メイド、クソメガネをボコす③
「な、なんだと!」
「と、飛んでますわ!?」
「ほほう、これは実に興味深いで御座いますな」
皆口々に浮遊魔法に驚いている様です。なんだか見世物になった気分で、宜しくないですが、多分他にこの魔法を使える人は居ないでしょうし、後で散々聞かれるのでしょうか。
それはさておき、今の私は魔法で宙に浮いている状態です。三人には下から見られるわけですので、パンツが覗けて見えてしまうと大変ですよね。ですが、残念。私はキリカナン君のいるこの場でサービスするつもりは毛頭ないんです。しっかりと丈が長いスカートを履いて来ましたよ。あ、やばっ! 急に風が吹いて……
――スカートが捲れそうになる寸での所で、私はスカートを抑える事に成功しました。
「あ、危なかった~」
「き、貴様! 空中は卑怯だぞ。降りてこい!」
なんて一悶着していると、キリカナンが怒号を飛ばしてきました。
「へっ! 空中にいる敵に対して何も出来ないんですねぇ。鳥獣系のモンスター相手にどう対処するつもりなのでしょうか。この無能クソメガネ」
「ぐぬぬぅ、キサマァ、その減らず口をっ!」
「べろべー、閉じませんよ~だ。でも、このままじゃ相手になりませんよね。貴方の使う魔法の系統は雷と地でしょう? しかし、どちらかというと、地属性の魔法の方が上等に使いこなす。しかし、私はこうして空中にいる。これでは、対抗手段は先のヘボい『雷撃』くらいですか」
「へ、ヘボッ……馬鹿にしているのか!?」
「ええ。そうですよ。貴方の器みたいに、しょうも無くて小さいって意味ですッ!」
私は宙に浮いたまま、空を蹴ってキリカナンに肉薄する。同時に止めていた魔法の詠唱を再開します。先程の『吸収』によって奪った魔力を使っての倍返しの魔法。
一瞬遅れて、キリカナンが反応しました。彼は高速で魔法を詠唱し、放ってきます。
――キタ!! これを待っていたんです。
しかし、魔法の技術はさておき、詠唱の早さだけは見る目がありますね。磨いていけば魔法の早打ちで良い記録を狙えるのではないでしょうか?
と、敵ながら称賛に値しますが、些か練度不足が目立ちます。詠唱時間が短く魔力が余り込められなかったのかヘボヘボの『雷撃』が飛んで来ました。
ぶっちゃけ直に当たった所で大して痛くは無さそうですが、折角魔力の塊を放ってくれたんです。有難く頂戴させて頂きましょう。
私は、飛んでくる『雷撃』の方へ左手を突き出して、無詠唱でその魔法を発動させました。
――『吸収』です。
「なッ!? 馬鹿な! また魔法が消えて……」
キリカナンの放った二度目の『雷撃』は、一度目と同じくして虚空に消え去り、私の糧となったのです。
これで『吸収』によって蓄えた『雷撃』のストックが二つ分。
吸収して蓄えられるなら当然逆の事も出来て然りですよね?
私は蓄えていた二つの『雷撃』を掛け合わせ、詠唱を唱えて『吸収』とは正反対の魔法を使い、彼から頂戴したその魔法を貯蔵庫から取り出しました。
やられたらやり返す。
――倍返しだ、ってね。
へなちょこだったキリカナンの『雷撃』も、二つ分ともなればそこそこの大きさになりました。
「な、なななな……何故、貴様が雷の上級魔法、『極雷撃』を使えるのだ!?」
「ばーか。これは貴方が放ったへなちょこ『雷撃』を掛け合わせただけのものですよ。私の作る『極雷撃』はもっとデカいです。一緒にしないでください」
今のは『極雷撃』ではない。
――ただの『雷撃』だ。ってね。
――伝わります?
「あ、あり得ない! 貴様どんな手品を使っている!? 反則だ! 規則違反だ! ま、まさか黒魔法を使っているんだな!? そうなんだろう?」
前者の二つに関しては見当違いですが黒魔法を使っている点については正しいですね。まぁ、ルール違反ではないので、責められる覚えは無いですが。
ただ、世間ではすこーし黒魔法は忌々しきモノと言われています。実際にはただ少しだけ強力なだけで、上手く制御して使えば身体強化魔法の延長線上にあるだけのものでして、そんな危惧される程の代物では無いんですよね。
なんて私如きが何か言った所で人々の間で定着された常識が覆る訳ではありませんが。
私は蒼褪めた顔で固まったままのキリカナンに向って、へなちょこ×2の『雷撃』を放ちました。
ソレは、ビリリッビリビリ、と嫌な音と共に前進していきます。
そこで漸く不味いと思ったのか、彼は遅れて詠唱を唱え始めますが、彼の詠唱が唱えられるより先に『雷撃』がキリカナンの身体に直撃しました。
びりりしゃぁ! と感電した一際大きな音が響き、『雷撃』二つ分の電撃が彼を襲います。
――何十万ボルトでしょうかね。
やがて、電撃による攻撃が止んだ頃にはキリカナンの髪は爆発した様なアフロになっており、翠緑色だった彼の髪は色素が落ちて、真っ黒に焦げていました。
そして、彼は膝を付き、そのまま倒れる様にして地面とキスをしたのです。
「そ、そこまで! この決闘。メイド、アリスの勝利とする」
セバスチャンさんの決闘終了の合図だけが、静寂と化した森へ木霊しました。
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