修行の前に②
蛇の祠、その奥。アリスとメドゥーサには通した事の無いその一室で、ステンノーは祈りを捧げていた。
「ウロボロス様、どうか、ワタクシに……」
「…………………………」
「……………………」
「………………………………………………………お姉」
「……って、エウリュアレじゃない。いるなら言いなさいよ~」
「今、声かけたぞ姉上」
「そういう問題じゃないのよ。もう、プライバシーがないわねえ」
「此処に入れるのはお姉の他にはアタシだけじゃないか。お姉一度祈り出したら、三日は出てこないし、アタシが来なきゃ餓死する所だったんじゃないか?」
「……もう三日が経ったのね。アリスが此処に来てから一週間。修行の方は順調かしら?」
「……順調って言ったって、ここ数日は体力作りばかりで実戦は今日からのようだぜ。まぁ、少しは成長している様だぜ。レベルは上がってないけど、身体の使い方が出来て来てるわ。凄いセンスだぜ」
「……エウリュアレ。獰猛な方の裏の口調が出てるわよ。まぁ、それはさておき。訊いておきたい事があったの」
「ああ、どうしてアリスの交渉に応じたか? だろ」
「いいえ。それは別に良いわ。ワタクシは、アリスの心を視た上での、アナタの彼女に対する意見を聞きたいわね」
ゴルゴーン三姉妹にはそれぞれ、個別に特別な固有能力が与えられていた。
長女のステンノーは『予知』の能力を。
次女のエウリュアレに与えられた能力は『読心』であった。
彼女は、『読心』の能力を通してアリスの心を垣間見ていた。
「……姉上も気付いてるか? アイツ、他人をまるで機械装置か道具にしか思ってねえ。というか、本人でも自覚ねえんだろうな。致命的なのは、それが他の人間に対してだけじゃねえって事だ。自分自身の命ですらゲーム感覚で軽く見てやがる。だから、あんなにも軽く身を捧げるだなんて言えるんだ……それが、ひどく胸糞悪いぜ」
「ふふっ、エウリュアレは彼女を、アリスを心配しているのね?」
「ばっ、! そんなんじゃねえ!」
「全く。素直じゃないんだから……」
呆れるように頭を抑える素振りを見せてから、ステンノーは続ける。
「確かに、彼女はゲーム感覚で物事を捕らえている様だわ。でもね? それが、あるモノに触れた時だけ、醜いくらいに執着を見せつけるの。正しくは、そのあるモノに関連する事以外は、彼女にとってはゲームの中でしかないのでしょうね。ワタクシ達でさえも」
「……愛しのお嬢様ってやつか。ったく、狂ってやがる。酔狂だぜ。人間の女にそんな価値があるかよ」
「アリスだって、人間の女の子じゃない?」
「はっ! アイツは違えだろ。アイツぁ、怪物を飼ってやがるぜ。どの道、一カ月後には分かる事だろうさ」
「アナタが褒めるなんて珍しいわね。それほど秀逸な戦闘のセンスがあるという事かしら?」
「ってよりかは、『殺し』に連なる圧倒的なセンスだな。まぁ、その話は追々だ」
苦笑気味に言うエウリュアレ。直ぐにその口は表情は戻され、神妙な表情のままエウリュアレは言った。
「オレの方からも、姉上に聞いておきたい事があったんだ」
「……その前に口調をどうにかしなさい。って言っても、もう遅いわね。何かしら? 改まって、聞きたい事だなんて」
「……どうして、メドゥーサにアリスを会わせたんだ? 今回の対面、アタシと姉上がいれば良かったじゃねえか。無暗にメドゥーサの存在を明かさなくたって……」
「違うの。エウリュアレ。メドゥーサとアリスの出会いは、ワタクシの意思じゃない。強いて言うなら、『運命の意図に紡がれた邂逅』であり、メドゥーサきっての要望でもあったのよ」




