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キャロル嬢とデート

 キャロル嬢の乱入により、議談どころでは無くなった私と伯爵は、一旦会議を中断する事にした。だが、キャロル嬢の発言により、伯爵も私の正体を認めてくれた様で、とりあえずは前向きに検討するとの事で、その場は締め括られた。


 しかし、その際に放ったキャロル嬢の発言がこうだ。


「私もアルシェード様の臣下になる件には賛成ですわ。ですが、一つだけ条件がありますの」


 あの場で即座に交渉に入れるその胆力と頭脳や恐るべし。十六歳の私より三つも幼い少女なのに、よく出来ています。そう思い、私の中でキャロル嬢の評価が上がっていたのですが、問題のその条件というのが……


「アルシェード様と一日デートをさせて下さいまし!」


 と、なんとも意表を突くものだった。正直、その発言の裏腹が掴めませんが、危険を顧みず何を得られるでしょう。私は二つ返事で承諾しました。


 そして、今に至る訳です。


「あ、見て見て! アルちゃん。これ、東国の御菓子だそうよ! 確かチャガシ? というのかしら」


 キャロル嬢が、店頭に並ぶ日本でよく見る抹茶の御菓子を指差して、興奮気味にはしゃぐ。すみれ色の美しい髪が、吹き抜く風に揺すられる。


 『アルちゃん』というのは街中で本名を呼ばれては敵わないと案じた私が、彼女にだけ呼ばせている愛称だ。


「ああー、抹茶の茶菓子ですね。もしかして、東国のお菓子が好きなのですか?」


「ううん。珍しいから気になったの! 美味しいのかな」


「ううーん。甘さの裏に苦みがあって、もし苦いのが嫌いでしたら、キャロルちゃんにはまだ食べられないかも?」


「詳しいのですね? 東国に行った事がおありで?」


「いいえ、母上が東国の御菓子を好んで取り寄せるので、そのお零れを貰う事があるんです」


「そうなのですね。王妃様にそんなご趣味が……」


「キャロルちゃん、しーっ!しーっ!お忍びで来てるんだから正体を悟られる様な発言をしない!!」


「あっ、も、申し訳ありませんわ! わたくしったらつい……」


 注意喚起をすると、素直に謝ってくれました。素直な娘です。その後も、私はキャロル嬢と色んな場所でデートをしました。近くの海岸で人魚の歌姫の歌を聴いたり、悲哀なラブストーリーの演劇を見たり、終いには街一番の繫華店で美味しく料理を頂きました。


 そこで、私は兼ねてより気になっていた事を、彼女に聞いたのです。


「キャロル嬢。どうして、一目で私が誰か(アルシェードと)分かったのですか?」


「ええっ? だって、アルシェ……アルちゃんはアルちゃんじゃないですか?」


「はぁ……説明になってないような」


「ううーん。詳しくはわたくしにも分からないのですが……雰囲気? が昔のアル様のままでした。だからでしょうか?」


「そこで、私に訊かれても……まぁ、でも。そういう事だったのですね」


 本当に正しく理解したかは分かりませんが、きっと長年はぐれていた息子を一目見ただけで判別する母親の様な、不思議な知覚能力が彼女にはあったのでしょうね。


 キャロル嬢は過去にアルシェードに助けられて以来、その人柄を慕ってきた様に見えます。


 こんなにも慕ってくれる良い子が近くにいて、そして美しい婚約者もいて、何故クソ王子は平民の主人公に現を抜かしてしまったのでしょう。


 ……まぁ、乙女ゲーですからヒロインに堕ちるのはゲームとして当然でしょうけど。現実的に生きていたら、婚約者を裏切ってまで他の女に移る事自体、やってはいけない事だと分かりますでしょうに。


「アルシェード。貴方は罪な男です」


「……アルちゃん、何か言いました?」


「いいえ。何でもないです。今日は楽しかったですね」


「ええ!」


 そう言って微笑む彼女の表情には、形容し難い美しさがあり、私はその笑顔に唯々見惚れていたのでした。


 

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