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心に空いた穴① side ルルカ

 ご機嫌よう。私の名前は、ルルカリア・ミッドナイト。私には、専属のメイドがいました。ええ、いたんです。しかし、あろう事か、私のアリスはある日、忽然と私の元を去りました。


 帰って来なくなって、一日が過ぎたところで、私はとめどない不安に駆られ、お父様に頼み込んで全権を以て、アリスの捜索令を出します。

 

 しかし、一週間が経っても、目撃情報の一つもありませんでした。一ヶ月と二週間が過ぎた頃、ミッドナイト家が必死になって、金髪のメイドを探している。との噂が全面的に流れ、我がミッドナイト家の取り入れを計ろうとする、第二王子の派閥を中心とした貴族連中が誤情報を流布して回り、情報の収捨が付かなくなった事で、捜索令はやむ無く撤廃され、アリスは死亡したとされて、誰も噂をしなくなりました。


「何処に行ったの? アリス……」


 月に呟いても、祈っても、彼女は帰って来ません。やはり、天は私を見捨てたのでしょうか?


 ——それとも、私がアリスに見捨てられた?


 なんて、そんな訳ありませんよね? ねえ、お願いアリス。貴女の答えを聞かせて?もう一度、貴女の顔を私に見せて? その甘美で、締め付ける様な声を、聞かせて?


 私の心は次第に荒んでいき、やがて限界を超えた不安は憎悪へと変貌していきました。正しくは、愛憎でしょうか。


 ——許さない赦さないユルサナイ許さない赦さないユルサナイ許さない赦さないユルサナイ許さない赦さないユルサナイ


 ずっと一緒だって言ったでしょ? ねえ、アリス? 貴女だけは私を見捨てないと、信じていたのですよ? なのに……


 どうして? 如何して? ドウシテ?

 

 勝手にいなくなるの?


 

 時が経ち、アリスの失踪から三ヶ月が過ぎた頃。噂を聞き付けた王妃様が、私の元を訪れました。王妃様とは、幼い頃より御贔屓にして貰っていて、勝手にもう一人の母の様な御方として慕っておりました。

 

「聞いていたより酷い状態の様ね」


 私の顔を見て、王妃様が言いました。そんなに、酷い顔をしているでしょうか? と訊き返すと、王妃様は鎮痛に頷きます。


「まるで、最愛の恋人を喪い、死に場所を求めて彷徨う亡霊の様だわ」


 とは、その時の王妃様の適切な比喩の御言葉でした。


 その後、何故か王妃様はアリスの居場所について執拗に聞いて来ました。ここで、初めて知った事でしたが、アリスは王妃様の推薦の下、お父様との許諾を経て、ミッドナイト家に仕えていた様です。


 まさか、アリスが王妃様とのコンタクトがあったとは思いもしませんでした。それに、王妃様がアリスについて語る時の目線や僅かに感じ取れる愛情? の様な情熱も印象的でした。


 哀愁を漂わせて、まるで、我が子を慈しむ様に王妃様は語るのです。そして、共にアリスの失踪について悲観しました。


 残念ながら、二人の関係は聞き出せませんでしたが、特別な何かがあった様に思えました。


 私は、何だか母親が奪われたかの様な寂しさと同時に、同じ人を哀れ、愛する気持ちに同感し、嬉しく思いました。


 そして、心にぽかんと空いてしまった穴を自覚しながら、どうしようも無く嘆くのです。


「——嗚呼、アリス。貴女は、何処へ行ってしまったのでしょう?」


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