める場所へ連れて行って、ハッキリと愛の告白をするのがいいですよ」

「美しい景色……と言えば、夜のフラウ湖! 」

「もう、日が昇ってますし、お昼には出発しますからフラウ湖は諦めて下さい。そうですね……夜空に浮かぶ月でも眺めながら、お話しては如何です? 」

「夜空に浮かぶ美しい月! 確かに良い雰囲気になりそうです」

「そうそう。その時の愛の告白ですが、回りくどい言い方はしない方がいいですよ」

「回りくどい言い方とは? 」

「従者面接と間違われたような言い方の事です。貴女の傍に居たいとか、貴女を全力でお守りしますとか、そんな感じの言葉ですよ」

「? どこがいけないのでしょう? 」

「……忠義を尽くす従者のままでいいのでしたら、それでも構いませんが? 」

「っ! 構います! 構うので教えて下さい! 」

「イルミラさんの瞳を見つめ、愛していますと囁くだけでいいのです。あ、もしくは、結婚してくださいと告げるのもいいですね。イルミラさんの様な方には、余計な言葉はいりません」

「承知いたしました! 少し、練習してみます」


 わざとなのか、無意識なのか、イルミラさんはルフィーノさんから距離を取ろうとしている様に感じました。

 ルフィーノさんには、言い方は悪いですが、人質や枷として━━もしくは抑止力として、傍に居て貰わないといけないのです。

 あ、これは私の案ではありませんよ。

 父様や陛下の指示でございます。

 まぁ、昨日の今日ですからね。安全策を講じるのは致し方のない事かと思います。

 私個人は、互いに想い合っているのだし、くっついちゃえ的なノリなんだけどね。

 

 様々な思惑はさておき。

 練習すると言って、下を向きブツブツ呟いていたルフィーノさんが、真剣な面持ちで顔を上げました。


「イルミラ様……愛しております。私と結婚してください……どうでしょう? 」

「いいですね! ━━」

「えっ!? 」


 私がいいですね! と言った瞬間、イルミラさんが頬を染め俯いてしまった。

 聞えちゃったみたいね……。

 まぁ、直径80センチ程の切り株を中心に、大の大人が5人プラス私ですもの。

 これだけ密着していれば、聞こえない方がおかしいわ。


「ルフィーノさん、聞こえてしまったみたいですよ。しかも、脈ありっぽいですよ」

「そっ、そうでしょうかっ!? 」

「ええ。もう、こうなったら、ぐいぐい行っちゃってください。そして、結婚の約束でもなんでもしちゃってください」

「はいっ! 頑張りますっ」


 ルフィーノさんは、グッと拳を握りしめ、やる気に満ちた瞳を浮かべています。

 隣に座るイルミラさんは、どんどん俯き頬を紅潮させていっておりますが……。

 うん、お似合いですね。


「では、一応? ルフィーノさんの問題は解決しましたし、先ほどの話に戻りましょうか。イルミラさん、魔眼について、何か思い出せました? 」

  

 急に話を振られ驚いたイルミラさんが挙動不審な動きをした後、ルフィーノさんを一睨みしてこちらに向き直りました。

 うん、後でもう一波乱ありそうですね。頑張って、ルフィーノさん。


「……ええ。先々代の魔王様の瞳は、確かに左右で輝き方が違っていたわ。今思うと、あれは効果の違う魔眼よ……代々受け継がれていく魔眼に関しては、無力化で間違いないのだけれど。もう一つの弱体化の魔眼が遺伝によるものなのか、突然発現したものなのかは不確かね」

「不確かですの? 」

「遺伝によるものと、そうでないものがあるから不確かとしか言えないの。親が魔眼持ちだとしても子供が同じ魔眼を受け継ぐとは限らないのよ。反対に魔眼持ちでない親から、魔眼持ちの子が生まれるという事例もあるし」


 という事は、魔王だけに代々受け継がれていく魔眼ってかなり特殊って事よね……。

 この特殊な魔眼の対抗策を考えるにしても、無力化について全く分からない……。

 技を打ち消す…………すでに掛かっているものを打ち消すのか、掛けようとしても掛けられない様になってしまうのか。

 どっちなんだろう? この違いは大きい。

 精神に作用する魔眼だけなら、既存のアイテム━━魔道具で対応できるのに……。

 もう、のほほんとお茶を啜っている父様に丸投げしちゃおうかしら?


「父様」

「ふむ。こればかりは、一度対峙してどういうものかを味わってみないと、対策は取れないな」


 ですよね~

 では、陛下にお伺いしてみましょうかね。

 初代巫女様の件も内緒にしていたくらいだし、魔王について何かご存知やも知れません。


「陛下」

「うむ。禁書の閲覧を許可するゆえ、戻りしだい対抗策を練ってくれ」

「えっ? 私が練るのですか? 」

「ルイーズ嬢以外の適任がどこにも居らぬからな」

「いえいえ、魔法省の方々がいらっしゃるではありませんか」

「あやつらは忙しい。精神系魔眼に対抗する魔道具を大量生産してもらわねばならないのでな」


 ちっ、確かにですわ。未知の魔眼より、目の前の魔眼持ちの方が脅威ですものね。

 陛下は正しいです。されど、素直に頷くのも癪です。

 不敬罪? いえいえ。何も語らず、笑顔のみを浮かべているのでセーフですわ。

 無言でニッコニコです。


「ルイーズ。ここは素直に頷いておきなさい」

「父様……」


 父様は私の敵になったのですか?

 うるるんな瞳で父様を見上げます。


「うっ、ルイーズ……そんな目で私を見ないでくれっ。父様は挫けそうになるっ! 」

「父様……」

「うぅ、ルイーズ……こんな愛らしい娘に過酷な労働を強いるのは父様とて不本意だが。そうだ、ここで了承してくれたら、対抗策が完成した暁には領地に連れて行ってあげよう」

「領地? 」

「ああ、我がハウンド家の領地まで一家で旅をするんだ。少し遠いが学園の長期休暇を利用すれば問題ないだろう」

「ぴよたろうやケンゾーも? 」

「ああ、もちろん一緒だ。家族だからね」

「お友達は? 」

「いいとも。親しい友人を誘いなさい。皆で冒険をしながら旅をしよう」


 冒険をしながら旅。いいわね!

 でも、父様。

 先ほどから、不穏な空気を纏い凍てつくそうな視線を向けていらっしゃる陛下はどういたしますの?


「父様、陛下がとても険しいお顔をしていらっしゃいます」

「ハハハ、それはルイーズの勘違いだよ。陛下は常々、祖父母に一度も会っていないルイーズやジョゼを不憫に思い、心を痛めて下さっていたのだよ。そんなお優しい陛下が凍てつくような視線を投げつけるなどあろうはずもないよ」


 父様がそう仰った瞬間。陛下の視線が……泳ぎまくっています!


「ほらね、陛下も賛成してくれたようだよ」


 そりゃあね、あんな風に言われたら駄目って言えないじゃない。

 いくら親友同士だとしても、陛下への対応が雑過ぎる。

 あ、いつもの事ですわね。

 

「でも、父様が長く留守にしてしまうと執務が滞りませんか? 」

「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。サクラ公国から賜った宝珠と同じものがもうすぐ完成するからね」

「同じ転移できる物が? 」

「そうだ。転移が出来る物がね」

「では、気兼ねなくたっぷりと遊べるのですね! なら、頑張りますわ! うわぁ、どうしましょう。初めておじい様とおばあ様に会うのですよね。おじい様達のお土産は何にしましょう。どんな物がお好きなのかしら……私が作った便利グッズを何点か贈るとして……他に何か特別な━━」

「ルイーズ。お土産は皆と相談して決めようか? 」

「ああ、そうですわね。もう、心が領地にまで飛んで行ってしまっていましたわ。うふふ、今は会議の途中でしたわね」


 ハウンド家の領地に関しては、全くもって無知でございます。

 いや、おじい様やおばあ様が領地にいらっしゃるって事は聞いておりましたよ。

 でも、父様も母様もおじい様やおばあ様のお話をあまりしてくれませんし。

 私自身、ゲーム上で立ち寄る土地などの調査を優先していましたしね。

 家に帰ったら、早々に調べてみましょう。

 特産品とか遊べる場所なんかについてね。

 そういえば、母様方のおじい様やおばあ様についても知りませんね……。

 追々、聞いてみましょう。

 そうと決まれば、会議の続きです。


「では、会議を続けますね。次の議題は、イルミラさんのこれからの事についてです」


 この後、イルミラさんのこれからについて色々話し合いました。

 まず、双子探しを続けるのかどうか。

 これについてイルミラさんは、先ほど聞いた建前とは違う本音の部分のお話をして下さいました。

 なんでも、リーヌスくんに与える生命力━━贄目的での、渡来だったそうです。

 しかしその必要もなくなった今、新魔王様の命令を聞く義理はない。との事。

 個人的には、魔王の魔眼について知りたいし、双子に会ってみたい。

 けれど、まぁ、これに関しては禁書を閲覧してからにしましょう。

 

 次に話し合ったのは、ルフィーノさんのこれからについてです。

 イルミラさんを支えながら過ごすといっても、生計を立てねばなりません。

 これに関してはシュナウザー伯爵の提案が採用され、ルフィーノさんは騎士団に入団する事になりました。

 ここにも大人の事情━━思惑がありそうですが、真面目に過ごしている限りは安泰でしょう。


 そして最後に話し合ったのは、イルミラさんの罪状についてです。

 昨日の戦闘は目撃者も多く、そのまま無罪放免とする訳にもいきません。

 ですから、法を犯した貴族の方などが過ごす牢に暫く入っていてもらうそうです。

 軟禁ですし、面会も出来ますし、リーヌスくんも一緒ですし、楽しくとはいきませんが、不自由なく過ごせるでしょう。

 

「それでは『第一回・円卓(切り株)会議』を終了させていただきます。皆さま、長い時間お疲れ様でございました。この後、冒険者の方々との交流会が御座いますので、私はお先に失礼いたします」


 淑女然としたカーテシーを行い、私は天幕を後にしました。

 さてさて、遠征の目玉。冒険者さんの冒険譚、楽しみだわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=311126872&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ