リッチ・キング戦②
反撃に投げたナイフが見事にリッチ・キングの身体をすり抜け、まるで空気人間を切り裂いたかの様な虚しい手応えを感じながら、私は後方へと下がりました。
そして、また、次の攻撃を警戒します。
先程リッチ・キングの正体を、肉体の無い霊体であると仮定しました。その対処法に、聖属性の魔法が欠かせない事も。
しかし、残念ながら私には聖属性を扱えません。そもそも、使用者が少ない属性ですからね。作中でも使えるのを言及されたのは、何世代か前の聖女と呼ばれる存在と、この時代の聖女でもあり、主人公でもあるヒロインだけです。
「また、手詰まり……ってか?」
文字通り為す術がない。このままでは、リッチ・キングを倒せない。それでは、この部屋から出られない。リッチに刈り取られるか、餓死するのが成れの果てだ。
(――どうする?)
次第に動悸が早くなっていく。意識し始めれば、一気に焦燥感が募っていった。バラバラになった感情のパズルに、お嬢様というピースを無理やり捻じ込んで嵌めて、焦燥を覚悟に変える。
『死にたくない』から『このまま、死ねない』に早変わりだ。攻略法が分かれば、何と簡単なパズルだろうか。
――私は、自分の感情ですらゲーム感覚に捉えているらしい。
「さて」
と意識を敵の方に戻す。といっても、奴がどこにいるかは知らない。
だが、そろそろ攻撃が来る頃だ……ほら、左から出て来た。今度は、鎌による縦からの薙ぎ……じゃない!?
その瞬間、私の眼にはリッチ・キングが分裂した様に見えた。
――いや、リッチが増えた!? 攻撃の手が二倍に……!!
片方は、縦からの鎌による振り下ろし。そして、もう片方は、サイドからの二本の鎌による挟み込むような横薙ぎの振り。
私は咄嗟に影魔法の『陽光』で、人工的な明りを作り出し、対角線に注し込む影を使って影分身を生成して、黒魔法の『身代わり』を使って、影分身との位置を交換。
――しゅっ、しゅぱっ、ぱッ。
上記の手順の魔法詠唱が、攻撃が届くコンマ一秒の差で間に合い、私と位置を交換した影分身はズサズサに切り刻まれて、消えていった。
「あっ、危なかったぁ~」
嘆息にも似た安堵が漏れる。そして、リッチはまた虚空に消えた。
だが、今の攻撃を受けて、私は突破口に辿りつつあった。
(攻撃をした瞬間の、魔力による疑似実体化。その一瞬がチャンスだろう)
通常の攻撃では魔力で実体化した攻撃の一瞬を狙っても、無駄だ。先のナイフによる攻撃がそれを証明している。物理的な攻撃では通じないのだ。
なら、精神的なその本質から消し去ればいい。
リッチの本質とは、霊体だ。だが、霊体の対処は、聖属性魔法の使えない私には不可能。
なら、実体化する攻撃の一瞬では、リッチの本質はどう変化しているのか?
実体として存在するそれを、果たして霊体と呼べるのか?
霊体でないなら、あの一瞬のリッチ・キングは一体如何いった存在なのか。
――その答えは、『魔力体』である。
「ああ、何だ。なら、簡単じゃないか」
対処法を見つけた私は、実行に移るべく、次の攻撃を待つ。
――しーん。
重苦しい静寂を経て、その時は訪れた。
再び、攻撃に転じたリッチが実体化して攻撃を繰り出す。正面から迎え撃つ素振りを見せると、それは分裂して二体になって、片方は一本の大きい鎌。もう片方は、両手に二本の鎌を持って、同時に私に襲いかかった。
先と同じ上左右からの攻撃。しかし、同じ回避手段は取らない。
冷静に攻撃を見極め、軽く身を翻して最小限の動きで避けた。そして、敵が動けないその一瞬を突く。
――チャンスだ!!
私は、二体のリッチ・キングに向って、手のひらを差し出す。
キリカナンにも見せた魔力吸収の魔法を、ソレにお見舞いした。
「『吸収』!!」




