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魔力遮断

 キリカナンがどういう経緯を以て麻薬に手を差し伸べたかは分かりませんが、彼の落ち着きのない様子から察するに、かなり浸食されているのが覗えました。そして、彼はお嬢様に手を出した。私の逆鱗に触れたのです。決して、許す事は出来ません。


 しかし、直ぐには手を出しませんよ。彼の理性が残っている間に、聞き出しておくべき事があります。


「誰の指図ですか?」

「……は? それを答えるとでも?」

「……そうですよね。では、質問を変えます。私の帰還した情報を、誰の口から得たのです?」

「ふん、羊が二匹揃って同じ事を聞くとはな。甚だ煩わしいわ。だが、まぁ良い。特別に貴様には教えてやろう。貴様らの信頼していたメイド長とやらだよ。確か、名前は『ジゼル』といったか? 家族の命を取引に呆気なく貴様らを売ったよ」

「…………そうですか、やはり。ジゼルさんが……」


 私の納得した様子に、キリカナンが何やら癇癪を起して意を唱えます。


「なッ! なんだ、その反応はッ! まさか、分かっていたとは言うまいな? もっと、絶望しろよ! 失望しろよ! 分かっているのか? 貴様らは最も信頼関係を築いていたものから、裏切られたのだぞ!」

「……煩いですね。そんな事、言われなくたって分かってますよ! 勿論、ショックですよ! だけど、それ以上に今はどうでもいいんです。誰が裏切ろうが売ろうが同じ。お嬢様に手を出した連中は、生きては返しません。それだけの事です」

「……ふん、殊勝だな。こんな我楽多になんの価値がある? 容姿の良い女などそこら中どこにでもいるだろう? その上この女は性格まで醜悪だ。殿下の寵愛を自らどぶに捨てたイカれた女だ。ソレのどこに護る価値がある?」


 彼のお嬢様への侮辱は、私にとって、とても寛容し難いものでした。怒りを乗せて、威圧する様に語りかけます。


「黙れ……!! お嬢様はお前如きが侮辱して良い御方ではない。芯の汚れたお前なんかよりよっぽど高潔で、気高く価値のある方だ。そして、なにより強い御方だ」

「……強い? 笑わせるな! その女は、お前の言う俺如きに恐怖し、跪いていたぞ。助けてくださいと媚び、無様に泣き言を叫びながらなァ! 」

「……お嬢様が……? ですが、その頬の平手痕は、お嬢様に付けられたものでしょう? なら、お嬢様は恐怖に打ち勝ってアンタに一矢を報いたんだ。その勇気を、決して弱いとは言わせない」


 ちっ、肯定も過ぎればそれは妄信だな。とキリカナンは嘲りを溢しました。途端、彼は懐から何か玉のようなモノを取り出しました。それを、左手に構えて言います。


「まぁ、良い。貴様が幾ら鳴こうが、この場を生き残った方が正しいのだ。俺と一騎打ちをしよう。生意気で愚鈍なメイドよ。勝者が全ての権利を得る。公平かつ平等な裁決だろう?」

「……随分と自信がおありなんですね? 一度私に、無様に負けたキリカナンさん?」

「ふっ、吠えていろ。今に痛い目を見せてやろう。貴様が九カ月もの間どこで、胡坐をかいていたかは知らぬが、俺はその間に貴様を倒す事だけを考えていたのだ」

「へぇ、それは楽しみですね。是非、見せてくださいよ。その左手に携える玉ころ一つで一体、何が出来るんでしょうね?」


 図に乗るなよ。とキリカナンは言ってから、左手のソレを握りつぶしました。途端、辺りに桃色の煙が充満します。それを見て、キリカナンは自慢げに語り出しました。


「ふはははっ! これは、王国の暗殺者のみが有する、魔力を遮断する煙玉だ。これで、お前は小賢しい魔法を使えない!」





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