ゴルゴーン三姉妹との交渉①
「【均衡を保つ者】、そして、ゴルゴーン三姉妹よ。私と交渉をしましょう」
不意に発された私の言葉に、場の雰囲気は一気に静まりを見せた。
気が付けば、ゴルゴーン三姉妹の次女、エウリュアレさんも戻って来ていて、大量の料理をお皿に乗せて卓に並べている。
そのまま、彼女は興味深そうに話しに割り込んで来た。
「へぇ、面白そうな話してんじゃん~。ゴルゴーン三姉妹に、って言ったわね。それはアタシにも関係がある話って事だよな?」
「わわっ!? エウリュアレさんいつの間に!?」
「つい今戻ってきたとこよ、それで? その交渉って何よ。アタシにも聞かせなさい」
ほ、本当に今しがた戻ってきたばかりだろうかこの人。
なんだか、ずっといたのではないかと思う。
根拠は無いけど、そう思わせる雰囲気があるんだよね、この人。……この蛇か?
「え、ええ。先程、ステンノーさんからもう一人の転生者について聞きました。ステンノーさんは、私に彼女をどうにかして欲しいと思って、今日この場に呼んだのですよね?」
「ええ、そうね。その認識で良いわ」
ステンノーさんが頷く。
「……では、其方の条件は、私の協力として、私からも皆さんにお願いしたい事があるんです。これは、交渉です。請け負って頂けますか?」
「……へぇ、アタシ達に交渉ね。それは、自分の立場を分かっての言動かよ?」
威嚇する様に、言葉を強めてエウリュアレさんが訊き返しました。
「はい。私如きのちっぽけな命一つ。貴女達の手に掛かれば塵も同然である事は重々承知しています。しかし、先程ステンノーさんは言いました。元老院の四体は迂闊に世界に干渉してはならないと。私の存在は、世界にとって特異であれど、簡単に切り捨てても、大きな影響を及ぼしかねないでしょう? つまり、貴女達は私を害せない……」
「へぇ」
「ふふっ」
「ふわぁぁあ」
私の推測に、それぞれエウリュアレさんは感嘆を。ステンノーさんは意味深気に微笑みを。メドゥーサちゃんは欠伸を漏らした。
「でも、それはお姉様がアナタに手出ししないだけよね? アタシがアナタを殺さない道理はないじゃない?」
「いいえ。エウリュアレさんは、そんな事しませんよ。私、信じてますから」
「……!? へぇ……」
エウリュアレさんは低く、唸った。
「アナタ、単純ってよく言われないかしら?」
「それ、さっきも聞かれたような……」
「あ、そう。いい? お嬢さん。発言には対価が付き纏うものよ。それが嘘なら、アナタは大事な何かを失う事になる」
「わ、私は本当に……!?」
――エウリュアレさんを信じて……
そう言おうとして口を噤んだ。
ここでどれだけ軽率に発言をしても、それを証明する手段が無い。
信じている、といって向こうもそれを信じてくれる程、人間関係は簡単に出来ていない。
それだと、同じ言葉の繰り返しをするしかない。しかし、同じ言葉を口にすればするほど、信憑性は無くなるし、言葉の価値も薄くなっていく。
これではジリ貧だ……ここでエウリュアレさんを説得する方が、反って胡散臭いし、口の軽いやつだと思われてしまう。
――そう思って、黙り込んでいたのだが。
「……そのようね」
突然、エウリュアレさんは納得した様に口を開いた。
「合格よ。お嬢さん。いえ、ありすんと呼んでもいいかしら? 試す様な事をしてしまって悪かったわね」
と、急にエウリュアレさんは謝る。頭も下げていた。
どういうこと? と混乱する私に構わず、エウリュアレさんは言葉を重ねた。
「それじゃ、ありすん。テストに合格したアナタには、アタシからその要望を聞く権利をあげましょう。言ってみなさいな。アタシ達への交渉の条件。アタシ達が協力するに値する――その代償を」
ふと、エウリュアレさんが人間の妖艶な人の様に、手を口に当て、その狡猾な笑みを隠す様な仕草をしているように見えた。
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