順当②
Out side
銀色のソレは、一連の戦闘を高台から見下ろしていた。
「やはり、この程度か」
当然の順当だ。少女は元から、あの裏切り者を処せるには至らない。だが、あの少女が純粋に強さを求め、この私を認めさせられたなら、然るべき許可を出してやっても良かった。だが、この結末は些かに。
「期待外れだ」
「それはどうかしら?」
しかし、ソレの言葉を否定する様に遮ったのは、今しがた姿を現した紫苑の巨蛇だった。特徴的なのは、その下半身は蛇のもので出来ており、しかし上半身にあたる部分は人間の身体から出来ていた。似たような造形でいうと、ナーガという半人半蛇の魔物がいるが、それより遥かに巨大で、纏う危険の規模が遥かに大きい。
「……お前は、確かメドゥーサと言ったか? あの性悪女の妹の」
「それは、どっちを指しての言葉かしら? まぁ、今はそれはいいわ。先ずは、初めましてね。それとも、お姉様がお世話になってます……かしら?
―― 白狼の長。【導者】、フェンリルよ」
「ふん。お前の姉の世話だと? 冗談でも笑えぬわ。姉妹揃って冗句が下等よな」
「ふふっ。それは、失礼したわ。姉が迷惑を掛けてごめんなさいね?」
「よい。それで、何用だ。半人半蛇の怪物。メドゥーサよ」
「何用でも無いわ。私は、ね。ただ、うちのアリスが用事あるみたいだから引き留めただけよ。あっ、強いて言うなら、勝手にエウリュアレお姉さんの魔法陣に細工をして転移先の座標をずらされた事への文句を言いに来た……かしら?」
半蛇の怪物の、後半の言葉を無視して、ソレは、神妙な面持ちで、訊き返した。
「……アリスとは、あの小娘の事だろう? それなら、残念ながら期待外れだ。私が足を止める必要性は感じないがな」
「そう決断するには、まだ早いわよ。もう少しだけ見ていかないかしら? きっと、アナタの望む面白い物が見れるわよ」
淡々と語る半蛇の怪物に、ソレは疑問を覚えた。
「……随分と、冷たいのだな。アレはお前らのお気に入りでは無いのか?」
「ええ。だけど、勘違いしないで頂戴。ワタシは今、心配で仕方がないわよ。だけど、それ以上に彼女を信じている。それだけの事よ」
当然の様に言いのけるメドゥーサ。だが、ソレにはやはり理解が出来なかった。心配ならそうと助け立ちすれば良いものを。
眼下の少女は、片脚を焼き焦がされ、無様に這いつくばっている。
「だが、あの小娘は今や四肢の一部を捥がれた。無力な人間の小娘が、片脚を失って、どうやって黒狼に一矢を報いるというのだ」
ソレの指摘に、半蛇の怪物は苦渋の表情を見せた。
「それはワタシにも分からないわ。だけど、お姉様の予言に、アリスの死は存在しない」
予言。とは、ソレの同胞である【均衡を守る者】ステンノーの能力の事だろう。あの忌ま忌ましい女蛇の事は信用出来ないが、その能力は信用に値するものだった。
「見てなさい。アリスの闘志はまだ燃え尽きていないわ。これくらいで、諦める程度の人間に、ワタシ達は惹かれた訳じゃないのよ」
「……殊勝な」
そう自信気に語る半蛇の怪物に、ソレは怪訝を浮かべた。同時に、あの裏腹の読めない同胞と、その妹二人の信用を勝ち取り、こうとまで言わしめる人間とは如何なるものか。僅かに興味が唆られたのも嘘ではない。
ここは一つ怪物の言葉に乗せられて、眼下の戦いを最後まで見届けるぐらいはしてやっても良いかも知れない。
そう思い、ソレは再び、火蓋の切られた戦場へと、視線を向き直した。




