メイド、クソメガネをボコす①
「あ。アリス! 本当に大丈夫なの? キリカナン様、本気で決闘で貴女を殺そうと……」
お嬢様が不安気に訪ねて来ました。心配してくれているのでしょうか? でしたら、申し訳ない気持ちで一杯です。
「大丈夫です。お嬢様。私、腕っぷしには自信があるんです! あ、一度言いましたっけ? ともかく、絶対に負けないし死ぬつもりもございませんので安心なさってください!」
とは言いますが、決してお嬢様に心配を掛けさせるつもりはありませんでした。今回のこれは明らかに私の独断専行で、お嬢様の意にそぐわない行動である事も分かっています。お嬢様は穏便な解決を求めておいでに見えましたので。
しかし、あのままあいつの言うとおりにされる事だけはもっと嫌でした。お嬢様に対する身分を超えた不遜な態度、狼藉。何よりお嬢様を汚れ物の様に扱うあの物言いが決して許せませんでした。極め付けは、まるで拾ってやろうとでも言うかの様な婚約の打診です。
お嬢様が婚約する事への嫉妬が必ずしも無いとは言えませんが、仮にお嬢様が結婚して将来を任せられる方がいたとしたら、私は迷わず祝福する気概でいます。お嬢様には、誰よりも幸せであって欲しいから。
だけど……それは決して貴方では無いのですよ。キリカナン。
この決闘に勝利したらいい感じに去勢ネタで脅して、お嬢様から身を引いて貰う様提案するつもりです。命までは取りませんよ? あれでも攻略対象の一人。ストーリーが始まるのはお嬢様が17歳になって学園へ入学する半年後から。
せめて、その三年間の学園生活が終わる前にキリカナンに居なくなられてしまってはストーリーに如何いった影響を及ぼすか分かりませんからね。
――それを言うと、攻略対象の一人であるアルシェードは居なくなったわけですが、今後の展開は一体如何なってしまうのでしょうか? 自分の事だというのに今まで盲点でしたね。その辺の抜けた穴分の埋め合わせが出来る人物を探すか、自分で埋めに行かなければならないかも知れません。そこら辺は今後登場するであろう主人公の動きに沿って考えるとしましょう。
さて、話を戻してキリカナンとの決闘ですが、ミッドナイト家の屋敷の前に佇む森を抜けた先にある少し広い空き地でする事となりました。何故そんな所で行うのかと言うと、私の提案でそうして貰うように取り計らったからです。
理由は、屋敷の庭を汚したくなかったからですね。誰とは言いませんが、ヤリ〇ン男のイチモツが飛び散る可能性だってありますし、その前に恐怖で失禁されてしまっても堪りません。場合によってはメイドの身分を剥奪される覚悟でキリカナンに対し、調教という名の拷問を行う可能性だってあります。
そんな現場を同職の普段からお世話になっているメイドの先輩方や旦那様方には見られたくないでしょう? 今回ついてくるのは、当事者の私とキリカナンを抜いて二人だけ。決闘で命運が分かたれるお嬢様と、決闘の見届け人として、旦那様の専属執事であり、先代からミッドナイト家に従事し支えて来た、ベテラン執事のセバスチャンさんです。
そんな訳で、私達は森奥の不自然に広がる空間へとやって来ました。陽光が木々に遮られ、まるで穴の開いた洞窟の様に、この空間の真ん中にだけ光が差しています。なんだか、マス〇ーソードでも刺さっているかの光景を連想しますが、生憎何も無いですね。
お嬢様には邪魔にならない様、木陰の方へ避難して貰いました。セバスチャンさんには、決闘の開始の合図を宣言して貰った後、お嬢様を守る様に言い伝えてあります。
準備は万端。後はキリカナンを待つのみ。かと思いきや既に到着している様で、木陰から出て来て私を見つめるなり悪態を吐いて来ました。
「ふん。逃げずにやって来たことは誉めてやろう。だが愚かだ。まさか自分から死にに来るとはな」
「うるせーぞ、下半身チー牛。愛しの息子とは別れを済ましてきましたか?」
後ろの方でくすっ、と漏れ出た様な笑い声が聞こえて来ましたが気の所為でしょう。キリカナンにも聞こえていたのか、顔を赤くして癇癪を起していますが、私は気にせず続けました。
「お嬢様に歯向かう奴はどうなるか。不肖ながらこの私がたっぷりと、教えて差し上げます♡」
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