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メドゥーサ最終戦③

 『容量超過(キャパオーバー)』だ。私の器に収まる分の、魔力を含めた粒子的な不可視のエネルギーの吸収容量を超過してしまった。それにより、私の身体は内部から破裂し、細胞が暴走してずたずたに切り刻まれる。全身の至るところから穴が開き、そこから大量の血が噴き出た。


 同時に、身体が元の形へ再生すべく、これまでにない速さで『持続回復』が発動されていく。その効力は、破壊された細胞をも再生した。だが、何度再生したところで、私が吸収を止めない限り、破壊は止まらない。再生した細胞が元に戻っては破壊されてを繰り返された。その度に生身で猛獣に喰われたかのような激しい痛みが襲ってくる。


「―――――――――――――!!」


 声にならない悲鳴だけが木霊した。それを遠目に真剣に見つめる視線が対面上に一つ。奇怪な様相だ。それは興味深そうに見ている。地に這う虫が、虎を吞み込むか呑み込まれるかを。


 ――気にいらねえ。


 私を見下すな。試す様な視線で私を射るな。私はお前の玩具じゃない。ましてや、地に這う虫のままではいられない。帰るんだ。お嬢様の元へ。


「だから、こんな所で終われないんだって言ってんだろ!!」


 吸収が終わる。粒子の光線は弾けて跡形も無く消え去った。それを吸収しきった私の魔力総量は大幅に増量した。今なら、下級の魔法でも上級かそれ以上の威力で放つことが出来る。

 

 身体がずたぼろに切り裂かれようが、私はこうして立っている。戦意は消えていない。


「私の勝ちだ……メドゥーサ!!」

「ふふっ……」


 吠える。対して、紫苑の大蛇は妖艶に笑みを返した。

 

 そして、『持続回復』で身体中の傷を癒しきった私は、再びソレに向って肉薄した。

 最終決戦(ラストスパート)だ。もうちゃちな小回りは必要ない。詰め寄るのに三歩も要らない。魔力を脚に纏って、ただ力強く踏み込むだけだ。これで、無駄な歩数は省略される。足場となった地面に大きなクレーターを空け、私は音速を超えてメドゥーサに接近した。

 だが、流石は神話級の怪物というべきか、彼女はまるで動じる事なく、適切な対処を取って見せた。

 その巨大な尻尾を、小石が集積するその足元に叩きつけた。それだけだ。上から降ってきたその大圧によって、散らばる小石は振動する大地によって押し上げられ、宙に舞う。それを、念力の様な何かで、こちらに向けて発射した。


 小石と言えども、飛んでくるその威力は私の肉体を貫通するのに十分なものだ。即刻の対処としては、素晴らしいものだっただろう。だけど、今の私には通じない。


 『魔力障壁』


 その魔法を、私は自分の身体に付与する。そうする事で、私の身体の周囲には魔力で出来た不可視の障壁が張り巡らされた。

 弾丸の如き小石の数々を身に受けながらも、まるで何事も無かったかのように私は駆け抜けていく。その様子を見て、メドゥーサは交戦体制に入った。潔く正面から叩き潰す魂胆らしい。


 私は、残る全ての魔力を右手に注いだ。それを、全て黒い炎に変換していく。


 『黒炎』


 相手を灼き尽くすまで燃え続ける黒魔法だ。黒狼戦の時に、私はそれによって一度片脚を焦がされている。しかし、無限の魔力を包する私の作るそれは、黒狼の作ったものとは比べ物にならない大きさになった。今も、魔力を注ぎ続けているそれは、みるみる内にメドゥーサの身体を呑み込む程に拡大していく。


「さぁ……来なさい!」

「行きますよ……!!」


 雄叫びを上げて前進する。これが、最後の一手になる。お互いに、これで決着が着く事は分かっていた。

 

 メドゥーサは眼光を放った。掠りでもすれば、石化の呪いがかかるそれを。だが、当然私に回避の選択肢は無い。正面から相殺するべく、私は右手を突き出した。その手には、巨大な『黒炎』が添えられたまま。


 紫苑の大蛇の眼光と、全てを灼き尽くす黒い炎が衝突する。途端、ぎしぎしっ、と大地が軋み、大風が吹き荒れた。小石が舞い、木々は倒れ、地形が変形する。


 形容するなら、隕石の如き矢を、鋼鉄の剣で叩き落すかのような剣合。その決着は、長い長い鍔ぜり合いを経て、些少程の差で、後者に天秤が傾いた。


 紫苑の大蛇が放った眼光は相殺されて消え去り、黒炎は再び奔りだす。『黒炎』が、大蛇の身体に付着し、ボォッ、と着火する音が響き、たちまち巨大な大蛇の全身を、黒き炎が包み込んでいった。


 

 ――それを見届けると、私の意識はポツリと糸が切れる様にして、微睡みへと落ちていったのだった。


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