贖罪①
祝100話記念です!! 読んでくださる皆様本当にありがとうございます♪
あれから、お嬢様は三日三晩ほど眠っていました。昨日、漸く目を覚ました事で、重苦しかった屋敷内は、一気に安堵に包まれます。
あ、因みに私の姿は一晩眠ればアリスに戻りました。
そんな訳で、キリカナンによるお嬢様誘拐事件は無事終わりました……と言いたいところですが、まだ後始末が残っていました。というのも、今回の件で、メイド長の裏切りが露見しました。私が去った丁度、九か月も前から、キリカナンに家族を人質に、私の帰還した情報を流すよう言われていたようです。旦那様が調査を雇っていましたが、その前にメイド長、ジゼルさんの口から懺悔の吐露がありました。これが一つ目の後処理です。最終判決の現場として、私を含めた、お嬢様。旦那様、そしてメイド長本人の四人で、旦那様の財務室へ訪れていました。
「何か、弁解はあるか? メイド長ジゼルよ」
「いいえ、何もございません」
旦那様が荘厳な雰囲気で切り出しました。その威圧感に屈する様子は無く、メイド長は依然とした態度のまま、罪を受け入れようといった面持ちでした。
「……そんな!? 嘘よね? 嘘と言って! ジゼル!!」
お嬢様が、メイド長の弁解を諦めたかのような、あるいは罪を認めるかのような様子を見て、沈痛に口を開きます。メイド長の懺悔を既に聞いていた私は、この際沈黙に徹する事にします。
「いいえ、全て真実なのです。私は、公爵家に仕える身でありながら、あろう事かその信頼を裏切った挙げ句、お慕いするお嬢様の身を敵方に売ってしまったも同然です。救いは、必要ありません」
「そ、んな……私は……」
尚も認めたくないのか、頑なになるお嬢様を見て、今度は旦那様が口を挟みます。
「ジゼルよ。先代の当主の頃から、お前には世話になっていた。間違いなく、このミッドナイトの屋敷において、お前は最も信頼を得た給仕であっただろう。何故、人質を取られたぐらいで裏切ったのだ?」
「お、お父様……!! そんな言い方は!」
父の発言を諌めようとするお嬢様でしたが、旦那様が『黙っていろ!』と珍しく大声で怒鳴ると、萎縮したように、お嬢様は下がって行きました。
これには、私もびっくりしました。あの、物静かな旦那様が声を感情のままに声を荒げるだなんて……その表情からは、静謐な怒りが見て取れました。
メイド長、ジゼルは先代の当主の世代からミッドナイト家を支えて来たと聞きました。年齢的にも、旦那様はジゼルメイド長に、幼少期から身の世話をされていたのだと伺えます。長年を共にしてきた仲なのですから、当然全幅の信頼を置いていたに違いありませんでした。
そんなメイド長に裏切られたとあらば、憤慨する気持ちも理解は出来ます。それも、娘に危険が及ぶという、旦那様にとって最も寛容のし難い反逆行為であったのでしょうから、その怒りは想像も出来ない程のものでしょう。
「申し訳……ございません」
しかし、メイド長はただ無意味に謝罪するのみで……それ以上の釈明をするつもりは無いようでした。




