【導者】との盟約
実に久しぶりにダンジョンの外に出ました。日を浴びるのも、同じくらい久しいです。私の出てくるタイミングを知っていたかの様に、メドゥーサちゃんがそこにいました。
「……久しぶりね」
「ええ、本当に久しぶりです。……私がダンジョンに潜ってからこっちではどれくらいが経ちました?」
一応、体感は3週間ほどダンジョンの中にいた感覚だ。だけど、実際の時間がどれ程経過しているかは分かり兼ねます。
「丁度、一か月程籠っていたわね」
それを聞いた私はひどく落胆します。まさか一週間も感覚からずれていたとは……
お嬢様と同じ時間が流れている訳ですので、なるべく時間を掛けたくなかったのが本音でした。
血の気が引いていく私の様子を見て、何かを悟ったのか。メドゥーサちゃんが慰める様に言います。
「ああ。そこは、問題ないと思うわよ。言ってなかったけど、此処も仙界の一部なの。だから、外との時間軸とは大きくかけ離れているわ」
「えっ……!? そうだったんですか? 私、空気が軽いからてっきり元の世界にいたのかと……」
「私もてっきり、【導者】が説明しているのだと思ってたから言わなかったの」
「呼んだか?」
「……って、うわああああ! ふぇ、フェンリルさん一体何処から……」
メドゥーサちゃんの言葉に呼応して、フェンリルさんが茂みから出て来ました。メドゥーサちゃんもそうですが、その巨体で隠密行動が出来るなんて、一体どういう原理なんでしょうね。
そんな私の疑問を些細なものだと捉えたのか、フェンリルさんは無視して続きました。
「人間の少女。アリスよ。お前の勇姿はしかと見させてもらった。そして、お前は見事私の試練を超えた。正直、期待以上だ。此処に来た当初のお前からは、想像も出来ない快挙だ。だが、今のお前には確かな貫禄がある」
「……あ、えっと……その」
唐突に褒められまくって、上手く反応が取れませんでした。ここまで、フェンリルさんはずっと真顔で言うものですから、真意が読み取れないというか、本当に褒めているのかどうかすら分からないのです。
そして、また混乱する私を無視して、無情にフェンリルさんは続けました。
「強き人間の少女、アリスよ。お前を認めよう。そして、約束通り私を認めさせる事が出来たお前には、これから凡ゆる災難が降りかかるだろう。だが、その都度、この【導者】が手を貸す事を、ここに盟約として約束する。だが、努努忘れるなよ。お前がその意思を失った時、私を失望させたその時、必ずや私を動かした代価を払ってもらう事となる。精々そうならぬよう、励めよ」
それだけ言って、フェンリルさんはまた茂みの方へと消え去って行きました。メドゥーサちゃんもそうなのですが、あの巨体でどうやって隠密行動が出来ているのでしょうね? 原理が分かりません。
「また、言いたい事だけ言って直ぐに……もう、ほんとに何なんですか? あの人……!?」
そこで、フェンリルさんの様子に心当たりがあったのか、メドゥーサちゃんが神妙に顔を固めて、まるでハエでも見つけたかのように嫌そうに言いました。
「だって、アリス。今のアナタ、かなり臭うわよ。かなりひどい悪臭ね。正直、私ですら近寄りたく無いわ。こうして、鼻を瞑って耐えるのがやっとなの」
そうして、メドゥーサちゃんは引き摺るようにして、一歩退きました。
「……えっ!?本当ですか!? って、そこで本当に鼻を塞がないでくださいよ!! ひどい!! 折角頑張って来たのに!! それより、人間が一番言われて傷付く言葉って知ってますか?? 知らないですよね? 『臭い』ですよ!! ダメー!! メドゥーサちゃん、私から逃げないで〜!! うわあああああんん」




