修行開始②
「今のはヒヤヒヤしたわ。だけど、残念。ワタシにはもう一つの武器の魔眼がある事を忘れてないかしら?」
メドゥーサちゃんが、感嘆を含めた声で語る。当たったかと思った鉄球は、どうやら、直前で石化の魔眼によって石化され、粉砕されたみたいだった。
「……はぁ、はぁ。そんなの反則ですよー」
「それを、魔王にも言うのかしら?」
「うっ……」
気休め程度の皮肉はメドゥーサちゃんの正論パンチによって打ち砕かれる。
ターン制のゲームとは一味も二味も違う実際の戦闘。コマンドでキャラに指示を出すだけのゲームと、実際に身体を駆使して戦うのでは感覚が違うのは当然だ。それは分かっている。
よって、自分に残されたのは、メドゥーサちゃんの能力を把握しているという、知識面でのチートだけだった。だが、知識はあってもそれを対策する脳と手段が無ければ無いも同然。
今の私には後者が足りていなかった。修行が本格化して二日目。早くも私の心は折れつつある。だが、メドゥーサちゃんの一言で、そんな弱音は強制的にも唾棄するべき物へと変わる。
「ここままじゃ。アナタのお嬢様を守れないわよ?」
「……!! わ、分かってます。もう一度、お相手お願いします!」
☆★☆★☆★☆★
「今日はここまでね」
「ぜぇ、はぁ、ふう……あ、ありがとうござましたっ!」
メドゥーサちゃんの合図と共に、午後の訓練は終わり、夕食を取ったらまた就寝に付く。そして、また朝早くに起きては祠の周りを三週し、午後からはメドゥーサちゃんと組手。
そんな生活も、既に十日目を迎えていた。その十日目も終わろうとしている。
これから寝て起きたら十一日目に入る。期限の三カ月まで刻一刻と期限は迫っているというのに、二日目の絡みを入れた一手以来、特に有効な手段を見いだせず、悉くメドゥーサちゃんに敗れていました。
「うぇええん」
床に就きながら、これからの不安に思いを馳せ、思わず涙が出そうなのを堪えます。此処に来てから三週間が経ちます。同時にそれは、私がお嬢様に会えていない期間でもありました。
「会いたいよ。お嬢様ぁぁ」
修行中は大変でとても他の事を考えている余裕はありませんが、こうして一人になった時間などに、思いが溢れてどうもダメな様でした。
――お嬢様に会いたいです。
その一心だけが、私の胸中に漂っては、自制によって圧し潰される。
――その御尊顔を拝みたいです。
次第にそれは禁断症状となって、心を苛みます。
ですが。
「……ダメだよ私。ここでこの寂しさにも勝てない様じゃ、とてもお嬢様なんて護れない。このままじゃ、最悪お嬢様は死んでしまうんだ」
言い聞かせるように吐き出します。
ここで挫けば、金輪際お嬢様に合わせる顔が無い。
それでいいのか? と。
自問自答を繰り出す。
その答えが出る頃には、私の心は静まりを見せた。
――いつだってそうだ。転生する以前から、私の心には常に、お嬢様がいる。
辛い時、寂しい時、楽しい時も。私の頭の中では、常にお嬢様がいる。
お嬢様の為を思えば、何だって出来る気がするし、自己犠牲すらも厭わない。
「……これも、推しだからだよね?」
また自問する。
しかし、自答は出来なかった。
……心が痛かった。
「……この気持ちはなに?」
答えは出ないまま、私は夢の底に落ちていきました。




